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彼女はくノ一! 第六話(51)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(51)

 その日の休み時間、放送部員たちが中心となり、その他のボランティアの生徒たちも加わった生徒たちが、校内を徘徊して、香也の絵を各所に据え付けはじめた。その絵のそばには、決まって絵を描いた香也の氏名、並びに、絵に描かれた場所の番地名、香也がこの絵を描くようになった事情の簡単な説明、ボランティア活動のサイトアドレスや問い合わせ先メールアドレス……などがプリントアウトされた紙が、一緒に貼り付けられている。
 楓や柏あんな、それに、牧田と矢島なども「ボランティア要員の一員」として、その日の休み時間中は、校内を回って、手分けして香也の絵を飾って歩いた。
 当の香也は、教室内で有働が持ち込んだ校正刷りと格闘している。紙のサイズが大きい、ということの他に、種類や枚数も多かったので、それら大判の紙を一枚一枚めくってチェックしていくのは、思ったよりも時間がかかり、傍目には、やはり「格闘」しているようにみえた。茅や、その他、近くにいた生徒たちが香也に同情をして、大判の紙の束を扱うのを手伝ってくれた。

 そんな感じで授業時間が過ぎ、最後の時間に行われた実力テストも終わる。
 香也と楓が掃除当番としての仕事をしているところに、孫子が顔を出した。
「……今日は、わたくしが香也様のお世話をする日ですから……」
 といって、香也の手から箒をもぎ取り、香也の代わりに教室の掃除を行おうとする孫子を、香也は慌てて押しとどめ、謹んで辞退させて貰う。
 そうでなくても、今日は「目立っている」のだ。この上、上級生の女子……それも、孫子のような目立つ生徒に掃除当番を代わって貰ったりしたら、他の生徒たちに何をいわれるかわかったものではない。
 すでに手遅れかも知れないが、香也としては、これ以上、目立つのは避けたかった。

 教室の掃除が終わると、廊下で待っていた生徒たちが、待ちかまえていたかのようにどやどやと中に入ってくる。大半は香也と同じクラスの生徒たちだったが、その他に、他のクラスの一年生、それに、カメラや三脚などを抱えた放送部員たちの姿もみえた。
 茅による、実力テストの「規範解答と解説」……を、目的に集まってきた生徒たちだった。
 二年生のどこかの教室で、沙織を中心として、同じような光景が展開されているに違いない……と、香也は思った。
 そして、手近にいた放送部員を掴まえて、香也は、「今朝、有働に頼まれた校正を返したいのだが、どうすればいいのか?」と尋ねる。
 その放送部員は、すぐに仲間を集め、茅に一言断りを入れて、何人かで紙の束を運ぶのを手伝ってくれた。香也自身と楓、それに孫子も、もちろん、その荷物運びに加わる。
 何人かの放送部員たちはその場に残って、カメラやマイクなど、録画作業に必要な機材の据え付け作業を行っていた。

 荷物を抱えて放送室に入ると、有働と玉木が中にいた。机の上に、なにやら書類を散乱させ、打ち合わせの最中らしかった。他の放送部員は、茅と沙織の録画作業のため、出払っているらしい。
 香也たちが校正刷りの束を抱えているのがわかると、二人は香也を丁重に迎え入れてくれる。
 放送部員たちは荷物を置くとすぐに元いた場所にきびすを返し、楓と孫子はその場に残った。
「……んー……。
 一応、全部、みてみたけど……勝手が分からないので、これでいいのか、わからないです……」
 と香也はいい、有働や玉木と一緒になって、持ち込んだ校正刷りの束を一枚一枚、再チェックしはじめた。
 香也自身は、このような不慣れな作業に手を煩わされることを、決して歓迎はしていないのだが、それでも、乗りかかった船である。それに、印刷関係の作業についても、多少は興味がある。
 香也は、羽生の同人誌を何度か手伝っているが、いつも時間ぎりぎりで入稿するのと、それに、原稿に送りつけたら、そのまま製本までやってくれるところに頼んでいるので、校正作業に関わったことはない。
 香也の意図と興味を察した有働と玉木が、一枚一枚校正刷りをめくって、校正をするさい、どういうところを見ていくのか……ということを解説しながら、チェックを入れていく。
「……まあ、低予算でやって貰っている手前、あまりうるさいことは、いえないんだけどね……」
 と、玉木はいい、有働に、
「……ここの色、もっと赤味を強くした方が、見栄えがいいんじゃあ……」
 とか、話し合いながら、校正刷りの紙に赤のサインペンで書き込みを行う。
 印刷されて戻ってきた香也の絵は、やはり色味的には、元の絵とかなり違っていたがどこまでが技術的な限界で、どこまでが発注した側の意図なのか、香也では判断できない。ことに、今回は、香也の絵を一度画像データとして取り込んで、それにレタッチ作業を加えている可能性もあったから、なおさらだった。
 最初のうち、二人のやりとりを見ているだけだった香也は、二人の会話から、「絵をポスターに加工する」という作業の具体的な意味を知ると、次第に自分の意見もいうようになってくる。
「どうしたら、効果的に人目を引きつけることができるのか?」という視覚的な演出については、やはり香也は、それなりの意見と見識を持っていた。
 それで、次第に、三人で白熱した意見交換を行うようになってくる。

「……あっ、あの……」
 楓が、自分の携帯の画面をのぞき込みながら、遠慮がちに香也に声をかけた。
「樋口さんが、今日は部活にこないのか……って、いってますけど……」
 香也は、慌てて時間を確認する。
 いつの間にか、放課後になってから、二時間以上が経過していた。

「……まっ……いいけどね……」
 といって、放送室に入ってきた樋口明日樹は、そういいながらも口唇を尖らせた。
「でも、そういうことなら、メールかなんかで、ちょっと知らせてくれてもいいんじゃない?」
 そういわれて、香也は決まり悪そうな様子でごもごもと不明瞭に謝罪の言葉を述べ、頭を下げる。
 明日樹は、沙織の解説を一通り聞き、美術室にいってしばらく一人で部活をしていたが、香也がいっこうに姿を現さないので、香也に問いあわせのメールを送った。それにも返信がないので、しかたく、楓に同じような問い合わせのメールを送った……ということだった。
 もちろん、楓が明日樹のメールに気づいてから、香也は慌てて返信したわけだが……。
 しきりに恐縮している様子の香也と、どこか拗ねたような様子の明日樹を見比べ、玉木が、
「……あはははははっ……」
 と、唐突に笑い出す。
「かわいいーなー、あすきーちゃんは……」
「……何、いきなり……」
 いきなりそんなことを言い出した玉木に、明日樹は、露骨に警戒心を込めた視線を送る。
「……いや、こっちのこーちゃんが、どんどん自分の手から離れて、寂しくなるのはわかるけど……。
 今、こっちのこーちゃん、どんどん、みんなのこーちゃんに、なっていっているところだから……」

 玉木の言葉と認識は、決して間違っていなかった。
 今や、香也の絵は、その氏名とともに、校内のどこででも目につくようになっている。




[つづき]
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