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彼女はくノ一! 第五話(288)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(288)

 しばらく様々なことを話し合った後、徳川が、
「……メインのマシンくらい、さっさと作っておくか……」
 といいだして腰をあげたので、その日はそこで解散、ということになった。
 三島が、「せっかくノリが帰ってきたし、こんだけの人数が集まっているのだから……」と、いいだし、もともとノリのいい人間が揃ってもいたので、即、「宴会にしよう」ということになる。
 会場は、ほぼ自動的に、一軒家にしては広くて、多少、人数が集まっても融通が利く狩野家に決定する。
 テンと孫子が、徳川について電気屋さんに向かう。電気屋さんでは自作PC関連通販も扱っており、現在、そこの在庫にあるなかで、もっとも高性能なパーツを組み合わせるつもりだ、と徳川はいう。
 テンは荷物持ち、兼、見学、孫子は会計担当として、無駄な出費を監視するためについていく、ということだった。徳川の工場に入り浸っているテンは、今回に限らず、徳川から吸収できることはとにかく何でも吸収する心づもりでいる。
 それ以外の連中は総出で買い出し、だった。
 商店街は目下激混み、ということで、三島から貰った買い物メモをもって、二、三人づつのグループを作って散る。

「……本当は、早くおにーちゃんに会いたかったんだけどね……」
 楓はガク、ノリと一緒に行動することになった。
「順也先生のだけでなく、いろいろな絵、みれたし……それに、スケッチも、いっぱいしてきたし……」
 でも、帰ってくると同時に「商店街で緊急事態発生!」のメールが着信し、急遽、徳川の工場に向かったのだ、と、ノリはいう。
 気付けば、夕方のいい時間になっている。聞いていた通りに、商店街の人出は予想以上で、とにかく前に進むのに時間がかかった。おしゃべりをするのには、好都合だったが。
「……工場にいったら、なんか目つきの鋭いおじさんに誰何されるし……すぐに徳川さんに連絡して貰って、無事に装備を渡して貰ったけど……」
 目つきの鋭い……仁木田さんのことかな?
 と、楓は思った。
「装備っていえば……あの、ライフル……以前から、射撃訓練とかしてたんですか?」
 楓は、周囲の通行に配慮し、声を小さくしてノリに聞いた。
「ううん」
 ノリは、あっさりと首を横に振った。
「ただ、CADデータとかは前に見てたし、構造については頭に入っていたから……後は、手がなじむまで、少し時間がかかったけど……。
 はじめっから、遠距離からの精密射撃は無理だと思ってたし、その分、足をうまく使う戦い方を心がけたんだ……」
 事なげにそう説明するノリの目線は、今では楓とほぼ同じ高さである。
 楓の記憶にあるノリの顔つきよりずっと大人びた表情だった。
「……ぶっつけ本番で、あれだけ……」
 ……この子には、天性のセンスが備わっているな……と、楓は思う。
「その代わり、テンとガクは、ボクができなかった経験を、いっぱい積んでいるわけだし……」
 あとでゆっくり話しを聞かせてね! ……と、ノリはガクの首に腕を回して抱き寄せた。
「……後、あの分身、なんですけど……」
 二人でじゃれあいはじめたノリとガクに、楓は遠慮がちに声をかけた。
「え?
 あれも、はじめて。
 あのおじいさんがやってたのみて、ひょっとしたらできるかなぁーって思ってやってみたら、思ってたより簡単にできた。
 体が大きくなった分、軽くなったっていうか……思った以上に、動けるようになっている……」
 だけど……あんな無理な動き、負担が大きいから、短時間しかできないけどね……と、ノリは付け加える。
 と、いうことは……以前はできなかった、ということで……。
「ひょっとしたら、出来るかも」程度の思いこみを実現し、現場の状況に合わせて応用してみせた、というわけだから……。
『……やはり、この子には……』
 天性の勘、というべきものが、備わっている……と、楓は確信した。
 突発的な状況に対する応用力、という点では、三人の中でも突出しているのではないか?
「……アレもなー。
 本格的に使いこなすとなると、ボク専用のカスタ間マイズが必要となるんだけど……。
 ま。そういう話しは、後でじっくり……」
 そういいながら、ノリはガクの首を極めたまま、軽々と持ち上げてみせる。
 ガクがばたばた手足を動かすが、考えごとをしているノリは、その動きに注意を向けない。
「……ノリちゃん……」
 楓は、指摘した。
「いい加減、離さないと……ガクちゃん、落ちちゃいますけど……」
 事実、先ほどまで手足をバタつかせていたガクも、今ではぐったりとしてノリの腕にぶら下がっている。
「……え?
 あ。
 や、やばい……。
 うっかりして、身長差があること、忘れてたっ!」
 ノリが慌てて腕の力を緩めると、ガクが地面に降りたち、盛大に咳こみはじめる。
「……だ、大丈夫、ガク……。
 ごめんねー……。
 前と同じ調子でやってた……」 
 以前なら、後ろから首を抱いても、ガクの体をぶら下げる、ということにはならなかったのだろう。
 ノリ自身からして、今の自分の身長に、慣れきっていない……ということだった。
「……ちっきしょうぅ……」
 ノリに背中をさすられながら、上体を前に倒してひとしきり咳こんでいたガクは、しばらくして、涙目になりながら、そう呟いた。
「……ノリに悪気がないのは、分かっているけど……。
 ボクだって、ボクだって……す、すぐに育ってやるかんなぁ!
 ノ、ノリよりずっと背が高くなって、そんでもって、楓おねーちゃんよりずっとぼいんぼいんになってやるんだぁっ!」
 この場にテンか孫子がいたら、「何をお馬鹿なことをいっているのか」といった意味の冷静なツッコミを入れたのだろうが、楓とノリは目を点にするばかりだった。
「……ガクっ! どこに行くのっ!」
 そのまま、だっ! と駆け去ろうとするガクの背中に、ノリが声をかける。
「牛乳を買いにっ!」
 ガクは、振り返りもせずに叫び、すぐに人混みの中に紛れて姿を消す。
「……ええと……」
 楓は、ノリと顔を見合わせ、困った顔をした。
「あの分では、心配はいらいないと思います……」
「そう……だね……」
 ノリは、決まりが悪そうな表情を浮かべた。
「「……とりあえず、お買い物すませちゃいましょう……」」
 期せずして、二人でそう唱和する。

 楓とノリが二人で三島に指定された買い物を済ませ、集合場所であるマンドゴドラの前に移動すると、他の面子の中に、両手にビニール袋を抱えたガクも混ざっていた。
 宣言した通り、大量の牛乳を買い付けてきたらしい。




[つづき]
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