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彼女はくノ一! 第五話(289)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(289)

 楓とノリが合流した時には、すでに他のメンツは集合し終わっていていった。
「……量は多いけど、品数が少ないから……」
 そういった飯島舞花は、栗田と二人で豆腐としらたきばかりをどっさりと買い込んだらしい。
「人数が多い、ってのもあるけど……先生、他人の懐当てにして、ことさら高いものを指定してきたし……」
 和牛の霜降りばかりをキロ単位で買ったの、初めてだよ……と、荒野は苦笑いした。
「……わたしたちは、お野菜どっさりです……」
 楓が、荒野に言葉に追従した。
「……こっちは……マイタケとかエノキとかシメジとか……。
 嵩が張らないし、軽いから助かったけど……」
「……かにっー!」
 柏あんなと玉木がそれぞれに答えた。
 玉木は後ろに、弟と妹も引き連れている。
「……かなりの人数を見越している、ということは、わかった……」
 膨大な量の食材の袋をみながら、荒野が呟く。
「賑やかなのは……いいことだと思いますけど……」
 楓も、そういってみる。
 その時、見覚えのある三島の小型国産車が近づいてきて、車道から軽くクラクションを鳴らした。
「……全員揃ったか?
 材料、全部車んなかに入れろっ!」
 三島の指示に従って、三島の車の後部座席に助手席に食料を詰め込む。
「……あれ? ガクちゃん、それは……」
「これ、ボクの」
 ガクだけが、自分の荷物を手放そうとはしなかった。
 どうやら本当に……山ほど、牛乳を買い込んできたらしい。

 真理が去ってから二時間ほどは静寂のうちに過ぎた。
 しかし、徳川が軽トラで門前に乗り付け、庭のプレハブに乗り込んで、
「おい、絵描きっ!
 玄関を開けるのだっ!」
 と、途中説明を省略して命令するに至って、香也の平穏はあっけなく破られる。
「……ん?
 ……んー……」
 突如乱入してきた徳川に向け、香也は首を捻ってみせる。
「わからないやつだな。
 荷物を届けてやったから、母屋に運び込めるようにせよ、といっておるのだっ!」
 語調の激しさとは対照的に、徳川はにやにや笑いながら香也にいった。
「おっつけ、他の連中も来るから、さっさと玄関を開けるのだっ!」
 徳川とは顔見知りだし、強硬に反対すべき理由もなかったので、香也はのろのろと立ち上がり、玄関に向かう。プレハブを出た所で、見覚えの女性に、「すいませんね、強引で……」と頭を下げられたが、香也は軽く会釈を返しただけだった。
 香也が玄関をあけると、軽トラの座席から徳川とスーツ姿の女性が段ボール箱を家の中に運び込む。
 ぼおっと見ているのも何なので、香也も小さくて軽そうな箱を選んで運搬作業を手伝った。
 徳川は、居間に入るやいなや、平たい箱の梱包を解いてむき出しの基盤を取り出し、それに、小さな箱状のもの、平たいウェハース状のものなどの、いくつかの部品を手際よく据え付けていく。
 徳川と一緒にいた女性は、荷物を降ろし終えると、「トラック置いてきます」といい残して去っていった。
 はじめてみる作業に、香也が興味津々、という様子で手元をのぞき込んでいると、
「……そこのケース……一番大きな箱を、開梱しておいてくれ……」
 と、徳川は白衣のポケットからカッターナイフを取り出し、香也に手渡した。
 香也がいわれた通り、梱包の段ボール箱を開け、中のケースを取り出す。ケースを取り出して畳の上に起き、香也ははじめて、徳川は、今、パソコンを組み立てているのだ……と、気付いた。
「……パソコンの中身って、こうなっているのか……」 
 と、思わず呟くと、徳川が、
「これがメモリ、これがCPU、これがハードディスクと……」
 と、一つ一つの部品を指さして教えてくれる。
 しかし、根本的な所で基礎知識に欠ける香也には、そう説明されてもそれらのパーツが具体的にどのような役割をはたすのか、まるで想像がつかないのであった。
 徳川はあっという間に本体を組み上げてケースの蓋も閉め、今度は液晶ディスプレイの梱包も解いて炬燵の上に安置し、出来上がったばかりの本体とケーブルで繋ぐ。
 さらに、キーボード、マウスなども接続して、電源もとり、スイッチを入れる。
「……これが、BIOS画面……正常に作動しているのだ……」
 と、荒野には理解不能のことを呟き、すぐに電源を切った。

「……おっーしっ!
 いるなっ! 荷物いっぱいあるから、運ぶの手伝えっ!」
 徳川が組み立て作業を終えた頃に三島百合香が到着。
「うまいもん食わしてやるから、お前も手伝えっ!」
 といわれれば、香也に断る術はない。
 三島の車に積んであった食材を降ろし終え、三島が車を駐車場に置きに行ったのと入れ違いに、今度は荒野たちが大人数でやってきた。

「……おにーちゃんっ!」
 そう叫んで、いきなり抱きついてきた塊があった。
 香也は不意をつかれて足元をふらつかせたが、香也が後ろに倒れ込む前に、抱きついてきた塊が香也の体を回転させる。
 すぐ近くで、「……ああっー!!」というかなり切迫した合唱があがる。
「……えっ……。
 あっ。あっ……」
 当然の事ながら、香也には何がなにやらわからない。
 誰かに、抱きつかれている……。
 それも……女の子、だ……。
 体の柔らかさといい、ほのかに感じる体臭といい……。
 いきなりこんな事をする者に心当たりがないっ!
 ……とは、必ずしも言い切れないのが厳しい所だが……少なくとも、こんな、みんなが見ている前で、いきなり抱きついてくるような大胆な真似をする子は……。
 香也は、必死になって心を落ち着かせながら、周囲を見渡す。
 こんな真似をしそうな候補者の中からから、驚いた顔をして現在、こちらを見守っている人々を差し引いていく。
『……そういえば、真理さん……』
 昼間、帰ってきた時、真理が意味ありげに微笑んで、「……びっくりするわよぉ……」とかいっていたことを、香也はようやく思い出す。 
 香也がそんなことを考えている間にも、その子は香也の胸に顔を埋めたまま、「……おにーちゃんだぁ……本当の、おにーちゃんだぁ……」と甘えたような子を出しながら、玄関先で香也ともども、ぐるぐるーっと回転しはじめた。
「……え? あっ、あっ……」
 香也は、ようやくその子の正体に思い当たる。
 覚えている姿と、あまりにも印象が違うのだが……。
 声だけは、変わっていなかった。
「……んー……」
 香也は、おそるおそる確認した。
「ひょっとして……。
 ノリちゃん?」
「……そうでぇーすっ!」
 香也の胸にことさら自分の体を押しつけながら、しばらく会わない間にすっかり大人っぽくなったノリが、元気よく答える。
「……ほんーっとぉっ!
 会いたかったぁ!
 おにーちゃーんっ!」
 脳天気な口調でそういい、成長したノリは、すりすりすり、と、飽くことなく、香也の胸に頬ずりを繰り返す。
 実に幸福そうなノリとは対照的に、二人を取り囲む人々の中に、かなーり不穏な空気が漂いはじめる。
 香也の顔から、一気に血の気が引いた。




[つづき]
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