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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(203)

第六章 「血と技」(203)

 テンとガクは、荒野を中心に何やらややこしい相談をはじめた人たちとは少し距離を置いて、旧交を暖めていた。
 何しろ、それまでずっと一緒にいた仲間だし、三人のうち一人だけが、これほどの長期に渡って離れて暮らす、ということも、今までに例がない。荒野たちが話している内容に興味がない……ということもなかったが、最近、多少知恵がついてきたといっても、三人はその「育ち」から、圧倒的に「世間」というものを構成する事柄に関しての知識が不足している。
 特に、「世論」とか「経済」といった、複雑で多面的な事物についてはなかなか理解が及ばず、荒野や徳川、孫子が話す内容にまるでついていけず、従って、軽く聞き流すことはしていても、こちらから口を挟む、ということはなかった。
 テンとガクは、ノリがいない間にここで起こった出来事、それに、ノリの方は、はじめて訪れた様々な土地の話しなど、と、話すべきことはいくらでもあり、話題はいつまでも尽きなかった。

 当初はシルバーガールズのコスチュームのマンドゴドラに駆け込み、衆目を集めて、マンドゴドラの売り上げに貢献してきたのだが、ここに呼び戻されてからは、プロテクターやヘルメットを脱いで普段着に戻っている。
「……ノリ、予想通り、背が伸びてる……」
 テンが、半ば呆れたような口調で呟く。
 座っていてさえ、ノリと目線を合わせようとすると、少し見上げるようにしなければならない。コスチュームから着替えたノリは、真理の影響か、以前なら着用しないほっそりとした足のラインを際だたせるミニスカートを履いていた。
「ノリ、縦に育ったよね」
 ガクも、どことなく白けた表情になる。
「……ボクたちより、おねーさん……楓おねーちゃんや孫子おねーちゃんと、同じくらいに見える……」
「……そ、そう……」
 ノリは、どことなく照れくさそうな表情で頬に片手の掌を置き、にやけはじめる。
「……大丈夫。
 テンやガクだって、すぐに大きくなるよ……」
 そういってノリは、手近にいたガクの頭に、ぽんぽんと掌を乗せた。
「……ノリ……。
 帰ってきたら、性格が悪くなった……」
 たちまち、ガクがむっとした表情になる。
「それに……ノリ、縦に背は伸びても、横には全然育ってないじゃん……。
 ほれ、ほれ。
 ブラなんていらないんじゃないのか、これ……」
 そういってガクは、素早くノリの胸に掌を押しつける。
「……やっぱり育ってないし……」
 三人娘は、すぐに騒がしくはしゃぎはじめる。
「これっ!」
 つかつかと近寄ってきた三島が、ぱん、ぱん、ぱん、とスリッパで三人の頭をはたいて回った。
「……帰るそうそう、何をやっているのか……」
「……そう、そう……」
 鎖で縛られたままの竜齋が、懸命に首を伸ばして横合いから突っ込みをいれる。
「……つるぺたにはつるぺたの良さというものが……」
 しかし、三島百合香と三人娘、それに柏あんなに殺気の籠もった視線を送られ、途中で言葉を切り、あらぬ方向に視線を逸らす。
 そうして、夢中でおしゃべりするうちに、マンドゴドラで包んで貰ったケーキはあっという間に消費された。
「……おかわり、貰ってこようか……」
 テンが腰を浮かしかけると、
「「……あっ。
 わたしたちが、取ってきます……」」
 と、酒見姉妹がそれを押し止める。
 もちろん、自分たちもご相伴に預かろうという魂胆があってのことだし、荒野たちがマンドゴドラで顔パスであることを知った上で、自分たちの存在もアピールし、今後いくばかの役得を、と計算している節もある。
 取り上げてテーブルの上に放置してあった竜斎の財布を当然のように持ち上げ、酒見姉妹は意気揚々と外に出ていった。

「……過ぎたことをぐちぐちいっても、取り返しがつくわけでもなし……」
 酒見姉妹がケーキのお代わりを取りに行ったの機に、ガクが荒野たちの会話に強引に割り込み、話題を変えさせる。
「……それよりも、さ。
 シルバーガールズの今後のこと、なんだけど……みんなで前々から話していたんだけど、有りものの素材をうまく繋げて筋の通ったものにする、シリーズ構成とか編集作業をやれる人、今、いないんだよね。
 ノリも戻ったし、これ以上撮影を続けるにしても、そういうのがしっかりとしていないと、効率悪いから……できれば、茅さんにやって欲しいんだけど……」
 ガクにしてみれば、「シルバーガールズ」の計画を進行させる事の方が、荒野たちが話している内容よりも興味が持てるのであった。
「……茅が?」
 いきなり話しを振られた茅は、驚いたように顔を上げ、目をぱちくりさせる。
「……シルバーガールズの?」
「うん。制作総指揮」
 ガクが、頷く。
 昨日の夜も、そんな話しをしていた所だし、ノリが帰ってきた今、本格的に「シルバーガールズ」の制作体勢を整えるのには、いい機会だと思った。
「全体像がはっきりさせないまま、これ以上進めるのも、本当、効率悪いし……。
 シナリオができたら、これから足りないシーンの撮影に入るれし……。
 あと、合成とか編集に必要なツールも、三人掛かりでこれから作ろうって話しを、今、していて……」
 正確にいうのなら、そういう打ち合わせは、以前からメールや携帯で頻繁に話し合っていた。いい機会だから、三人がかりで「使える」動画処理用の多目的ツールを一から作ってしまおう、という結論も、すでに出ている。
「……孫子おねーちゃん……。
 この間、売るっていってたソフトの代金、少し前借りできない?
 そろそろ、ボクら専用のマシン調達して、家に置いておきたいんだけど……」
 茅の返事も待たずに、ガクは、今度は孫子に話しを向ける。
「それは構いませんが……。
 ……映像処理用……というと、かなりハイエンドなものが必要なのではないですか?」
「そうなるね……」
 テンが、頷く。
「でも……走らせるソフトは自分たちで作るつもりだし、ハードの方も出来るだけ安くあげるように努力するよ……」




[つづき]
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