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彼女はくノ一! 第六話(23)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(23)

「……最近では、画像やモデリング関係が多いですわね……」
 夕食の席で、「仕事」の話しになった時、孫子はそういった。
「そちら方面の業界とは、わたくしも正直、あまりコネクションがないので、本格的に売り込みをかけるには、まただこからか適切なスキルをもったエージェントを探す必要がありますが……それでも、ネットに公開した機能を限定したフリー版は、アップから数日しか経っていないのに、かなりダウンロードをされています……プロユースも含めて、評価も、上々のようです……」
 テン、ガク、ノリのソフト開発のことだ。
「あれ、シルバーガールズの作製に必要なツールを、ちょこちょこっと試作してみたやつなんだよね……。
 まだまだ改良の余地あるし、割とインスタントな作りなんだけど……」
 ガクは、そう説明した。
「ええっと……今週はぁ……。
 まずレンダリングやトゥーンシェーダーのエンジン。ありもののが、重かったから、軽くてキビキビしたやつつくって……それから、3Dモデリングも面倒くさいから、写真やラフを読み込んで自動的におおざっぱなモデルデータを作るソフト、組んで……あと、3Dモデルと実写映像の動きを連動させて、その上で入れ替える……いわゆる、モーションキャプチャーを自動的にやってくれるマクロなんかも、作ったけっ……」
「……それ……全部……たった一週間でやったんか?」
 なんとなく、それらが「どういうソフトか」想像がつく羽生は、目を見開いて呆然と呟く。
「まだまだコアの部分がようやく形になってきたっていうところで、なんとか使えるようにはなってきたって程度だし、コアの部分以外のインターフェースデザインとかは、ボクやテンの手がかなり入っていて、実質、三人がかりでなんとかここまでこじつけたって感じだから、まだまだ全然、完成度は高くないしじゃないし……。
 細かいバグとかは、実際に使ってみないと存在が表面化しないから、どちらかというと、これからが本番だよ」
 ノリが、いっきにまくしたてた。
「学校が休みの間に撮影作業は一通り終わらせたいから、その前に必要なツールは一通りそろえておきたかったんだよね……」
 テンが、したり顔で説明する。
「あとは……休みに入る前に、茅さんにシナリオを何とかして貰いたいところなんだけど……。
 おおまかな筋書きくらいでもあげてくれれば、あとの細かい部分は別の人にテキスト起こしてもらってもいいし……」
「……ほんでもって、ソンシちゃんが、そこの副産物を売り込もうとしている、っと……」
 羽生が、ため息をついた。
 なんか、わずか数日でそれほどの規模のソフト開発をしてしまうとか、出来た端からネットに評価ヴァージョンを公開して、後で売り込みをかけようとするとか……同居人たちのバイタリティは、羽生の日常的な感覚からは、かけ離れている。
「……前に売り込んだシステムの評判も、上々ですし……もう少しすると、三人にギャラが入りはじめますから……」
 孫子は、真理に向かって、そういった。
 そもそも、どうしてそういう話しになったのかというと、三人や楓にも今後、一定の収入源ができる、ということを真理に説明するためだった。
 今まででは、この四人の家賃や必要な経費に関しては、涼治が負担していた形だが、おりをみて、それを自分たちで稼いだ金を直接、真理に手渡すようにする……ということを、話し合いの末、全員で真理に申し出ていた。
 経済的に自立する、ということは、楓なりテン、ガク、ノリの三人なりが、将来、過度に一族に依存しない進路をめざせる、自由度を確保する、ということでもある。荒野や茅、孫子は、それぞれの出生によるアドバンテージを持つ代わりに、反面、しがらみも強すぎる。しかし、楓たち四人は、比較的自由に生きる余地があった。
「……そんなこと、今から考えなくとも……。
 確かに、お金は、大事よー。
 だけど……」
 真理は、戸惑った表情を浮かべながらそういって、香也の顔をちらりとみて、軽くため息をついた。
「……うちのこーちゃんも、みんなくらい、しっかりしていればねー……」
 もちろん、香也は、そんな真理の視線にも気づかぬ風で、もくもくと食事を続けるのであった。
 炬燵の向こうでは、「なんの話しっすか?」とかいっている佐久間梢に、三島が「シルバーガールズとはなんぞや?」という話しを、身振り手振りを交えて説明している。梢は、三島の話しをふんふんと頷きながら聞いていた。静流も、梢といっしょになって三島の説明を熱心に聞き入っている。

 食事が終わると、食器を片づけていた真理に、
「……こーちゃん、先にお風呂はいっちゃいなさい……」
 といわれた。
 香也は居間にちらりと視線を走らせてから、
「……んー……」
 と答えて、着替えを取りに自室に向かった。
 居間では、来客も同居人も含めて、おおぜいの女性たち賑やかにおしゃべりに興じていた。
 あの中に、たった一人だけの男性として居座り続けるのも気まずかったし、なにより、真理が居る時なら、入浴中に団体様で乱入され、そのままどーこーされる、という心配もなさそうだった。

 この夜、香也は、実に数日ぶりに、心の底からリラックスした入浴を楽しんだ。

 香也が風呂から上がっても、居間から去った者は誰もおらず、相変わらず女同士の歓談は続いていた。成人には酒も周りはじめ、テンションも微妙に高くなっているような気がする。今日が初対面になる組み合わせもそれなりにいた筈だが、羽生以外の面子は昼間の買い物からずっと一緒にいるので、もうかなり打ち解けている様子だった。
 香也は、こっそりと足音を忍ばせて、そのまま玄関に周り、庭にでた。
 彼女たちが、彼女たち同士で仲良くやってくれるのは、香也にとってはむしろ歓迎すべきことで、できれば、せめて今夜くらいは、このままおしゃべりに興じていて欲しいものだ……と、香也は思う。

 プレハブに入った香也は、灯油ストーブに火をいれ、描きかけの絵を、画架にかける。
 今日は丸一日、絵に集中できたから、かなり進んだ。
 このままのペースが保持できれば、週明けには、何枚か有働に頼まれていた絵を渡せるだろう……。
 香也が画架に立てかけた紙には、一面に、多種多様なゴミが、精緻なタッチで描かれていた。




[つづき]
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