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彼女はくノ一! 第六話 (87)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(87)

 その後、荒野が司会役を務めて、ジュリエッタたちの処遇について、話し合うことになる。香也は、立場的には別にその話し合いに参加する必要もなかったのだが、何となくその場に居続けた。
 その場の雰囲気が思いのほか、和やかで、立ち去りがたかった……ということもあったが、このスポーツジムが家から結構距離があって、一人で、つまり徒歩で帰るとなると、この寒い中、かなりの距離をとぼとぼと歩かねばならない、という、かなり現実的な事情もある。決して、歩いて帰れない距離ではなかったが、ご多分にもれず、香也は、運動とか寒さとかが、全然、好きではなかった。
 話し合いの結果、ジュリエッタは静流のところに住み込み店員として居住することに決まり、セバスチャンという人は、自分で住所と身分(というか、仕事)を確保する、と断言する。
 イザベラとかいう若い女性は、どうやら香也と同じ学校に通うらしく、住む場所も、きっちり確保してある、ということだった。
 香也は、強引ではきはきとした物言いをするイザベラが、自分たちと同じ年齢であることに驚いた。荒野や孫子も、その物腰から年上に見えたりするのだが、イザベラは、香也の目には、その二人とは違った意味で世慣れしているように見受けられた。自分の我が儘を押し通し、周囲になんとなく認めさせてしまい、なおかつ、誰からも本気で憎まれない……という、変な魅力が、そのイザベラという少女には、ある……と、香也は感じる。
「……それで……」
 荒野は、今度は、フー・メイ、ホン・ファ、ユイ・リィと名乗った三人組に、視線を向ける。
「……あなた方三人は、一体何を望んで、茅たち新種に接触してきたんですか?
 話したくなければ、話さなくともいいですが……」
 非難している口調ではなく、淡々と事実を確認しようとしている口調だった。
 香也は、ちらりと視線を逸らし、少し離れた場所で各種体力測定を続行している子供たちの方を見た。
 香也が視線を向けたことを敏感に感じ取ったテン、ガク、ノリの三人が、元気よく手を振ってきて、三島に「……こっちの方を真面目にやれってーの!」とか、怒鳴られている。
「別に、加納の若に、我らの意図を隠すつもりは、ありません」
 三人の中で一番年長のフー・メイが、堂々とした物腰で荒野に答える。
「ただ……我らは、直接、あの新種たちと交渉をしたいと思っているだけで……」
「それは、つまり……」
 荒野は、軽くため息をついた。
「おれ抜きで、話しをつけたい……ってことなのかな?」
 フー・メイは、荒野の確認を首肯した。
「実のところ……若が来られる直前に、話しはまとまりかけていたのですが……」
「おれ個人としては……あいつらが、自分の意志で姉崎に合流したいというのなら、止めるつもりはないけど……」
 荒野は、肩を竦める。
「そうなったらなったで、他の六主家が、黙ってはいないだろう。
 無用な摩擦を回避するためにも、じじいには、すぐに連絡させて貰う……」
「……んー……」
 それまで、荒野たちの事情にあまり興味を持っていなかった香也は、隣にいた楓に、小声で質問をした。
「今、話しにでている姉崎、って……シルヴィさんのこと?」
「そうなんですけど……」
 楓は、何故かもどかしげな表情になる。
「シルヴィさんが、今、話しにでている姉崎……っていうのは、間違いがないんですけど……それだけだと、ちょっと、説明が足りていないっていうか……。
 姉崎っていうのは、もっと大きな規模の団体で……」
「……日本語でいうと、概念的に一番近いのは、アレですわ……」
 二人の会話を聞いていた孫子が、やはり小声で口を挟んでくる。
「……屋号。
 シルヴィも、ジュリエッタも、イザベラも、フー・メイも……世界中に散らばった、姉崎の分家のようなもので……」
「屋号、のぉ……」
 当のイザベラも、そのこそこそ話しに参加してきた。
「まあ……当たらずとも遠からず、ってところじゃの。
 早くから広範に散らばっていた姉崎は、他の六主家と違って、あまり本家とかいう意識はないんじゃが……むしろ、中心という概念を極力廃して、人的なネットワークを形成してきた集団なんじゃが……。
 そうか……姉崎は、屋号かぁ……」
 イザベラは、孫子が出した例えに、しきりに感心している。
 ……姉崎、というカテゴリに属する人たちが、世界中にいる……ということだけは、かろうじて香也にも理解できた。その姉崎と荒野たちとが、どのような関係になるのかは……。
『……あとで、折を見て、ゆっくり説明して貰った方がいいかな……』
 と、香也は思う。
 何となく……いろいろ、一口には説明できない、複雑な事情がありそうだ……と、香也は予測する。
 楓や荒野あたりに聞けば、丁寧に解説してくれそうだし……。
 香也は、この時点で、それまでにあまり積極的に感心を持ってこなかった楓や荒野たちの事情に、自分から興味を持ち、詮索するようになっている……という変化を、香也自身は、自覚していなかった。

 香也たちがそんなことを話しているうちに、荒野とフー・メイたちの話しも終わっていたようだ。
「……結論からいうとだな……」
 荒野が、苦り切った顔で、香也たちに告げる。
「……こっちの三人のうち、ホン・ファとユイ・リィは、春からうちの学校に転入してくるそうだ……」
 楓と孫子が、「……ああ……」と微妙な感じでため息をつき、イザベラとジュリエッタが、揃ってパチパチと拍手する。
 前者の二人は、彼女らが登場してきた時点で、こういう展開を半ば予期していた。ホン・ファとユイ・リィは、見た感じ、自分たちと大して変わらない年齢だったからだ。そうした年端もいかない者をわざわざここに連れてくるというのは……やはり、そういう目的があるのだろう……と、楓と孫子は、漠然と予想していた。
「……それで……皆の、年齢は?」
 孫子が、誰にともなく尋ねる。
「わしは、そこの楓と同じ学年になるの」
 イザベラが、片手をあげて応える。
「ホン・ファは、加納の若と同じ」
「ユイ・リィは、あの三人の新種たちと……」
 ホン・ファ、ユイ・リィが、それぞれに片手をあげる。
「さて、これは……戦力増強を喜ぶべきなのか、それとも……」
 そう独りごちる荒野の口調は、苦り切っていた。
 ……かなり、不安になっているのだろうな……と、香也は思った。




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