2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第六話 (88)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(88)

 茅たちの検査だか体力測定だかは、いや、詳しく話しを聞くと、その両方を兼ねたものだそうだが、とにかくそれは、まだもう少し時間がかかるそうで、香也や荒野、楓たち、本来ならここにいるべきではない者たちは、連れだってぞろぞろと連れだって帰ることになった。
 残るのは、茅、テン、ノリ、ガク、現象、それに、もともとこれらの子供たちに付き添っていた、三島や二宮舎人、梢などであり、それ以外の全員が、ぞろぞろとそのスポーツジムを後にする。
 結局徒歩で帰ったわけだが、人数が多いこともあり、なかなか壮観な眺めだった。一目で異国人とわかる者も数名、含んでいることもあり、この一行は、たまたま通りかかった人たちに、好奇の視線を浴びることとなる。
 香也は、どちらかというと、そのような第三者の視線はあまり気にしない方ではあるが、客観的にみて、
『……確かに……』
 目立つ組み合わせだよな……と、思う。

 途中、白い犬を連れた静流が、そのまま家に帰るといいだし、ジュリエッタとセバスチャンも、その後についていく。ジュリエッタはその日から静流の家に寝泊まりし、セバスチャンは当座の宿にしている場所から、ジュリエッタの荷物を静流の家に移動する、という話しだった。セバスチャンは、当然の事ながら、静流の家の所在地など知らないので、一度は足を運んで住所を確認しなければならない。
 フー・メイも、ホン・ファとユイ・リィの二人を残して、その足で駅に行き、そのまま国外に脱出する……とかで、静流たちと一緒に、香也たち一行から離別した。なんでも今回は、「たまたま、フー・メイの仕事先への移動線上で、日本に立ち寄る時間があったから」同門の妹弟子にあたるホン・ファとユイ・リィを連れて立ち寄ってみたまでのことで、フー・メイにしてみても、あまり長居ができるほどの時間的な猶予はないらしい。
 十分な実力はつけてきてはいるものの、まだまだ修行中の身であるホン・ファとユイ・リィは、フー・メイほど時間に追われる身分ではないので、そのままこの土地に根付くための下準備に移行するそうだ。書類関係の準備は姉崎の機関がやってくれる手筈になっている、という。また、しばらくは、同じ姉崎のよしみで、シルヴィのマンションに寝泊まりし、新学期がはじまるまでには、ちゃんとした住所を確保するつもりらしい。

 楓が、歩きながら真理に電話をかけ、しかじかの人数が家に行く、と告げると、真理からは「それでは……」という感じで、夕飯用の食材を買い増しするようにいわれる。
 荒野が楓から携帯電話を借り受け、何やら応答した後、
「……人数も多いけど、荷物持ちも大勢いるってことだからな……」
 などと呟きながら、通話を切って、携帯を楓に返す。
「商店街に寄るのなら……」
 一度、会社に顔を出していきたい、と孫子が言いだす。
 孫子は、イザベラとの接触で予定していた業務を途中で放りだしてきた形で、会社のロゴが入ったつなぎの作業着を着たままだった。自転車とノートパソコンは、家に置いてあるが、一度事務所に顔を出して様子を確認しておきたい、とのことだった。
 モノはついでだから……と、孫子は、楓の腕を取って、事務所への同行を命じた。
「……あなたも、うちの仕事をしているわけだから、この辺で顔つなぎをしていてもいいでしょう……」
 ということで、楓にしても、断る理由がなかった。
 確かに、楓は孫子の要請に従って、孫子の会社のために、データ処理用のソフト開発しているわけだが、実際に会社とか事務所にいって、業務内容を実地に見聞する機会は、これまでになかった。
 ただし、楓は、いきなり孫子に腕をとられ、強引に連れ回されるのが少し不安だった様子で、反射的に、そばにいた香也の腕を取る。
 孫子は、その挙動に一瞬、厳しい表情を浮かべかけたが、すぐに柔和な表情に変えて、
「……いいですわね。
 ここからすぐそこですし、よかったら、香也様もご一緒に……」
 などと言いだした。
「……ほい。
 なんだかわからんが、面白そうじゃの……」
 イザベラがそんなことを呟きながら、楓、孫子、香也の三人について行こうとするのを、荒野が、文字通り首根っこを取り押さえて、制止する。
「……君は、こっち……」
 イザベラの襟首をがっちりと掴んだ荒野は、にこやかな表情を浮かべながら、しかし、イザベラを逃がすつもりはないようだった。
「……せめて、荷物持ちくらいは手伝いなさい……」
 荒野にしてみれば、これ以上、香也を取り巻く人間関係が複雑化するのは、見るに忍びないのであった。
「……お、おう……」
 イザベラは、荒野の笑顔に隠された「なんとはなしの気迫」に気圧されて、気の抜けた返答をして、頷く。

 そんな次第で、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィを連れた荒野と一端別れた香也たち三人は、孫子の会社の事務所とやらに行く。
「……まだ、開業したばかりで、ばたばたしていますが……」
 とかいいながら、孫子は、商店街の裏手にある雑居ビルの中に、楓と香也を案内する。

 孫子が案内したのは、雑居ビルの一フロアを占める、普通の事務所だった。
 とはいえ、楓も香也も、まとも社会経験がないので、「ドラマなどに出てくるオフィスとあまり変わらないな」という認識でしかない。ドラマの中のオフィスと違っているのは、虚構の中の白々しい清潔さの代わりに、もっと雑然とした活気が漂っていることで……。
 孫子が事務所の中に入って挨拶の声をかけると、即座に、事務所内にいた男女が「お疲れ様でーっす」とかいった意味の言葉を返してくる。
 事務所内にいた人々は、スーツ姿、孫子と同じ作業服、どうやら私服らしい、カジュアルな服装……の三種類の服装をしていた。誰もが、若い。せいぜい、二十代くらいだろう。服装と年齢層は、「登録制の人材派遣」という、この会社の業務と関係があるのかも知れないが……一般的な世間知に乏しい香也には、詳しい事情は、正直なところ、あまりよく想像できなかった。
 今日は土曜日だから、普段いる人で、今、ここにいない人も多いのだろうな……くらいのことは、香也にも想像出来たが。
 孫子は、入り口近くにある応接用のセットに香也と楓を案内し、二人にお茶を用意するよう、手近にいる社員に告げると、自分は事務所内に入っていって、何人かの社員に声をかけたりパソコンを操作したりして、仕事上の連絡事項をチェックして、すぐに楓と香也の元に戻る。
 いかにも手慣れた感じの、きびきびとした挙動だった。




[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

DMM.com DVD・CD・本・フィギュアホビー販売

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ