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彼女はくノ一! 第五話(285)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(285)

 竜斎のその言葉を聞くと、荒野は話しの矛先を茅に替えた。
 何故、自分をもっと早く呼び寄せなかったのか、と荒野が問いつめると、茅は、戦力的に、その時商店街にいた人間で十分にフォローできると判断し、荒野への連絡はメールのみに止めておいた、といった意味の返答をする。
 茅の返答を確認した荒野は、「早い時点で自分を呼んでいれば、もっと短時間で事態を収束させることが可能だった」、「現に、ノリが参戦するまでは、実質上は膠着状態にあった」という二点を指摘し、茅の前髪を指で弄びながら、「もっと荒野のことを信用しろ」といった意味のことを告げる。
 その口調は、決して茅を責めるものではなく、いかにも寂しげに響いたことで、それまでもしょげかえっていた茅の表情は一層、痛ましいものになる。
 それから荒野はその場にいた茅以外の者も含めて、「自分たちがここに住む以上、無関係の一般人に被害はださないことを第一の目標とする」旨、改めて強調し、孫子やテン、ガク、ノリ、それに移住組の一族の者にも同意を求める。
「とにかく、被害者を出さないことを第一の目標にする」……という荒野の方針に意義を唱える者は出現せず、少なくともその場にいた者の間では、おおむね受け入れられたようだった。
「……だけど、それは……」
 そこで口を挟んだのは、小埜澪である。
「いいたいことは、わかるけど……それ、実際に徹底するには、戦力がぜんぜん不足しているんじゃないのか……」
 小埜澪は、これまで見てきた荒野の言動を、どちらかというと好ましく思っている。同時に、ともすれば、極端な理想論に走りがちな部分に危惧も抱いている。
 荒野がいいたいことは、目指すところは、よく理解できるし、共感もするのだが……それ、つまり、「被害者を出さない」ということを徹底するには、それこそ住民数に数倍する人数を用意し、交替で二十四時間警護に当たらせる……くらいのことをしても、それでもまだ完全ではない。
「完璧な安全」というものを期そうとすれば、それはかなり高くつきすぎるから、たいていは「そこそこ」で妥協するのが常識的な対応だった。
 ようするに、「コストの問題」であり、荒野の理想論を現実にするには、膨大な資金とマンパワーが必要となる。
「……わかっています……」
 小埜澪の指摘に、荒野は素直に頷く。
「おれが目指しているのは……その、あくまで可能な限り……自分たちにできる範囲内で、全力を尽くす、ということで……。
 判断ミスで、本当なら使える筈の戦力を出し惜しみしたまま、あとで後悔するようなことは、したくない……ということですよ……」
 そう前置きしてから、荒野は、
「……例えば……今回の場合、竜斎という第一級の戦力が相手だったわけから……出し惜しみせず、最初の段階で、全戦力をぶつけるべきだったんだ……」
 と反省点を挙げる。
 それから、
「楓……あのままノリが来なかったとしたら……お前なら、どう竜斎を取り押さえる?」
 と、今度は楓に話題を振った。
「わたし……ですか?」
 いきなり話しを振られた楓は、最初のうちおずおずとした態度で周囲を見渡していたが、そのうちしっかりとした口調で答える。
「……みなさんと、連携できる体制を整えて……かろうじて、竜斎さんの動きについていける人が、総出で牽制しながら押し包んで……逃げ場と動きを封じた上で、加納様とか、小埜さん、それにテンちゃんとかの打撃力に突出した人に、とどめをさしてもらうとか……それとも、東雲さんに協力してもらうのも、いい手かもしれませんね……。
 逃げ出せない体勢を整えてからなら……どうにでも、できると思います……」
 話しはじめた時、頼りなかった楓の口調は、話しを続けるほどにしっかりとした口調になっていく。
「……その、逃げ出せない体勢、だけど……」
 荒野は、重ねて尋ねた。
「あの時の戦力で作り出すことが、可能だったと思うか?」
「……できた……と、思います」
 少し考えてから楓は答えた。
「わたしと、テンちゃんとガクちゃん……それに、野呂静流、小埜澪さんが中心になって……さらにその外側に、他の一族の皆様が、包囲網を構築すれば……竜斎さん動きをかなり制限できた筈です……」
「……負けない……被害を出さない、最小限に止める……ということを第一義に考えると、こういう結論になる……」
 楓の回答に対して、荒野は満足そうに頷いた。
「……逃げ道を塞がれたら、竜斎の長所である速度は、かなり制限される……。
 おれでも、似たような作戦を採用すると思うな……」
「……動きを制限して貰えれば……」
 孫子が片手を挙げた。
「……わたくしも、十分に戦力になりますわ……。
 今回は、途中から乱戦になって、同士撃ちになる可能性が増大したので、成り行きを見守らせていただきましたが……」
 ……そうだな……というように、荒野は孫子の言葉に頷く。
 今の時点では……やはり、茅よりも、楓や孫子の方が、「実戦」の場では的確な判断力を発揮する。
 やはり……経験値に差がありすぎる……点が、多い。
 楓や孫子は、相対した相手の実力差を見抜くセンスがあるし、実力差があると認めた上でも、その場その場で最上の方法を躊躇なく選択するセンスも持ち合わせている。
 そして、そうしたセンスは……机上の学習ではなく、ある程度経験を積まなくては身に付かないものではないだろうか? と、荒野は思った。
 茅が、楓が出るのを抑えていた……ということは、聞いていたが……楓に、その茅の制止を振り切って飛び出すほどの自主性があれば、今回の件も、また違った展開になっていたに違いない。
 そんなことを思いながら、荒野は指を一本づつ折っていく。
「……まず、判断力の問題……」
 ひとさし指を折る。
「……通信の、不備……そもそも、命令系統さえ、ないから……情報の伝わり方に遅延や無駄が多い……」
 中指を折る。
「……あと、被害を出さない、という第一目標が、どうも、末端まで伝わっていない、という問題……」
 くすり指を折る。
「……地元住民の感情も、気になるし……」
 小指を折る。
「……それらの不都合を解消するためには、お金も必要となる……」
 親指を折る。
「……問題が、山積みだよ……」
 自分の握り拳を見ながら、誰にともなく、荒野は呟いた。




[つづき]
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