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彼女はくノ一! 第五話(318)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(318)

「……ええっと……」
 一通りの事を香也から聞いた後、堺雅史は香也を指さし、柏あんなにこういった。
「……彼……あんなちゃんがいうような、何人もの女の人、手玉に取るような、器用なタイプに……見える?」
 結局、これが決定打になった。
「全然、見えないっ!」
 柏あんなは即答して、ぶんぶんと激しく首を振った。
 聞きようによってはかなり失礼なやりとりだが、当の本人である香也は特に気にする様子もない。
「それじゃあ……そういうことだよ……」
 堺雅史は、ため息混じりに、静かな口調で話しはじめる。
「狩野君……あまり、自分から話しかける人ではないけど……それでも、誰かから話しかけられたら、正面から相手してくれる人だと思う……。
 喧嘩腰で乗り込んできたあんなちゃんとだって、こうしてきちんと話してくれているでしょ?」
 堺は、自主制作ゲームの関係で香也とは何度か話したことがある。その時の印象からいっても、柏あんながいうように、年下の女の子を何人も同時に攻略する程、覇気がある人間だとは思えなかった。
「……もう……いい……。
 わかったから……」
 柏あんなは、膨れながらも、自分の思いこみの方が間違っているのかも知れない……と、思いはじめた。
「でも……狩野君、なんでそんなにモテモテなわけ?
 松島さんとか才賀先輩は、前からだったけど……あんな小さい子たちからも、なんて……」
「……三人のうち、ノリちゃんはもう小さくないと思うけど……」
 堺が、小さな声でつっこみをいれたが、あんなは無視した。
「……んー……。
 それは……あの子たち本人に、聞いてみないと……。
 ぼくの方からは、なんとも……」
 香也としては、困惑顔でそういうしかない。
「……それも、そうか……」
 あんなも、香也の言葉に頷いた。
「じゃあ……才賀先輩……は、なんとなく怖いから、松島さん、呼ぼうか?」
「……いや、松島さん、今忙しいし、迷惑だからっ!」
 携帯を取りだそうとしたあんなを、堺が押しとどめる。
「それに……松島さんとか才賀さんの気持ちは、普段の態度で、もう分かっているしっ!」
「いわれてみれば……それも、そうか……」
 堺に制止され、あんなは天井を仰ぐ。
「ちびちゃんたちを、ここまで呼びつけるわけにはいかないしな……。
 そうだっ!
 狩野君っ!」
 香也は例によって、「……んー……」と、はっきりしない返答をした。
「……狩野君の気持ちとしては、どうなのっ!」
 あんなは、勢いこんで香也に問いかける。
「今のところは、特に誰か一人をってことは、ない……」
 この前も……いいや、何度か同じ質問をされているので、香也にしてははっきりとした口調で返答する。
「というか……本気になれないのに、無理に誰かを選んでつき合おうとするの……どこか、間違っていると思う……」
 香也にそういわれて、柏あんなは虚をつかれたような表情になる。
「……い、いわれてみれば……誰かを選ばなければいけない、って前提も……あれだけど……」
「……ぼく……そういうの、自分には、まだ早いんじゃないかなーって……。
 彼女どころか、まともに、他人とつきあったこと、ないし……」
 ぽつぽつと、香也は言葉を紡いでいく。
「誰かと一緒にいるより……一人で、静かに絵を描いていたい方だし……」
 静かな口調で、しみじみと、そういう。
「……あっ……」
 あんなは、段々、香也をいじめているような気がしてくる。
「そ、それは……あれ……どーしても、誰かとくっつかなくてはいけない、ってわけでは……」
 あんなは、露骨に動揺し、顔を左右に振って、堺と香也を交互にみる。
「……ほらね……。
 香也君は、こういう人なんだから……」
 堺は、深々とため息をついた。
 堺は、あんなよりは、香也の性格を深く理解している。
「……誰もが恋愛に積極的でなければいけない……ってわけではないし……。
 それに、狩野君も……あんな子たちに迫られても、適当なところで流されまいとしている、っていうのは……それはそれで、強い意志を持っていると思うけど……。
 あれだけの美形揃いの中で、自分の意志を保っていられる、というのも……。
 な、なに?
 あんなちゃん……」
 気づくと、あんなは、堺の横顔をじと目で睨んでいる。
「まぁくん……」
 あんなは、猜疑心に満ちた目つきで、堺に尋ねた。
「狩野君が、うらやましい?」
「や、やだなぁっ!
 そ、そんなこと……いや、ほんの少しは思ったけど、それより、狩野君……。
 よく、持ちこたえているなぁ、って……。
 い、いやっ!
 一般論だよっ! 一般論っ!
 今の狩野君の状況で、平然としていられる男子の方が少数派なんだからっ!」
 香也を弁護したり、弁明したりと、なにかと忙しい堺だった……。
「……いいけど……」
 今度はあんなが、ため息をついた。
 それから少し考え、あんなは、いきなり、
「……あっ! 例のブツっ!」
 とか、叫び出す。
「……例の、ブツ……」
 堺が、怪訝な表情になる。
「ほらっ! 少し前、才賀先輩がいきなりうちに来て、まぁくんのお茶にいれて大変なことになった……」
「あっ! あれっ!」
 堺も、柏に続いて小さな叫び声をあげた。
「そっか……あれ……先輩……狩野君に……」
「……あんなの使われて、誘惑されたら……目の前の女の人、襲っちゃうよね……」
 孫子が前に使用した薬物の効果を、実地に試していた二人は、頭を寄せてこそこそと囁きあう。
「……あ、あの……」
 やがて、あんなが、顔をあげて、香也に確認した。
「その……才賀先輩に、おかしな薬とか飲まされて……大変なことになったりしたことは……」
「……ん……」
 香也は、少し考えてから、正直に答える。
「……ある。
 二度ほど……無理に、飲まされて……」
 その時の香也の口調と表情から、あんなは、
「……やっぱり、狩野君……。
 加害者というより、被害者だ……」
 と、再度、確信した。




[つづき]
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