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彼女はくノ一! 第五話(302)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(302)

「……えっ? ……えっ?」
 ノリは、困った顔をして、香也、それに、左右にいるテン、ガクの顔を見回す。ノリ自身もかなり混乱していたが、それに輪をかけて、テン、ガクの二人も戸惑った表情を浮かべていた。
「……ええっ、と……おにーちゃん……」
 困惑顔の三人を代表して、テンが片手をあげて、周囲の女性たちをぐるりと示した。
「念のために、聞くけど……その……こういうの、いやなの?」
 テン、ガク、ノリの三人にくわえ、楓と孫子、それに羽生……すべて、全裸。
「……んー……。
 ……好きかどうかっていったら、そりゃ、嫌いではないけど……」
 香也は、泣きそうな顔をしているノリの頭を撫でてから両脇に手をいれ、「……よいしょっ……」と声をかけて、自分の腿に乗っているノリの体を降ろした。
「……でも、それは……性欲だから……。
 その、現に、こうなっているから……とてもじゃないけど、嫌いだなんていえないけど……」
 香也は股間を指さして、いきり立ったままの分身を指さす。
「でも……こういうのと、みんなが求めているのとは……ちょっと、ズレているんじゃないかなぁって……。
 ここでみんなとえっちしても……それで、何が変わるかというと……何も、変わらないと思う……」
 諄々と諭すように語りかける、香也。
「で、でも……にゅうたんの本では、こんなことすると、最初は嫌がってたり痛がってたりしても、すぐに気持ちよくなって、あんあんいって最後にはみんな、ハッピーになったりするけど……」
「……んー……」
 香也は天を仰いだ。
 どうも、様子がおかしいと思ったら……そうか……羽生さんの、エロ同人誌の内容を、真に受けていたのかぁ……とか、香也は納得する。
「……ああいうのは、そういう刺激を与えるのが目的のものだから……都合良く脚色されているし、誇張もあるし……現実とは、全然、違うよ……。
 現に、ノリちゃん……今も、かなり痛がっていたと、思うけど……」
 香也がそういってノリの方をみると、ノリは後ずさってガクの背中に身を隠した。
「……痛いとかそういうのは別にしても、こういうことは、あんまり軽はずみにしちゃあ、いけないと思う……。
 よくいえないけど……ぼくも、正直、よくわからないことばかりなんだけど……相手の意志を無視して、無理矢理っていうのは……やっぱり、なんか、違うと思う……」
 香也は誰かを責める口調ではなく、淡々と、向きような口振りで、自分が抱いた違和感を説明する。
 それから、唐突に大きなクシャミをして自分の肩を抱きしめ、
「……んー……。
 寒い……。
 お風呂……」
 とか、いいながら、湯船の中に入ろうとする。
 香也は強引に隙間をあけたりはしなかったが、自然と、香也を取り囲んでいた少女たちは香也の前から退き、前の空間を開けた。
 そして、毒気の抜かれた表情をして、残りの全員も香也に続いて湯船に入り、肩まで浸かった。

 とりあえず、大事に至らずこの場が収まったことに安堵しつつ、羽生は、
『……こーちゃん……。
 思っていた以上に、ずっと大物っぽいな……』
 とか、思いはじめている。
 計算ではなく、天然で、あの場をあっさりと納めてしまう、というのは……やはり、誰にできることでもない。
「……なぁ、こーちゃん……」
 湯に浸かりながら、羽生は、ふと思いついた疑問を香也にぶつけてみた。
「こん中の誰かでも、あるいは、わたしたちが全然知らない人でも、いいんだけど……。
 こーちゃんは、さ。
 誰かに嫌われてたりしたら、怖いとか……逆に、好かれたいとか、思ったこと……ないのか?」
 天然……という言い方が、悪ければ……香也は、こと対人関係の問題になると……「他人」という存在に対して、極端に無関心で……感情移入する度合いが低いから、思ったことを好きにいうことができるのではないのか……。
 今のやりとりをみて、羽生は、そんな印象を持った。
 香也は、例によって、
「……んー……」
 と、唸る。
「ぼく……その、どういうふうに説明したらいいのか、わからないんだけど……誰かのことを、好きとか嫌いとか、そういう感覚……よく、わからないんだよね……。
 今まで、そんなにイヤな人に出会わなかってこなかった、というのもあるけど……」
 ……やっぱり……。
 と、羽生は納得する。
 香也は、もともと……極端に人付き合いの悪い……学校に通うようになっても、自分から友人を作ろうとはしない、子供だった……。
 香也は……色恋沙汰がどうこういう以前に……他人への関心が、極端に、薄い。
 他人に好かれようが、嫌われようが……香也は、まるで頓着しないのだろう。
「……今日、ノリちゃんの絵を、見た時……」
 羽生が、何故そんな質問をぶつけてきたのか……香也も、悟るところがあったらしい。
「……ああ、これは、ボクの絵だな、って思った……。
 その……絵を描いた人が、描いた対象をどうみて、どう思っているのか、見当がつかない……。
 でも、ノリちゃんの場合、まだ絵というものがどういうものなのか、知らないで描いているだけだけど……ぼくの場合は……ぼくの、絵は……」
 ……本当に、うつろなんだ……と、香也はぼそぼそとした口調で、話した。
「……たぶん、だけど……。
 ぼくは、みんなと違って、どこか……。
 ここか、ここか……わからないけど……」
 と、香也は、人差し指で自分のこめかみをさした後、親指で自分の胸を示してみせる。
「……とにかく、どこかが、欠けているんだと思う。
 本当に、どうしようもないのは……」
 ……自分に欠落がある、という自覚があっても……そこことに対して、なんの感慨も抱けない……そうなんだろうな、って気づいたときから……今までに一度も、悲しくは思わなかったことなんだ……。
 といった意味のことを、香也は、平坦な口調で語る。
「……みんなは……普通の人より、優れた人たちだけど……ぼくは、普通の人以下の、欠陥品だから……」
 あまり、本気で相手にしない方が、いいよ……と、香也は真顔でいいいきった。




[つづき]
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