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彼女はくノ一! 第五話(292)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(292)

「……そんで、いよいよ本格的に作るってか?」
 用意した料理が出され、あらかた消費された頃、食器を片づけながら三島が尋ねた。
「うん。
 そろそろ、しっかりとした脚本が必要になるし……それで、茅さんに頼んだってわけ……」
 テンが頷く。
 午餐の時に、たった今ダウンロードしてDVDに焼いたばかりの映像を、居間のテレビで再生した。主として、「今日の分の映像」なわけだが……。

「……うわぁ……」
 と、柏あんなが、ぽかんと口を開けたまま絶句する。
 俗にいう、「開いた口がふさがらない」というやつだ。
「これ……。
 本当に、その……何にも、加工してない?」
 飯島舞花が、テレビの画面を指さして、誰にともなく尋ねる。
 その他の、堺雅史はノリの分身攻撃が映った所で飲み込みかけた食物を吹き出しそうになり、同じ箇所で、羽生譲は画面を指さし、「……わは。わはははっははは……」と爆笑した。
 その時、商店街にいた人間も、特にアーケードの上に戦場が移動してからは、断片的な映像しかみていない。
 こうして改めて、通して映像を確認してみると……その時の彼らが、いかに人間離れしたことをやすやすとやっていたのかが、よく実感できた。
 しかも、その人間離れしたことをやすやすと行った当事者たちと、今、一緒に同じ鍋をつついているわけで……。
「いやー……」
 比較的、そういうことに動じない飯島舞花が、ノリに向かっていった。
「すごいな、ノリちゃん……」
「……グッ、ジョブ!」
 実は少し呆気にとられかけていた玉木も、慌ててノリに親指を突き出す。
「ノリちゃんっ! いぇいぃ!」
 羽生も、玉木に少し遅れて唱和した。

 ……とまあ、こんな具合に、たとえ頭ではわかっていても、いざ具体的に、「あれだけの映像」を、それも、「自分たちにとって身近な人物が」行ったことに、やはりショックを隠せないでいた。
 楓たちとのつきあいが長く、そもそもの最初から、「そういう人たちだ」という認識を持っていた羽生や飯島舞花は、まだしも比較的あっさりと立ち直ることができた方だが……。
「でも……これは確かに……特撮にでも、したくなるわ……」
 しばらく映像をみてから、気持ちを落ち着かせた柏あんながいった。
 逆にいうと、「特殊な加工をされた映像だと思わなければ、まともに見ることができない」ということでもある。
「……ま。
 一般人の反応としては、まだしもまともな方だな……」
 竜斎は、それぞれの反応を面白そうに観察していた。
「今までにもそれなりにいろいろと見ているからね、彼らも……」
 荒野はそう答える。
「……分身、なんて、野呂の上位者でも数えるほどしかできないんだけど……飯島たちなんて、これが初めてというわけでもないし……」
「……静流ちゃん?」
 竜斎は、静流の方を意味ありげにみた。
「あ、朝早くの、ひ、人目がない場所でのことでしたし……きょ、今日のおじさまより、よっぽどマシなのです……」
 静流は、平然と竜斎の問いかけを受け流す。
「その、今日のコレ、なんだが……」
 荒野は、テレビの画面を指さして、玉木に再度確認する。
「……本当に、大丈夫……なんだろうな?」
「大丈夫も何も……」
 玉木は、真面目な顔をして頷いた。
「ほんの十分ちょいの出来事だよ。
 たいていは、なんか騒がしいなぁ……って思って、それで終わり。
 そこのミスターRのおじさん、絶えずあっちこっちに動いていたし……局所的な騒ぎを目撃した人は多くても、一連の騒動の全体像を把握できた人がいたとも思えないし……。
 これ、放映したこともあって、大部分の人は、シルバーガールズのプロモーションかなんかだと思っている……というか、それ以前にあんまり関心がないのと違う?」
 荒野の危惧はわかるが……以外に「不特定多数の他人」というものは、直接自分と利害関係がない事柄に関しては冷淡で、積極的な関心を持たないのではないか……と、答えながら玉木は思う。
 逆にいうと……今後、この町で、荒野たちの周辺で、一般人に何らかの被害が及ぶような事件が起これば……今日の件なども振り返って周辺住民に「予兆」として思い返されることになる。
 ミスターRこと、竜斎がいう、「周辺住民に免疫をつける」という意見にも、それなりに頷けるのだが……。
『……今後、何か間違いがあったら……』
 かえって、荒野たちに対する風当たりが強くなる……ということも、十分に考えられた。
 しかし、そんなことは……。
『……わたしでも、気付くぐらいだから……』
 荒野にしても、先刻折り込み済みのリスクなのだろう……と、玉木は予測する。
 その荒野は、玉木の返答を確認すると、
「そうか……」
 とあっさり頷いただけで、それ以上、その話題には触れなかった。

「それでよう、荒野。
 ものは相談なんだが……」
 竜斎は、ノリのさし示しながら、荒野に向かってとんでもないことをいいだす。
「その新種について、なんだがな。特にその、速いの。
 うちの預かりって事にできねーか。
 将来の長候補ってこって……」
 竜斎のその言葉が響くと、それまでざわめいていた居間の中が一気に凍り付いた。
「本人を、直接口説け。
 別におれは、こいつらの保護者でもないし、従属させているわけでもない」
 荒野は薄笑いを浮かべながら、冷静に答えた。
「もっとも……こいつらは、ここでの生活が気に入っているようだから、自分から離れるとは思わないが……」
 あるいは荒野は、竜斎がそんなことを言い出すことも、あらかじめ予想していたのかも知れない。
「別に、今すぐっにって、わけでもねぇよ……」
 竜斎も、うっすらと笑った。
「知っての通り……野呂は、使える奴ほど足抜けしてく傾向があってな。
 中枢部は、万年手不足なんだわ。
 ここいらで、将来有望な人材にコナかけておいてもいいだろうと思ってな……。
 そこのチビちゃんも、仁木田の一党と連んでるって話しだろ?」
「……確かに、仁木田さんたちと、条件つきで協力関係になっているけど……」
 竜斎に「そこのチビちゃん」呼ばわりされたテンは、箸を置いて軽く肩をすくめた。
「それは、仁木田さんたち少数派とボクたち新種の立ち位置が比較的近いから、利害的にも一致する点が多いってだけのことで……。
 ここでボクたち新種が野呂に荷担しても、あまり意味がないんだよね。逆に、特定の六主家に近寄りすぎると、他の六主家の反感を買いかねないし……」
 テンたち新種が仁木田たちと手を組んでも、総数では他の六主家を脅かす存在には、なり得ない……だから、安心して手を組める……。
 と、いうことだった。
「だから、あとはノリの意志次第だけど……。
 どうする? ノリ?」
「そんなの、行かないに決まってるよ」
 ノリは即答した。
「今日、帰ってきたばかりなのに、すぐにまたみんなと分かれたくないし……。
 それに、おじいちゃんの所には、おにーちゃんいないし……」
 そういってノリは、例によって左右に楓と孫子を従えた香也をじっと見つめた。
 香也は、左右から楓と孫子に火の通った肉を盛られ、てんこ盛りになった肉を前に途方にくれている。




[つづき]
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