第六章 「血と技」(204)
それがきっかけになって、子供たちだけで集まっての打ち合わせ大会がはじまった。具体的な話しとなると、一見して性格も資質も異なる子供たちが、それぞれの長所を生かすように話し合いをしながら、仕事の割り振りをテキパキと進行させていく。
そのうち、ケーキのケースを抱えて酒見姉妹が戻ってくる。
新しいケーキと紙コップのソフトドリンクが配られ、打ち合わせの声はますます活発になった。
「……この子たち……いつもこんな感じなの?」
小埜澪が、目を丸くして、そばにいた野呂静流に問いかけた。
「……さ、さあ……。
わ、わたしも……ここに来たばかりですし……」
静流も、戸惑ったように答える。
「で、でも……この人たちが、すっごい行動力を持っているのは、確かなのです……」
玉木が合図したので、有働が、ハンディカムを持ち出して、打ち合わせを続ける荒野たちを少し離れた所から撮影しはじめた。
「……いつも、こんなもんだな……」
二人の側に近づいてきた三島百合香が、そう声をかける。
「実際、性格も違いすぎるし、いつもはバラバラもいい所なんだけど……いざとなるとざっと勢いよく動き出すしなあ、こいつら……。
今日、この爺さんを追い詰めた時も、そうだったろ? ん?」
そういって三島は、縛られている竜齋を指さす。
それから、
「……ところで、この爺さん……いつまで、このままにしておくんだ?」
と、付け加える。
そういわれて、小埜澪と静流は、顔を見合わせた。
「わ、わたしも……それ、気になっていたんですけど……」
「あー……。
それ、話し合うために、こうして集まったと思ってたけど……」
「好きにしていいよ、そんなもん……」
荒野が、こちらを振り返って少し大きな声を出した。
「ひょっとしたら何か裏があるかと思ったけど……どうやら、単に目立ちたいだけのようだったし……」
荒野の方には、これ以上、竜齋に確認するべきことはない、ということらしかった。
「……そーか、そーか……」
小埜澪はにんまりと笑って自分の拳を合わせ、指を鳴らしはじめる。
「では……今まで、苦労させて貰った分は、楽しまないとな……」
「……あの……お嬢……。
尋問とかなら……わたしが出りゃあ、一発で頭の中覗けるんですけど……」
という東雲の控えめな申し出は、当然のように無視される。
「お、おじさまは、少し痛い目にあった方が、いいのです……」
静流がそう呟くと、いつの間にか背後に寄ってきていた野呂の代表たちがうんうんと頷いた。
「じゃあ、この爺さんは、うちら、一族の関係者でいいように始末つけるから……」
そういって、小埜澪は、簀巻き状態の竜齋の襟首掴んで、ひょいと、持ち上げた。
「……死なない程度に、しておいてくださいよ……」
荒野は興味なさそうな口調で、竜齋を抱えた小埜澪を先頭にぞろぞろと外に出て行く一族の者を見送る。
これだけの面子が揃う機会も、あるようでない。
ノリが揃ったこともあり、「話し合い」をいつまでも続いた。シルバーガールズのこと、ボランティアのこと……なにより、「防衛」のこと……。
「今回のイベントも、商店街としては十分に成功だと思われているし……駅周辺にみっちりと監視カメラを据えるのは、問題ないと思うけど……」
玉木は、そういう。
「なにしろ、維持費も含めてタダで配るわけですから……そうでないと、困りますわ……」
孫子が、肩を竦める。
「問題は……その程度で、簡単に捕まる相手のなのかどうか、ということだが……」
徳川が、そういって荒野の顔をみる。
「……ま……難しいだろうな……」
荒野は肩を竦めて、軽い口調で返答した。
「第一に、ご本尊たちが直に足を運ばなくても、こちらを攻撃する方法はいくらでもある。
第二に、駅周辺だけを監視しても、別のルートで入ってくる可能性もある。
まさか……道の一本一本を監視するわけにもいかんだろう……」
物理的には可能でも、費用がかかりすぎる。
仮に、荒野が「悪餓鬼ども」と呼ぶ子供たちを捕捉できたとしても……「発見できた」というだけであり、そこから先はまた別の方策を実行しなければならないのだ。
それを考えると、「早期警戒」だけに過剰にリソースをつぎ込むわけにもいかなかった。
「今朝もあのおのっおねーちゃんがいってたけど……相手がいやがることをするのが攻撃だ、っていうのは、本当だね……」
ガクが、珍しく険しい顔をしながら、呟く。
「結局、やつら……何もしないでも、こうしてボクたちにプレッシャーをかけて、追い詰めているわけだし……」
そういうとガクは、目の前に置かれたショートケーキを手掴みにして、猛然と食べはじめた。
「……ガクは、心理戦が不得手だからなぁ……」
テンが苦笑いした後、荒野に尋ねる。
「かのうこうや……やつらの情報、なんか入った?」
「まだだ」
荒野は、短く答えた。
正式にシルヴィに情報収集の依頼をしてから、まだいくらも経過していない。
「こんな短時間では、ろくな結果はでないよ。
仮に、それらしい情報を掴んだとしても、その真偽を評価するのにもそれなりに手間や時間がかかるわけだし……」
現代では、「それらしい情報」を収集すること自体はかなり容易になっている。ただ、プログラム的な装置に頼り過ぎると、その中から「本当に役に立つ情報」をより分けるためのフィルタリングが、軽くオーバーフローしてしまうため、結局は、まだまだ人間の判断に頼る部分が大きい。
例えば某軍事大国が膨大な予算を費やして世界中の情報網を傍受するための機構を作り、現在も稼働中であるが、集められる情報の量に対してフィルタリングの効率が悪いため、当初の予定ほどには役に立っていないといわれている。
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つづき]
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