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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(202)

第六章 「血と技」(202)

 それから、荒野が主導する形で「今回の件の反省会」みたいな雰囲気になった。
 荒野は、いう。
「おれが目指しているのは……その、あくまで可能な限り……自分たちにできる範囲内で、全力を尽くす、ということで……。
判断ミスで、本当なら使える筈の戦力を出し惜しみしたまま、あとで後悔するようなことは、したくない……ということですよ……」
 そう前置きした後、楓などの意見も聞きながら、今回の件での戦略面の不備を簡単に指摘し、「使える戦力を、十全に使用することが出来なかった」と指摘、その理由として、
「……判断力の問題。
 通信の、不備……そもそも、命令系統さえ、ないから……情報の伝わり方に遅延や無駄が多い。
と、被害を出さない、という第一目標が、どうも、末端まで伝わっていない、という問題。
 地元住民の感情も、気になるし、それらの不都合を解消するためには、お金も必要となる……」
 と、一つ一つ数え上げ、最後に、
「……問題が、山積みだよ……」
 といって、嘆息してみせた。
「……そういう問題も、一つ一つ解決していくしかないのだ……」
 それまで黙って荒野の話し聞いていた徳川が、発言する。
「第一、それらの問題のうちいくつかは、もう解決に向け動き出している……」
「そのうち、資金面に関しては、ご存じの通りいくつかの計画が進行中であり、成果をあげはじめるのも時間の問題です」
 孫子が、徳川の意見を補足した。
「数ヶ月もすれば、かなり改善される筈ですわ」
「……あと、この町の人たちの感情ってやつだけど……」
 玉木が、おずおずと言い出す。
「今の所は……その逆はあっても、悪化するってことは、ないけど……」
「でも……現実にシャレにならない被害者……例えば、おれたちがここにいるせいで死者とかが出れば……そんなもん、あっという間にどん底になる」
 荒野の反応は身も蓋もないものだったが、ある意味ではとても現実的な見解だった。
「おれたちが、今のところ、受け入れられているのは……まだ、被害がでていないからだ……」

 その時の荒野の表情を観察していた小埜澪は、「なるほど、きつい状況だな……」と、そう思う。
 荒野は、自分が置かれている状況に、かなりよく対応している方だとは思う。
 だが……。
『流石に……余裕が、ないな……』
 今、この土地で荒野がやろうとしていることは、ごくごく限られた戦力で、この町全体をすっぽり守り尽くす……それも、「いつくるのか予想がつかない敵襲」から守り抜く、ということであり……それは、大の大人にとっても、かなり困難な話し……もっとありていにいえば、ほとんど不可能な話しだ。
 ゲリラ戦や無差別攻撃を完全に阻止するメソッドは、現在のところ、世界中のどんな組織も、確立していない……。
 荒野の年齢と、置かれた立場を考慮すれば……それもまた、仕方がない部分もあるが……荒野は、なるほど、同じ年頃の平均からすれば、かなり「出来た」子だろう。
 今、ここにいる仲間たちを含めて、大人以上の能力を持っている……と、そう断言しても、構わない。
 そのような前提を認めた上で、さらにいうのなら……守ろうとしているものの大きさと重さを考慮すれば、「彼ら」はあまりにも無力すぎた。
『……だから……』
 このような「不意の」トラブルに遭遇すると……普段は表面にだしていない、不安や苛立ちが、表層に出てしまう。
 能力的には、優秀。性格にも、問題はない。
 責任感が強く、他人の立場や思惑を思いやれる共感能力も、ある。
 そんな荒野の長所が、現在置かれている状況によって、全て裏目にでることも、十分にありえるのではないか……。
 小埜澪は、現在の荒野の態度から、そんな印象を受けた。
 非常に……危なっかしいな、と。
『……どこかで、投げ出すなり手を抜くなりすれば、気が楽になるのに……』
 今の荒野に対して、そんなことを思ってしまう。
 もう少し、年齢を重ねた人間なら……良くも悪くも、自分の限界というものを、意識してしまうから……その限界を超えた部分までは、責任を持とうとしない。
 しかし、荒野は……おそらく、今まで挫折らしい挫折を経験したことがないのではないか? と、小埜澪は、推察する。
「たいていのことが出来る」という、荒野の基本性能の良さが……かえって、荒野の視野を狭くし、抱えきれない荷物までを抱えさせようとしているのではないのか……と、小埜澪は、現在、荒野たちを取り巻く状況を、そう分析する。
『……これで、もし……』
 荒野が一番恐れているように……この町の、荒野に近しい無辜の人たちが、とばっちりを受けて死傷したら……。
『そんな時……』
 荒野自身は……無事でいられるのだろうか?

「……嬢さん……」
 小埜澪が物思いに沈んでいると、東雲目白が小声で声をかけてくる。
「気持ちはわかりますが……わたしら、通りすがりのもんに出来ることは、限られていますぜ……」
 小埜澪と東雲の付き合いは、長い。
 態度や顔つきで、小埜澪が何を考えているのか、東雲にはだいたいの所、想像がつくのだろう。
「……わかっている」
 小埜澪も、声をひそめて頷いた。
 無関係の大人が、気軽に割り込める状況ではない。
『……荒神さんほど、超然とできればなぁ……』
 誰よりも強力な能力を持つあの人は……そんな能力など、ほとんどの場合、なんの役にも立たないということを承知している。

 小埜澪は……荒神ほど悟りきって「不干渉」の立場を堅持できないし、荒野ほどまっすぐに自分の力を世の中に役立てようすることも出来ない……自分自身の中途半端さを、自覚した。
 そして、荒野に対しては、
『どこかで……ポッキリと折れないと、いいけど……』
 と、心配をする。




[つづき]
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