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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(346)

第六章 「血と技」(346)

「……それで……あなた方三人は、一体何を望んで、茅たち新種に接触してきたんですか?」
 荒野は、今度はフー・メイの一派に水を向ける。
「別に、加納の若に、我らの意図を隠すつもりは、ありません。
 ただ……我らは、直接、あの新種たちと交渉をしたいと思っているだけで……」
 三人の中で一番年長のフー・メイが、代表して答える。
 荒野を目前にして臆することもない、なかなか堂に入った態度だった。
「それは、つまり……おれ抜きで、話しをつけたい……ってことなのかな?」
 荒野は、ため息混じりに聞き返す。
 荒野自身は、別に、自分を抜きにして新種たちと六主家のいずれかが関係を深めていいと思っている。あくまで、双方が納得づくならば……というのが、もちろん、前提になるのだが。
 だがそれも……今回のように、変にこそこそと、故意に誤解を招くような接触のされ方をすると、かえって周囲の誤解を招きかねない。
「実のところ……若が来られる直前に、話しはまとまりかけていたのですが……」
 フー・メイは、そういって、ちらりとジュリエッタの方に意味ありげな視線を走らせる。
 事情もよく確認せず、問答無用で斬りかかったジュリエッタと、すぐさまそれに応戦したフー・メイ……荒野にいわせればどっちもどっちなのだが……自分の言動の意味をあまり深く考えているようには見えないジュリエッタに比べ、このフー・メイは、むしろ積極的に事態を混乱させて楽しんでいるようにも見えた。
「……おれ個人としては、あいつらとか現象が、どこと手を組もうが興味はないんですが……」
 荒野は、素直に自分の考えていることを披露することにした。
 フー・メイのような複雑な相手には、下手な駆け引きを持ちかけないで、こちらの手の内のを明かしておいた方が、かえってうまく行く……と、荒野は思っている。少なくとも、変な誤解をされることだけはない。
「ただ……あいつらも、あれで……将来的には、六主家間のパワー・バランスを変え兼ねないわけで……こちらの希望としては、他の連中がどうみるか、ということも考えた上で、行動を選択していただきたいものです……」
 荒野にしてみれば、これ以上はないというほどに、素直に自分の意向を告げた。
 すると、フー・メイは、軽く眉を跳ね上げ、まじまじと荒野の顔をみる。
「……その……こういっては、なんですが……」
 フー・メイは、しばらく考えて、ゆっくりとした口調で続けた。
「若は……何か、思い違いをしていらっしゃいます。
 我らは、彼女たちを姉崎に取り込もうとは、思っておりません……」
 フー・メイは、そこで、少し間をおいた。
「我らが考えているのは、むしろ、その逆で……我らの流派の技を、彼女たちに託すことを、考えております。
 彼女たちが……我らの技を伝授するのに、値するのかどうか……今少し、猶予をもうけて、見極める必要がありそうですが……」
 フー・メイの口から予想もしていなかった言葉が出たので、荒野はしばらく押し黙ってしまった。
「……技、ですか……」
 ようやく、再び口を開けたかと思ったら、荒野の口から漏れたのは、そんな凡庸な聞き返しの文句でしかなかった。
「あの……あいつら三人に……フー・メイさんたちの、技を……」
「左様でございます」
 フー・メイは、今では明らかに、荒野の反応を、つまり、荒野の動揺を、面白がっている。
「若から見れば、そんなことをして、我らに一体なんの益があるのか……と、そのように思うのかも知れませんが……我らが伝承した技を、最高の資質を持つ者の伝承させる……という我らの欲求は、そんなに理解不能なものでしょうか?」
「……い、いや……あの……」
 荒野は、珍しく、言い淀んだ。
「理解できないことは、ないです。
 確かに……どんな体系の体術でも、あいつらの身体能力で駆使されれば……そのポテンシャルを、最大限に引き出されることでしょう……」
 いいながら、荒野は、目まぐるしく思考を回転させる。
 確かに……三人の身体能力は、今の時点でさえ、一族の平均を、確実に上回っている。加えて、これから先、どこまで成長するのか、誰にも予測が出来ない状態だ。
 最高の肉体に、最高の技を叩き込んだら……というフー・メイの欲望は、多少なりとも武術などを嗜んだ者なら、十分に想像できる欲求だともいえた。
 利害とか不利有利とか、そういう実利的な部分に思考を固着しがちな、自分の思考形態を、荒野は恥じ入った。
 おれは……不純だな……、と、思いながら、荒野は、さらに聞き返す。
「だけど……あんまり、あいつらを強くしすぎると……」
「抑止力、ということですか?」
 フー・メイは、荒野に不敵な笑みを見せる。
「あの子たちが、将来、増長するようなことがあったら……。
 おそらく、わたしや若、それに、一族の大人たちが、差し違えになってでも、責任を全うすることでしょう。
 それが、一族というものです……」
 フー・メイの不敵な笑みが、言外に「……おわかりの癖に……」と、荒野に語っている。
 身内の不始末に対して、一族がどのように対処してきたか……確かに、荒野もフー・メイも、知りすぎているくらいに、熟知していた。
「あいつら……新種は……」
 荒野は、フー・メイがいいたいことを悟りながら、故意にそれをずらした返答をする。
「一族の身内……に、なるんですかね?」
「一族から派生した者、であるのは、確かでしょう」
 フー・メイの答え方は、明瞭だった。
「彼女たちが、将来、どのような存在になるのかは、わかりませんが……道を踏み外す事があったら、黙っていない一族の者は、若が考えるより、多いのではないですか?」
 ……もっと、一族の大人たちを信用しろ……と、いうことかな?
 と、荒野は、フー・メイの言葉を解釈する。
「……そちらの狙いは、理解しました」
 荒野は、フー・メイに向かって頷きかける。
「それで、あいつらは……フー・メイさんたちの技を、引き継ぐのに値する存在なんですか?」
「それは……もう少し、時間をかけて見極めねばなりません」
 フー・メイは、またしても、荒野の予想外の答えを返す。
「そのために……こちらの、ホン・ファとユイ・リィを、しばらくこの近辺に、住まわせたいと思います」




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