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彼女はくノ一! 第五話(293)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(293)

「……駄目だと思うな」
 香也に負けず劣らず、大量の肉を自分の器に持ってがつがつ食べていたガクガ、横合いから口を挟んだ。
「ノリには全然、その気はないし……」
「そうはいうがな……」
 竜斎はコップ酒を一気に煽っていった。
「……まだどこも手をつけていない有望な者がいれば、声をかけたくなるのが、長というもんだ……。
 おまえたち、まだ先のことは、まるで考えてないだろ?
 それとも、そこの加納と密約でも交わしているのか?」
「ない、ない」
 荒野は顔の前で平手を左右で振る。
「おれの知らない所で、じじいとこいつらがなんらかの約束を交わしたりしていれば、話しはまた別だけどな……」
「それも、ないよ」
 テンが口を挟んだ。
「そもそも、涼治のお爺さんとボクら、数えるほどしか顔を合わせてないし……好きにしろ、としか、いわれてないし……」
 テンの言葉に、ノリとガクが大きく頷く。
「そこまで放任状態だと……かえって裏がありそうな気がしてくるの」
 竜斎は顎を掻いて、荒野に顔を向けた。
「加納の長老は、一体何を考えておるのか?」
 将来有望な人材を利用しようとも育てようともせず、むざむざ遊ばせておく……というのも、竜斎の立場から見れば不可解なのであろう。
「さあね」
 荒野はとしては、そう答えるより他、ない。
 事実、涼治が一体何を考えて新種たちを荒野に任せているのか……以前より、荒野自身も疑問に思っている所だ。
「うちのじじいの考えていることなんて……おれには、想像もできませんよ」
 紛れもない、荒野の本音だ。
 最近では、涼治の思惑を想像することすら、止めてしまっている。
「……あれも、昔っから確かに読めない奴だからからのう……。
 わしの若い頃から、あの年格好だし……」
「加納は長命ですからね。
 じじいの本当の年齢なんて、おれも知りませんし……」
 荒野はそういって頷いた。
「……土台、前提となる経験値が桁違いの相手ですから……おれは最近、じじいの思惑なんか、予想するのやめてますよ……。
 どう動いても、結局はじじいの思惑のままに動いているような気がして……考えれば考えるほど、気分が悪くなる……」
「……傑物の子弟に生まれるのも、良し悪しか……」
 そういって荒野をみる竜斎自身は、野呂本家の出ではない。血筋によるコネクションよりも、その実力で長にまで昇りつめてきた男だった。
 絶えず実力を見せつけてきたからこそ、いろいろと困った性癖を持ちながらも、下の者も竜斎を認めてついてきている、という側面もある。
「……いずれにせよ……」
 竜斎は、話しを元に戻す。
「そちらの新種にとっても、将来の選択肢は多いにこしたことはなかろう……。
 長いものに巻かれ、一族の既成組織にあえて組み込まれる、というのも、一つの選択肢だぞ」
「……それをいうのなら、二宮も、だ。
 優秀な人材は諸手をあげて歓迎するし、相応の待遇も用意する」
 それまで黙って聞いていた小埜澪が、片手を挙げる。
「もちろん、今すぐにどうこう、ってことじゃあないけど……。
 でも……ここでの生活が、このまま一生続く、ってわけでもないだろう?
 数ヶ月先か、数年先になるかはわからないけど……うまくいっても、みんなひとりだちする時というものがいずれ来るわけだし……。
 それに、いざという時のためにも、いよいよとなったら逃げ込める先をあらかじめ確保しておくのは、そっちにとっても悪い話しではないと思うが……」
 いざという時……とは、ようするに、「共生」の試みが、何らかの理由により破綻し、この土地から排除された時、ということだ。
「みんなが……」
「……ひとりだち、する時……」
 ノリとガクが、愕然とした表情で顔を見合わせた。
「確かに、いずれは野呂なり二宮なりを頼る時が来るかもしれないけど……」
 三人組の中で、一人テンだけが、冷静に返した。
「今はまだ、ボクたちは、ここで一緒にいる。
 本当に、いよいよ駄目ということになったら、その時は改めてお願いするけど……それまでは、ここでの生活を楽しませてもらえないかな?
 あと……そこまでうまくいくかどうか、今の時点では何ともいえないけど……それでも、ボクたちは、このまま一般人の人たちに混ざって生活していくという可能性を、まず一番に選択したいと思っている。
 ボクたちはここでの生活を気に入っているし……ここには……大切な人たちが、いるから……。
 だから……あらかじめ言っておくけど……ボクたちが一族のいずれかの勢力に帰属する可能性は……かなり、少ないよ」
 いつの間にか、一般人も含めたその場にいる全員が、その会話に注目している。
 話題になっているのが「進路」ということで、特に学生連中にとっては、自然と興味が向くのだろう。
「……ねぇ……」
 それまで旺盛な食欲をみせていたガクが、いつの間にか箸を止めている。
「ボクたちも、その……いつかは、バラバラに、別れ別れに……なっちゃうのかな?」
 普通に考えれば、ナイーブすぎる設問、ではあったが……ガクは、今までテン、ノリと常に一緒にいる、という環境で育ち、「それが当然」、「今後もそれがずっと続く」と、思っている。
「いつかは、自然にそうなるよ」
 テンは、素っ気なく答えた。
「人間は……いろいろなことを経験して、どんどん変わっていく存在だし……。
 現に、ノリはもう自分だけの道を歩きはじめているし……。
 いきなりどうこうっていうことはないだろうけど……自然に変わっていって、離れる時は、やはり自然に離れていくと思うんだ……。
 一般人って……普通の人たちも、そういうのが、普通なんでしょ?」
 最後の質問は、舞花たち、「普通の学生」たちに向けられた問いだった。
「まあ……ある年齢まですごく仲が良かった友達と、クラスが別になったとかで疎遠になるっていうことは……普通にあるけど……。
 でもそれ、別に相手のことが嫌いになったから、っていうわけでもなくって……」
 舞花はしどろもどろになりながらも、特殊な生い立ちを持つガクに、懸命に「普通の感覚」を説明しようと試みる。




[つづき]
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