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彼女はくノ一! 第六話(60)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(60)

 香也はというと、この日の放課後は、茅の講義にはつき合わず、教室の掃除が終わるとまっすぐに美術室に向かう。ポスター制作が佳境に入ってきた、ということもあったし、それに、茅と沙織の講義は一通り、録画され、公開されるそうだから、リアルタイムで受講する意味も薄くなっている。
 どのみち、家に帰っても一定時間、勉強に向き合うよう、楓や孫子たちにし向けられるのだから、この時間にしかできない活動をしておいた方が、いい……と、香也は、判断した。
 その点、放課後の美術室は、香也と明日樹、つまり、美術部員と、部外者ではあるが、よく訪れる楓くらいしか人がいない。休み時間を利用して狭い机の上に校正刷りの大きな紙を広げるよりは、遙かに融通が効いたし、また、放送部員たちも、自由に出入りすることができた。

 香也と楓が美術室に入ると、すでに有働と二名ほど放送部員たちが、校正刷りの束を机の上に置いて、待ちかまえている。
 昨日と今日の打ち合わせを通して、香也も多少は印刷関係の用語や知識を得てはいたが、何しろ、ポスターの種類が多いから、まだまだ作業は完遂しないのであった。
 明日樹は、諦めたような、呆れたような表情で、自分の絵に取り組んでいる。
 香也は有働のそばにまっすぐに歩み寄り、早速、打ち合わせに入る。有働と相談しながら、校正刷りに次々とチェックを入れ、出来たものから順番に、放送部員に手渡す。放送部員は、それをもってパソコン実習室に向かった。その場で、チェックされたデータを修正するらしい。
 香也は、なんならパソコン実習室に移動して、そこでやりましょうかと提案してみたが、今、実習室は、試験勉強のため、マシンを使用する生徒たちで一杯であり、放送部でも、ようやく一台、確保している状態で、かえって邪魔になる、と、有働に説明される。
 結局、香也たちは美術室に居座って、チェックの済んだ校正刷りは、他の者が持ち運ぶ……という形が、一番効率がいい、ということだった。途中から、楓も放送部員たちと一緒にパソコン実習室に向かい、そこでフォトレタッチ・ソフトの操作を手伝うことになった。
 そんなわけで香也と有働は、ポスターの校正刷りを一枚一枚、見ながら、チェックを続けていく。二人とも、途中から勝手が分かって、どんどん手際が良くなってきた。そのうち、最初の頃にチェックしたものの修正版が、プリントアウトされてもどって来るようになり、そうしたものを優先的に見て、校了版を増やしていった。
 香也が美術室に来た時、かなり大量にあるように思えた校正刷りに、有働が次々と「校了」の判子をついていく。
 帰りの支度をする頃には、有働が持ち込んだ校正刷りのうち、四分の三に「校了」の判子が押されていた。
「……ご苦労様です。
 ありがとうございました……」
 有働が、香也に頭を下げる。
「少し残りましたが……おかげさまで、予定より早く作業が進んでいます」
「……んー……。
 いいけど……」
 香也の方も、慣れない仕事をやって、多少の疲れは感じていたが、代わりに、一人で絵を描いているだけでは得られない充実感も、覚えている。
 他人とこれほど綿密に話し合いながら、作業する……というのは、香也にとっても、ほとんどはじめての経験だった。
 羽生との同人誌の場合、ほとんど香也は羽生の指示通りに描いているだけなので、「共同作業」という感覚は、希薄だった。
 そういう意味では、それなりにいい経験にはなっている……とは、思う。
「それでは、出来上がったものは、印刷屋さんに持っていきますので。
 残りはまた明日にでも、またお願いします……」
 やり残した校正刷りは、美術準備室に保管し、判子が押された紙を両手に抱えて、有働は美術室を出ていく。
「……これも、一応、部活の範疇に入るのかなぁ……」
 有働が出ていったのを見届けると、画材の片づけをしていた明日樹が、ため息混じりにそう呟く。
「一応、絵には関係しているけど……」
 特に非難を含んだ口調ではない。
 呆れを含みながら、ではあったが、明日樹は、香也の経験が広がるのは、いい傾向だ……と、思っている。
 香也は、例によって、「……んー……」とはっきりしない返事をしながら、帰り支度を続けた。
 そうこうするうちに、パソコン実習室に出向いていた楓が帰ってきて、三人で帰宅することになった。

 最終下校刻時刻が近づいた事を告げるチャイムが鳴る頃には、三人は美術室の鍵をしめてその鍵を職員室に返し、昇降口に向け、廊下を歩いているところだったが、そんなに遅い時間になっても、まだ残っている生徒が多かった。いつもはこの時間帯になると、ほとんど部活に出ている生徒しか残っておらず、校舎内はがらんとしているのだが……今は、昼間の休み時間と大差がないような気がする。
 時間が時間だけに、生徒たちはみな、香也たちと同じように帰り支度をして、下駄箱のある昇降口へと向かっていた。

「……やあ。
 そっちも、今、帰り?」
 下駄箱の前で、飯島舞花たちの一行と、ばったりと出くわす。
 舞花の後ろには、栗田精一、堺雅史、柏あんな、樋口大樹などの顔も見えた。
「そちらも、今までやっていたんですか?」
 楓が、舞花に尋ねる。
「うん。
 今日も、落ちこぼれたちの補習。
 なかなか、フォローのしがいがあるよ……」
 そういいながらも、舞花は、特に嫌がっている風でもない。
 基本的に舞花は、面倒見がいい……と、今までのつき合いを思い返し、楓は改めて認識する。下級生の復習につき合う……というのは、時間も手間もかかし、教える側からすれば、わかりきったことを相手のレベルに合わせて反復するわけだから、退屈この上ない……と、思うのだが、舞花は、特にそれを苦にしている様子もなかった。
「そっちは、部活、かぁ……。
 この時期に、熱心だなあ……」
 舞花は、香也たちの顔を見合わせて、感心してみせた。
「わたしは、まともに部活に出られるの、今学期いっぱいだし……それに、狩野君は、ボランティア用ポスターの最終チェック」
 樋口明日樹が、舞花に言い返した。
「ああ、そうか……それで……」
 舞花は、納得した顔で頷く。
「絵描き君も、最近は放送部の連中に、何かと頼りにされてるからなあ……」
 舞花は下駄箱から入ったところに飾られている、大判の絵を指さしながら、そういう。茅に影響されて、舞花も、香也のことを「絵描き」と呼ぶようになっていた。口頭だと、荒野と香也は、紛らわしいから……ということもある。
 そんな立ち話しをしている間に、帰り仕度をした茅が、みんなに合流してきた。




[つづき]
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