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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(294)
賑やかな夕食が終わり、来客たちが三々五々に帰って行った後、香也は羽生に「先に風呂に入っちゃいなよ」と勧められ、素直にその言葉に従った。
羽生と楓、孫子は洗い物をしているし、テンとガクは、居間でノリと話し込んでいる。ノリが帰ってきてからこっち、バタバタとしていて、ようやく落ち着いて「積もる話し」をする余裕が出来た、ということなのだろう。
おかげで香也も安心して風呂場に向かうことが出来た。
何度かの奇特な経験を積んだおかげで、ここ最近の香也は、みんなが風呂を使った後、一番最後に入るようにしている。
「……っと、後は、洗濯か……。
真理さんが、風呂場の方にどさりと持ってきたっていってたな……」
三人がかりで一通りの洗い物を済ませると、羽生はそう呟いた。
普段の洗濯物に加え、全部、とはいわないが、真理とノリ、二人分、数日分の洗濯物がある。相応の量になるだろうし、早めに取りかかっておいた方が後々楽だった。
「あっ。
わたし、いってきます……」
楓が片手をあげた。
「わたくしも」
孫子も、楓についていくことにした。
孫子にしてみれば、香也が風呂に入っている今、たとえ脱衣所までではあっても、楓一人を風呂場に行かせるわけにはいかないのだった。
「まあ、まあ……。
二人で、仲良くな……」
羽生は苦笑いをしながら、そう答える。
二人で行く分には、どちらかが入浴中の香也に突入しようとしても止めるだろう、と、羽生は考えた。
「……短い間に、いろいろあったんだね……」
ガクとノリから自分の不在時のことを詳しく聞いたノリは、そう感想を述べる。もちろん、ごく簡単な情報は、二人から携帯やメールで知らされていたのだが、直接二人の口から聞けば、また違った感想を持つ。
「……そういうノリの方は?」
ガクが尋ねた。
離れていた間に、何があったのか……という質問だ。
「背が伸びた」
「見ればわかる」
即答したノリに、即応するテン。
「他には?」
ガクが、重ねて尋ねる。
「……うーん、と……ねー……。
真理さんにつき合って、美術館とか画廊とかいって、いっぱいいろいろな絵を見てきた。
そんで、都会とか都会でない所とか、いろいろな土地をみて、前の服が着られなくなったんで、真理さんが新しい服を買ってくれて……」
ノリが、のんびりとした口調で答える。
「つまり、ノリは……ボクたちが苦労していた時、ノリはゆっくりと観光三昧していたわけか……」
テンは、わざとらしく重々しい口調を作る。
「……都会でおいしいもん、いっぱい食ってきたんだろう……」
ガクは、憮然とした表情を作る。
「観光っていうほど、ゆっくりとはしていられなかったけど……。
だって、二、三日ごとに引っ越ししているようなもんだよ?
それに、毎回、外食とか出来合いのお弁当ばかりだと、すぐに飽きるって……。
二人とも、毎日手作りのご飯食べられたんでしょ?
そっちの方が、ずっといいって……」
「……うっ……」
ノリがそういうと、ガクは覿面に怯んだ。
「毎日、お弁当……。
のらさんの所にいた時みたいな……」
かつて、島からこっちの世界への移行期間、三人は数週間に渡って野呂良太に預けられ、「一般人社会への馴致期間」として過ごしたことがある。
野呂良太は別に三人を虐待したわけではなかった。むしろ、三人のやんちゃぶりtによく耐えながら、辛抱強く三人に「一般常識」を教え込んでいってのだが……。
その間、世間とはほぼ隔絶した環境下におかれた三人の食事は、野呂良太が調達してくる仕出し弁当を食べて過ごしている。
お世辞にもうまいものではなかったし、それ以上に、同じようなメニューの繰り返しで、その味は恐ろしいまでに単調だった。結局、三人は、その弁当の単調さに辟易し、積極的に野呂良太が教え込む「常識」とやらを吸収するようになる。
そこから解放されて(と、同時に、野呂良太も三人から解放されたのだが。「一刻も早く、この状況から解放されたい」という点において、当時の三人と野呂良太の利害は見事なまでに一致していた)この家に来た時、一番感心したのはご飯がおいしく、また、多品目であることだった。料理を作る人数が多い、ということもあり、作り置きの総菜を入れ替わり立ち替わり作っていたため、一食あたりの皿の数が、増える。また、日常の料理だけではなく、数日に一度の割で、今夜がそうであったように、宴会じみた騒ぎが起こる。その折に食べられる普段とは違った食事も、三人を満足させていた。
「そういう二人だって……ボクがいない間に、いっぱいおいしいもの食べてた癖に……」
ノリはそういってジロリとテンとガクを睨んだ。
「向こうには、マンドゴドラはなかったし、先生みたいな便利な人も、どこにもいなかったぞ……」
ノリは、まるで三島百合香が専属の料理人であるかのようなことをいう。
別にやましいところがあるわけではなかったが……三島の料理とかマンドゴドラのケーキとかを、ノリの不在時も存分に食べていたテンとガクは、何気なくノリから目を逸らしてしまう。
食べ物の恨みは、根深い。
ことに、成長期においては。
「……それに、おにーちゃんとだって……ずっといた癖に……」
ノリの声が少し低くなった。
「そ、それは、そうだけど……」
ガクは、あたふたとノリと……テンの顔を見合わせる。
「でも……楓おねーちゃんと孫子おねーちゃんばっかりだよ。おにーちゃんといいことあったの……。
ボクたちは、なんだか割り込む隙がないっていうか……」
「確かに」
ガクの言葉に、テンが頷いた。
「なんだか進展しているよね、あの二人だけ……」
三人は、顔を見合わせて頷き合った。
……ノリが不在だった身時間期間で、三人の関係は前より密になったような気がする……。
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つづき]
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