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彼女はくノ一! 第六話(1)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(1)

「……二月も、後半っと……」
 羽生譲はカレンダーの前で日付を確認すると、ぶるっと肩を震わせた。
「……まだまだ、寒いなあ……」
 この日、ファミレスのバイトはオフだった。羽生は週末や休日に積極的に出勤するように心がけているため、必然的に、オフは平日となることが多い。そして、オフの日、羽生はたいてい昼近くまで寝ている。
「……流石に、この時間だと、誰もいないか……」
 居間にある柱時計は、正午までまだ一時間余りの余裕があることを示している。それに三人組も、最近では、徳川の工場に入り浸っているようで、昼に帰ってくるのかどうかも定かではない。
 羽生は、そんなことを考えながら、台所へ向かう。
 冷蔵庫の中に、ラップにくるんだ総菜が用意されていた。これと冷凍庫にあるご飯をレンジにかければ、一食分の食事になる。誰かが、気を利かせて羽生の朝食を用意してくれたのだろう。
 交代で分担して、炊事洗濯なども家事もこなしてくれるし……基本的に、みんないい子だよな……などと思いながら、羽生は冷蔵庫の中の皿をレンジに放り込んで暖めた。
 続けて、冷凍庫の中の常備品から、茶碗一杯分づつラップに小分けしてあるご飯を取り出し、それもレンジで暖め、それに漬け物や冷蔵庫の総菜を適当に出して、遅い朝食をとる。総菜、といっても溺愛のものを買ってきてそのまま、というわけではなく、大半は少し多めにつくって小分けして食べているので、なんだかんだで食材の品目も多くなっているし、食生活的には、この家の住人はかなり恵まれているのではないか、とか、思う。
 現在は、香也以外の住人が競うようにしてレパートリーを増やしているところだった。そのおかげで、ここ最近、今まで常備していなかった香辛料や食材が台所に入り込んでいる。
 だから、この日の朝の、羽生の食事も、一人きりとはいえ、特にわびしいとかは感じなかった。仕事に出ている時は、狭い控え室で、職員割引の賄い食を短い休憩時間中にかき込まなければならないわけで、そうした慌ただしい食事に比べれば、かなりましな内容だと思う。
 テレビをつけ、奥様向けの情報番組をみるとはなしに目を向けながら、ゆっくりと時間をかけて食事を摂る。どのみち、この日も、特に用事があるわけではない。まとまった時間が取れたので、ひさびさに自分の絵を描こうかな、とか、思っているが……。
 ……こーちゃん、本当……どーするつもり、なんだろう……。
 自然と、思考は昨夜の香也とのやりとりのことになってしまう。
 結局、さんざん考えた末、香也はやはりはっきりとした結論を出さなかったわけだが……。
 ……こーちゃんには、まだ荷が、勝ちすぎるのかな……とか、羽生は思った。

 食事を済ませた後、羽生は着替えて庭に回り、スーパーカブにまたがった。天気も良かったし、一日中、家に籠もっているのも気が滅入るので、適当に買い物をしてくるつもりだった。

 商店街のはずれで適当にスーパーカブを止め、商店街をぶらつく。イベントが終わったせいか、昨日までほどの人出はなく、極端に人が少ないような気がしたが……それは、慣れによる錯覚というもので、平日の駅前は、以前から、だいたいこれくらいは閑散としていたものだ。
 まばらにしかいない買い物客の間をぬって、廃材を満載した二トントラックが、徐行しながらアーケードの外に出ようとしてくるのにいきあった。どうやら、メイド喫茶などの期間限定のお店の内装を解体したものを、撤去しているらしい。
 店舗のシャッターも、半分以上が降りている。駅の乗降客自体が、最盛期の半分以下になっているそうだから、この程度が「正常」な姿なのだろう……と、羽生は思う。 
 地元の住人も、大半が車両で移動する生活にシフトしているし、イベントがなければ、本当に「ご近所」の人たちしか買い物に来ないような、そんな場所だった。
 見慣れないつなぎの制服を着た大学生くらいの若い男女が、商店街のそこここでゴミを集めて大きな袋にいれたりしている。制服の背中に大きく「才賀グループ」のロゴが入っていたので、どうやら孫子の会社がすでに稼働しているらしい、と見当がついた。資金は孫子自身がかき集めていたようだが、社会的な信頼性を考慮して、才賀系列の会社、という形にしたのだろう、と、羽生は予想する。その方が、備品類も調達しやすいだろうし……。
 そんなことを考えながら、商店街を歩いていると、
「……ゆず先輩っ!」
 と、声をかけられた。
 振り返ると、袴の上に上着を羽織った柏千鶴と野呂静流が立っている。
「……おー。
 ちづちゃん……と、グラサンのおねーさんっすか……。
 なに、その格好。これから、道場いくん?」
 羽生は、片手をあげながら、そう返事をする。
 学生時代からの知り合いである柏千鶴が、幼少時から継続して合気道を嗜んでいることは、仲間内では有名な事実だったし、道場にいく途中でなければ、町中で袴姿でいる理由もない。
「ええ。
 野呂さんが興味があるとかで、これからお師匠さんにご挨拶にいくところで……」
「で、伝統武術にも、ま、学ぶべきことが多いと、知る機会がありまして……」
 いつものように、白い杖にサングラス姿の静流が、羽生に向かって会釈する。足下には、大きな犬が相変わらず当然のような顔をして鎮座していた。
 ……この人、カッコいいこーや君の話だと、「かなり強い」ってことではなかったっけ? あの人たちの中で「かなり強い」っていったら、大変なものだと思うけど……それ以上を求める意味、あるのかいな……などと、疑問に思いもしたが、その疑問を口にする前に千鶴が、「……今度、静流さんのお店をお手伝いすることになって……」などと別に話題をだして、軽く立ち話しをしてすぐに別れた。
 その後、ぶらぶらと商店街を歩きながら適当に食材を調達し、スーパーカブの荷台に買ってきた食料を乗せて帰路につく。
 帰って少し休憩した後、適当に自分の絵に取り組んで、その後、たまには夕食を作っておこう……などと考えながら……。

 庭にスーパーカブを入れたところで、「にゅうたんっ!」と、声をかけられた。
「……おー、ノリちゃんかぁ……。
 なに? 今日は、みんなと一緒じゃないの?」
「にゅうたんに聞きたいことがあって、先に帰ってきた。今日、にゅうたん休みだし……」
 ノリは、羽生の腕からビニール袋を取り上げながら、答える。
「……あのさ、マンガみたいな絵の描き方なんだけど……」
 と、いいかけたところで、ノリはぴたりと動きを止める。
「……ん?
 どったの?」
 羽生が、訝しそうな顔をして、プレハブの方を向いたまま凍りついているノリに尋ねた。
「……あそこに、誰か、いる……」
 ノリは、一度受け取った荷物を羽生の胸元に押しつけ、ずんずんとプレハブの方に向かった。
「……お、おい……」
 荷物を抱えた羽生が、声をかけようとすると、
「……しっ! 静かにしてっ!
 にゅうたんは、ここで待ってって……」
 ノリは、羽生を足止めして、プレハブの戸をがらりと開いた。




[つづき]
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