2ntブログ

2005-11

前のページ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ぼくと彼女の、最後の前の晩 (最終回)

ぼくと彼女の、最後の前の晩 (最終回)

 翌朝は月曜日だった。
 先に起きたぼくは顔を洗ってからキッチンに向かい、フライパンに火をかけ、トースターとコーヒーメーカーをセットし、暖まってきたフライパンにベーコンを敷いて上に卵を落とし、その上にチーズをかぶせ、蓋をして蒸し焼きにする。素早くレタスをちぎってボウルに放り込み、ドレッシングをかけ、ぼちぼち火が通ってきたフライパンの中身を皿に移し、焼き上がったトーストを別の皿の上にのせる。冷蔵庫から紙パックの牛乳をだす。マグカップに牛乳とコーヒーを半々にいれ、トーストにバターを塗り、朝食をはじめる。
 そこの頃には、たいていは寝癖かなにかつけた彼女が目を擦りながら起きてきて、彼女が顔を洗っている間に新しいベーコンエッグとトーストを用意する。。。
 そういう、今までに何百回と反復した、もはや儀式化した動作を、その日の朝も、ぼくと彼女は反復した。
 朝食を摂りながらの、他愛のない世間話。これも、いつもとなんら代わりばえのしない、なんら劇的なところがひとつもない、平凡な朝だっだ。
 その後、ぼくはいつも通りに出勤の支度をし、彼女は運送屋を迎える準備を始める。ぼくが出勤してしまえば、たぶん、ぼくらが顔を合わせることは、二度とない。その点が、その日の朝とそれまでの朝を隔てる、大きな相違点だった。だが、朝食の席では、ぼくも彼女も、そんな話題には一切ふれず、極力、いつもと同じように振る舞った。
 朝食を終えたぼくはスーツに着替え、鞄を用意し、いつもの通り、キッチンのテーブルで新聞を読んでいる彼女に、
「行くよ。時間だから」
 と、声をかけた。
「ん」
 彼女は新聞から視線をあげ、立ち上がり、玄関までぼくを見送る様子を見せた。
「いってらっしゃい」
 普段、彼女が玄関まで見送りにくる、ということはないのだが、まあ、最後くらいは、という気持ちはあったのだろう。
「いってきます」
 玄関で靴を履いて、彼女に向き直って、ぼくは最後の挨拶のつもりで、そういった。
「いってらっしゃい」
 彼女は、挨拶をさっきもした挨拶を反復する。それからぼくの首に手を伸ばし、
「ネクタイ、曲がってる」
 と、直した。それから、ぼくの目をのぞき込むようにして、一度目を伏せる。
 それからなにか言いたげに口を開いて、でもなにもいわないまま、口を開閉させる、という動作を、二度、行った後、
「君。やっぱり、残酷だよ」
 と、ため息まじりにいった。
「今まで一度も、わたしを引き留めなかった」
「引き留めたら、考え直したのか?」
 そう問い返した時、ぼくはどういう顔をしていたのだろうか? 少なくとも、そのときのぼくの声は、震えていなかったと思う。
 彼女は首を振った。
「たぶん、君になにをいわれても、結果は変わらなかったと思う」
「では、やはり無駄だったんだな」
「そうだね」
 ぼくらは向かい合って、ほんの数秒、視線を落としていた。やがて、どちらからともなく、
「いってきます」
「いってらっしゃい」
 最後の言葉を交わして、ぼくはぼくのマンションを後にして、職場に向かった。

 それが、ぼくが彼女をみた最後になった。
 最初にお断りしたとおり、この独白には、気の利いたオチも洒脱な趣向もなにもない。ないない尽くしで誠に申し訳ない限りだが、ぼくと彼女の関係と物語は、こうして終わった。

[「隣の酔いどれおねぇさん
 or
隣の酔いどれロリおねぇさん」に続く、……かもしれない]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
NEWVEL ranking HONなび ranking





ぼくと彼女の、最後の前の晩 (10)

ぼくと彼女の、最後の前の晩 (10)

 彼女の反応には構わず、ぼくは彼女を攻め続ける。彼女の中に入れた指を激しく動かしながら、彼女のクリトリスを舌と歯で刺激する。
「あうぅ。あふぅ」
 彼女が慟哭に近い喘ぎ声をあげはじめる。
「やぁああ! いあやぁ! いやぁ!」
 最後にひときわ大きく叫んだかと思うと、そのままくたりと脱力して、動かなくなった。
 汗まみれになって胸を上下させるばかりになった彼女から、体を離そうとすると、彼女の手がぼくのほうに延びてきて、ぼくの手首を、がっちりと握る。
「……駄目……最後だから……最後まで……」
 ぼくの手首を掴む手の力は、すぐにでもほどけそうなほど弱々しいものだったが、荒い息の下で、乱れた髪の隙間からぼくを見据えてそういう彼女の声と目の光には、抗いがたい力があった。
「……まだ、できるから……君、まだいってないし……最後まで……お願い、最後まで……」
 彼女の懇願に逆らうことができず、再び正常位で彼女の中に挿入すると、彼女の目尻から、うっすらと涙がこぼれた。
「……動いて……」
 彼女の上でぼくが蠢きはじめると、ぼくの動きにあわせて、彼女が、息を吐き、吸う。ぼくの律動は徐々に加速し、彼女の呼吸は、動物じみたうめき声に近いものになる。

 そのときも、いつものように汗まみれになりながら、ぼくらはお互いの体から快楽を限界まで引き出そうとしていた。
 いつもと違っていたのは、これが最後の行為だと二人とも知っていたことだけだ。

 やがて、ぼくの動きが限界まで早くなり、彼女の声が「あぁああぁああぁ」という
尾を引くものになると、彼女は再び達したらしく、全身をガクガクと痙攣させてぼくにしがみつき、硬直した。
 ぼくのほうも、彼女の硬直が数秒ほど地付いた時点で、彼女の抱擁をふりほどいて彼女の中から自分を引き抜き、彼女の体のおなかの上にに射精する。いつもより多い量の精液が、やけに長々と出ているように感じた。
 あたりは、ぼくと彼女の汗の臭いと、彼女とぼくの局部から分泌された体液のむっとするような動物臭に包まれ、ぼくらは、しばらく休んでから、また風呂場にいって体を洗わねばならなかった。

 そしてその後は、お互いなにもいわず、服を着たまま寄り添って、翌朝までぐっすりと眠った。

[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
NEWVEL ranking HONなび ranking




前のページ
このページのトップへ