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競泳水着の誘惑 (3)

競泳水着の誘惑 (3)

「柏のやつ、堺のを扱い慣れているな」
 飯島舞花はわりと真面目な声でかなり不謹慎な内容を、栗田の背後から囁く。
「あ。握りながらキスした。堺も、スカートの中に手を入れてる」
「いちいち実況中継しないでください。
 悪趣味ですよ。そろそろ離れましょうよ」
「うん。堺の、意外に立派そうだな」
 一応頷きはするのだが、栗田の言葉を聞いていないように、舞花は実況中継を続けている。ただ単に、目が離せないでいるのかも知れない。
「栗田のも、あのくらいにはなるのか?」
「……な……」
「こんなに大きくなっているじゃないか、栗田のも」
 舞花が、大きなバストを栗田の背中に密着させるようにして押しつけ、背中から手を回し、水着の上から栗田の股間を撫でる。
「ちょっ……先輩……」
「栗田も興奮しているんだな。平然としているように見えたから。よかった。わたしだけがどきどきしているのかと思った。
 背はあんまり伸びなかったが、ここはだいぶ育ったな、セイッチ」
『セイッチ』と呼ばれて、初めて栗田は違和感をおぼえる。栗田精一のことを、こう呼ぶ人間は限られている。というか、小学校に上がる前にか、そう呼ばれた事がない。
「……あー……えーと、……ひょっとして……。
 先輩、……まーねー?」
「ようやく思い出したか」
 舞花は、後ろから栗田の肩に顎をのせ、自分の頬と栗田の頬をすりすりと密着させる。
「わたしは、この学校で再会したときから、一目でわかったぞ。なのにセイッチは、四月から今まで約半年も無視をして……。
 小さいときあれだけ遊んでやったのに、薄情なやつだ」
『いや、まーねーのアレは、あれは遊んで、というよりは、いぢめられて、の間違いなのでは……』といおうとして、栗田は、はっとする。
 このわざとらしい拗ね方。なにかというと抱きついてきたり、体を密着させる癖……。
 栗田の中で、幼稚園の頃、引っ越していったまま、別れた近所の女の子と、今目の前の先輩とが、急速に重なる。同じ団地に、同じような年齢の子供が少なくて、ひとつ上のまーねーとは、まーねーが引っ越すまで毎日のように遊んでいた。というか、ほぼ一方的に栗田のほうがオモチャにされていた。
 あの頃のまーねーは棒みたいな手足の痩せこけた女の子で、今目の前にいる、成熟した体を持つ先輩とは、あまりにもイメージのギャップがありすぎる。
 ただ、「舞花」の表情の読みにくいポーカーフェースは、たしかに「まーねー」に、よく似てはいた。それにしても……。
「……育ったな、まーねー……」
 主として胸元をみて、いう。
 栗田の口調も、先輩に対するものから、昔の遊び仲間に対するものに変わっていく。まーねーなら、そうしないと怒る。気づかなかったとはいえ、今まで他人行儀にしていたことで、かなり気分を害している。はず、である。
 ……めぐるましく、栗田の頭は、現在自分の置かれた状況を分析している。一歩対応を間違えると、ボディプレスもしくはバックドロップの刑、というのが往年のまーねーの流儀だった。現在の舞花のウェイトでボディプレスなどまともにくらったら、無事でいられる自信はなかった。
「セイッチの背は、あんまり伸びていないな」
 そうだ。この男っぽい口調。長距離トラックの運ちゃんをやっている親父さんと二人暮らしだったまーねーの口調そのものではないか。外見があまりにも違っていたので今まで気づかなかったが、「中身」に関していうのなら、栗田の知る限り、言動といい性格といい、「飯島先輩」と「まーねー」の間には、たしかに、あまり差異はなかった。
「一緒にお風呂に入ったころと比べて、ここはだいぶ大きくなったようだが」
「む、昔の、子供の頃のことでしょう。それに、セクハラだよ、それは。わ、わざと誤解を招くようないいかたしてるでしょ?」
「なんだ。いっちょまえに恥ずかしがっているのか? わたしなら気にしないぞ。父ので見慣れているし」
 そーいえばまーねーの親父さんは、風呂上がりに素っ裸で台所までビールをとりにくるような、豪快かつデリカシーに欠ける人だった。

 部室の中では、柏と堺が会議用テーブルの上で半裸のままおり重なって蠢いていて、すっかり盛り上がっているようだった。柏の、押し殺そうとして押し殺しきれていない喘ぎ声が、かすかに聞こえてくる。

「そろそろ離れるか」
 舞花はそういって、手に持っていたA4版のルーズリーフの用紙を半分に折りたたむ。半分に畳んだ紙を部室の戸に挟むようにして、音を立てないように、そっと戸を閉める。
 そして、栗田の手首をしっかりと握り、
「いくぞ」
 とだけいって、ずんずんと部室を離れた。ついさっきまでとはうってかわって、柏と堺と、二人が現在進行中で行っている行為には、もともとあまり興味はなかった、とでもいいたげな素っ気なさだった。
 栗田としては、後をついて行くしかない。


[つづき]
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