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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(259)

第六章 「血と技」(259)

 決着がつく前、すなわち、賭が成立する前に荒野が孫子と静流を止めたことに関して、ギャラリーから不満の声があがったが、荒野は気に止めることもなかった。こんなところでどちらかが潰れるまでやり合っても、何のメリットもない。
 それよりは……。
「才賀。
 今のの、感想は?」
 荒野は孫子に、声をかける。
「打突中心はいいのですが……攻撃が直線的で、単調すぎます。いくら速度があっても、軌道が読めれば捌きようはいくらでもあります……」
 答える孫子は、息を乱してもなかった。
 静流と組み合いを開始してから荒野に制止されるまで、一分にも満たない短時間の出来事であったとはいえ、運動量的にはかなり激しかった筈だが……その程度では、孫子の息はあがらないらしい。
「……それじゃあ、今の静流さんの攻撃、捌ける自信がある人……」
 荒野は、今度は孫子に背を向けて、賭を中断されたことに抗議の声を上げていた一族の者に、尋ねた。
 荒野がそういった途端、それまで騒がしかった連中が、しーんと静まり返る。
「……ったく……。
 これだから……」
 荒野は、小声で悪態をついた。
「……国内の術者の水準、思ったよりも落ちてるじゃねーのか……」
 もちろん、わざと聞かせるために、いっている。
「……太介や高橋君あたりも、駄目か?」
 三人組と同年輩のこの二人は、今集まっている術者の中でも、最年少にあたる。
「……早すぎて、避けきれません……」
 高橋君が、悄然とうなだれて、答えた。
「……目で追えるから、何とかブロックはできると思いますが、それ以上のことは……」
 甲府太介は、「受け止めるので精一杯だろう」といった意味のことを答える。
「……酒見たちは?」
 今度は、荒野は、酒見姉妹に水を向けた。
「「……二人一緒でなら、反撃も可能です……」」
 双子は、声を揃えて返答する。
「……いいかえると、単独だと手も足もでない、ってことだな……」
 荒野は、双子の返答を、言い換え、ひとしきり頷いた。
「……お前ら、先天的な能力に頼りすぎ……。
 例えば……」
 ふっ、と、荒野の姿が消えたかと思うと、荒野を取り囲んでいた一族の者が、一斉にばたたばたと倒れはじめる。
「……今、後ろに回り込んで足払いをかけていっただけなんだけど……今のおれの動き、追えた人、いる?」
 少し離れた場所に出現した荒野が尋ねると、楓、茅、テン、ガク、ノリが片手をあげる。
 飯島舞花や栗田精一は「……えっ? えっ? えっ?」と疑問符を顔面にイッパイに張り付けた表情で目を見開き、孫子は、手こそ挙げないものの、自信がありそうな表情で見守っている。
 孫子の場合、たとえ目で動きを追えなくても、自分に近づいてきたものに対して、身体が適切な反応することを、確信しているのだろうな……と、荒野は思った。技を練り上げる、というのは、そういうことだし、また、そうでなくては、先ほども、静流の動きを対応できない。
「……楓……。
 ご苦労だが、今日は、時間いっぱい、こいつらを投げ飛ばしてやれ……。
 茅も、その動きをみるだけで、十分な学習になるし、初日ならそこまでで十分だろ。
 茅は、見学して分析した結果を、才賀と静流さんに出来るだけ詳細に報告。三人組も、それをよく見ておいて、後で分析して、自分らなりに対策なり応用なりを練ること……。
 あっ。
 三人組と酒見姉妹は、楓の真似ができるんなら、楓を手伝ってもいいぞ。返り討ちにあっても知らないが……」
 荒野は、楓にも自信を付けさせておきたかったので、そう命じた。普段、荒神の相手をしている楓にしてみれば、今ここにいる連中は、いくら人数が多くても、ものの数ではない筈だ。

 そんなわけで、その日の朝、河川敷の空には、大量に人間が舞った。

「……いやー。
 今朝は、すごい見物だったな……」
 登校中、飯島舞花はしきりにそう繰り返した。
「……玉木あたりにいったら、撮影したがるんじゃないのか、あれ……」
「……撮影するのは、いいけど……あいつ、朝弱そうだから、出てこれないんじゃないか?」
 荒野はそう答えておいた。
「それに、ああいうのは多分、今日だけだよ。
 今日は、うちの軟弱なやつらに活を入れるために、楓に派手なパフォーマンスして貰っただけで……」
「……確かに、あの方々、もって生まれた身体能力を頼りすぎる傾向は、ありましたわね……」
 孫子も、荒野の言葉を肯定した。
「あの場では……六主家の出ではない楓が派手にやることが、効果的であったと思います……」
「……ああやって身体で思い知らされれば、いやがおうでも認識を改めるだろ……」
 荒野としては、一族の関係者の慢心を諫める効果さえあれば、それでいい……と、思っている。実際問題として、ある程度、練度をあげておかないと、「その他大勢」の手駒としても利用できない。
 悪餓鬼ども、みたいな得体の知れない連中を相手にするには、やはり相応に信頼できる駒を揃えておきたかった。
「……茅も……見ているだけでも、十分、得るところはあっただろう?」
 荒野は、今度は茅に水を向ける。
「荒野は……速度や筋力など、基礎能力が高い相手に対抗する手段を模索しているの」
 茅は、そういって頷いた。
「孫子や楓のように……先天的な資質をカバーするために、技を極める、というのも、有力な選択肢……」
「……方法は、それだけではないと思うけど……」
 荒野は、頷く。
「なにも、バカ正直に、相手が得意とするところで勝負することはないし……。
 もっと相手の情報がつかめれば、バックアップ組織を叩いたり、資金源を絶つとか……直接やり合わなくても相手を弱体化したり無力化する方法なんて、いくらでもあるんだけど……」
「苦戦するとわかっている相手と直接戦うよりは、相手の弱い部分をじりじと追いつめていくのは常道ですが……その、情報収集の方は、どの程度進んでいますの?」
 孫子が、荒野に疑問を投げかける。
「今のところ、全然、成果があがっていないね。
 昨夜、もっと捜索の手を広げるように、手配しておいたところだけど……何らかの結果が得られるのは、もう少し時間がかかるだろう……」
 荒野は、孫子にそう答えた。
「話しを聞いていると……なんだか、本物の戦争みたいだな……」
 飯島舞花が、ため息まじりにそんなことをいった。
「……戦争っていうよりも……カウンター・テロ、なんだけどね……」
 荒野は、そう答えておいた。
「現実的にいうと……これだけ手がかりが乏しい相手に、暴発しないように注意しながら警戒を続ける……って、長期戦になればなるほど、こっちが消耗していくだけし、それに、慢性化すると、警戒体勢もどうしてもだらけていくだからさ。
 早いところ、敵の姿や目的をはっきりと把握したいんだけどねー……。
 こっちとしては……」
 そうした事柄がはっきり把握できないと、荒野としても、せいぜい、警戒を強める……といったことくらいしか、することがないのであった。
「……でも、まあ。
 ようやくこっちからアクティブに探りを入れられる体勢になってきたわけだし……そうそう悲観的な材料ばかりでも、ないかなってところで……」
 気づくと、舞花だけではなく、その場にいた全員が、荒野に注目していた。
「……なに?」
 荒野がいぶかしげな声をあげると、
「……いえ……」
 孫子が、前に向き直って、答える。
「……無為無策のようにみえて、これでなかなか、いろいろなことを考えているのだと、感心したところです……」
 他の連中も、孫子の意見に同意なのか、いっせいにうんうんと頷きだす。
「……お、おれ……そんなに、なにも考えていないように見えるか?」
 荒野が、てきめんに狼狽した声をだした。
「荒野は、それでいいの」
 茅はそういってくれたが、後に続く言葉も考慮すると、あまりフォローになっていないような気も、する。
「……人の上に立つ人は、どっしり構えていればいいの。
 後はなにもしなくても……」




[つづき]
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