2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第六話(22)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(22)

 そういったっきり、孫子は絶句した。
 楓がいうとおり……荒野たちが「悪餓鬼たち」と呼称する者たちが、「あの時点で、徹底的にこちらが嫌がること」をせずに去っていった理由が……思いつかない……。
 あの時点では、こちらは「悪餓鬼たち」の存在すら知らなかったし……それどころか、予想すら、していなかった、つまり、無防備だったわけで……攻撃のタイミングとしては、これ以上の好条件は、ない……。
 現に、あの一件で彼らの存在を知て以来、こちらは、総出で着々と「迎撃」の準備をしているわけで……そもそも、悪餓鬼たちは……何故、そんな余裕を……わざわざ、こちらに、与えたのだろうか……。
「この間の竜斎の一件でもわかるように……術者間の能力の差は……ともすると、一般人と一族の能力差以上に、開いている……」
 孫子は、呟く。
「……Yes……」
 それまで湯呑みを傾けて、聞く一方だったシルヴィが、孫子の言葉に反応した。
「五十人からの術者をまともに相手にして……一方的に手玉に取った、神を僭称する不遜な男も、存在するくらいですから……」
 孫子が誰の、どんな事例について話しているのか、理解している者は、その場にはいなかったが……全員が、沈黙した。
「あの……さ」
 ノリが、ぼそりと呟く。
「あんまり、こういうこと、考えたくはないんだけど……考えられる理由として、ボクたちの準備が整った方が……相手にとっても、都合がよかった……とか?
 ボクたちが準備を整える時間を与えることになっても……向こうにしてみれば、自分たちがさらに成長する時間が、欲しかった……っていう、ことなんじゃないかな……。
 だって、その人たち……ボクたちより、後に生まれたわけだから……まだまだ、小さいんでしょ?」
「……その仮定が、真であるとすると……」
 孫子は、冷静に指摘する。
「当時のわたくしたちの戦力では……彼らの遊び相手にすら、ならなかった……と、その時点でも、相手に判断されたことになります……」
「ボクたちにとっては、あれ……シャレにならない攻撃だったけど……彼らにしてみれば、目一杯、手加減した……軽い、遊びだったってこと?」
 ガクは、俯いて、震える声でいった。
「……そ、そん……なの……」
 ガクは、あの時に、入院までしている。
「でも……そう考えると、せっかく確保した現象をやすやすと手放したことも、説明がつきます……」
 孫子は、あくまで冷静な口調で続ける。
「彼らは、自分たちの勝利を確信している。あの時点でも、わたくしたちが必要と思える防備を固めた、その後の時点でも……。
 だから……いつでもとどめを刺せる、と判断したから、あの場ではたいしたこともせずに、去った……。
 それ以外に、彼らが……あの時点で攻撃を躊躇う、合理的な理由は……思いつきません……」
「同感っす」
 佐久間梢が、孫子にの意見に賛同した。
「負ける要因がないのにも関わらず、叩ける時に、叩かなかった……というのは……向こうにしってみれば、まともに攻撃している、という意識すら、なかった……ということになります……。
 いいかえれば……」
 遊ばれていた……と、いうことです……。
 と、佐久間梢は、いった。
 しばらく、誰もが何もいわなかった。
「……加納が、彼らを、悪餓鬼、と呼ぶ根拠に……納得がいきました……」
 数十秒、沈黙した末、孫子が、誰にともなく頷く。
「彼らは……卓越した力を与えられながら……当たり前の、社会性や倫理感を持ち合わせていない……。
 また、彼らを育て、バックアップした人々も……そうした行為を、容認している……あるいは、彼らは、すでに……バックアップのコントロールから、離れている……。
 善悪の判断もつかない、卓越した力を与えられた存在が……何の抑制もないまま、自分の欲望のままに振る舞いはじめたら……」
「じっちゃんが、いなかったら……ボクらも、そうなっていたかも知れない……」
 ぽつり、と、テンが呟く。
「確かに……躾の行き届いていない、悪餓鬼だよね……。
 しかもその悪餓鬼どもは、一族よりなんかよりも……能力的には、凌駕している。
 それに、現在の居場所、実のところ、何を考えているのかも……まるで、わからない……」
「その、Bad Kidsという呼称は、実はヴィがいいだした名前なんだけど……」
 シルヴィが、口を挟む。
「荒野でなくとも、いやというほど尻を叩きたくなるね……」
「……仮に、首根っこを押さつけて、取り押さえることができたとしても……」
 ノリが、指摘した。
「そんなのを、再教育するとか、なったら……するほうも、それこそ、命がけじゃないか……」
「なに?」
 ガクが、軽い驚きの声をあげる。
「かのうこうや、って……あの、現象を佐久間に引き渡した夜の時点で……そこまで、見越してて……その上で……ああいうこと、いってたの?」
「でも……」
 今度は楓が、口を挟んだ。
「……加納様は、本気で、それをやるつもりですよ。
 攻撃や排除よりは、捕獲を優先すると明言されていましたし……。
 今のところは、いろいろなところに手を回して、捜査網を構築しているところだと、聞いていますが……」
「……そ、そうです……」
 静流が、いった。
「の、野呂の中から、そうした調査が得意な者を選んで、す、すでに動ける者から、動いて貰っているのです……。
 い、今は、研究所の生き残りの、再追跡調査などから、手を着けて貰っています。
 な、なにぶん、昔のことですし、調査に多少、じ、時間はかかるでしょうが……この手の人探しが得意な者は、野呂にはいくらでもいるのです……」
「はいはーい……」
 その時、お盆をかかえた羽生が、居間に入ってきた。
「なんか、シリアスな話しをしていたみたいだけど、とりあえず、ご飯ができたから……おこたの上、片づけて……」
 沈みがちだったその場の空気が、羽生の声で、ふと、軽くなった。
 みんながみんな……深刻な予想ばかりがでてくるこの場の空気に、少々疲れ気味だった。

 直前までの重苦しさの反動か、その日は普段以上に賑やかさになった。
 真理は、今日買った服の話しをしたがったし、羽生も、「ちづちゃんがついていったら、騒がしかったでしょー……」とか、相槌を打つ。
 楓やテン、ガク、ノリの話しによると、羽生が予測した通り、真理と柏千鶴で「かわいー合戦」になったようだった。四人の服代については、とりあえず、涼治に預けられているカードで支払いを済ませていた。四人は、孫子経由で仕事を請け負っているので、その収入がはいり次第、改めて精算をするつもりだという。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

DMM.com 送料無料のお悩みグッズ通販

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ