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彼女はくノ一! 第六話 (92)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(92)

「……確かに、ああしていると……楓も、全然、見えないのかも知れないけど……」
 荒野がホン・ファにそう答えるのを聞いて、香也は、「……楓ちゃん……この人たちに、どんな風に思われているのだろうか……」と、疑問に思った。
「……それをいったら……最強の実物も、君たちの想像とはかけ離れていると思うよ……」
 荒野が、顔を上に上げてそう続けると、ホン・ファは、
「……師父より強い人がこの世にいること自体が、信じられませんから……」
 と応じる。
 この辺の会話は、「さいきょう」とか「しふ」とかいうのが、具体的にどういう人なのかまるで知らないし想像のしようがない香也にとっては、まるで意味不明な内容である。
 黙って二人の会話を聞くともなしに聞いていると、上着の裾を、つんつん、と引っ張られた。
「……ねぇ?」
 振り返ると、二人組の女の子のうち、小さい方の子が、香也のことを上目遣いに見上げている。
「こっちのかのうこうやは……強いの?」
 その少女は、はにかみを含んだ表情で、香也を見上げている。
 ……つよい?
「……んー……」
 香也は、うなって誤魔化しながら、数秒間、考えた。
 あっ……「強い」ということか……。
 普段の香也の生活圏から出てこない発想であり、パラメータだったので、香也は、その少女の質問の意味を理解するのに、数秒を要した。
「全然……。
 ぼくは……全然、強くないし……たいていのこことは、人並み以下……」
 質問の意味を理解した香也は、躊躇することなく、そう答える。
 実際、香也は、腕っ節に関しては、まるで自信がない。
 体力や腕力的には年齢相応だと思うが、強さを競うよう形で、他人とどつきあうという発想自体が、香也には、まるない。
 こと、喧嘩ということになれば、相手が小学生でも、香也ならことを構える前から躊躇せずに自ら負けを認め、白旗を揚げることだろう。
「……謙遜?」
 その少女は、首を傾げて、なおも香也を追求してくる。
「……んー……。
 違う。
 本当に、ぼくは、何もできない……」
 香也は、本心からそういいきった。
 実際のところ、香也がまともに出来るのは、絵を描くことくらいで、その他こととといったら、荒野や楓たち、「特殊な人々」ではなく、ごく普通の、学校の同級生たちと比較しても、何も出来ない……と、自己評価している。
「……そうか」
 その少女は、真面目な顔をして、頷く。
「こっちのかのうこうやは、何もできないのか……。
 もう一人のかのうこうやと、正反対だな……」
 香也の言葉に、ひどく納得をした様子だった。
「そう。
 ぼくは、何も出来ない……」
 香也は、恬然と少女の言葉に頷く。
「それならそれで、いい」
 その少女は、幼さの残る顔立ちに似合わぬ、理知的な表情を浮かべ、香也の言葉を首肯する。
「ありのままの己を知ることが、一番難しい……と、しふもいっていた。
 本気でそう言い切れる者は、少ない……」
「……んー……。
 そのしふって……誰?」
 香也は、少女に聞き返す。
 まだ名乗りあってもいない、今日、初対面の少女と、これだけ会話が続いているのも、人付き合いを苦手とする香也にしてみれば、珍しい。
「しふ……。
 ユイ・リィの知る限り、一番強くて気高い人。
 この国風にいえば、先生とか師匠とかいう程度の敬称だ。
 ユイ・リィの土地では、相手が女性でも、師父と呼ぶ……」
「この国って……」
 香也は、そばにいる荒野を振り返る。
「この子たち……外国の人なの?」
 香也は、荒野に向かって、そう問いかけた。
「……外見は日本人とわからないし、会話も流暢だから、気づかないのも無理はないけど……。
 この子たち……まだ、日本に来たばかりなんだ……」
「入国したのは、今朝のことです」
 荒野の隣にいた、年長の少女が、そう補足する。
「わたしは、ホン・ファ。この子は、ユイ・リィ。
 しばらくこの土地に滞在することになる。
 一般人の知り合いは少ないから、よろしく頼む」
 ホン・ファ、と名乗った少女は、はきはきとした口調で香也に自己紹介をした。
「……んー……」
 香也は、ホン・ファの言葉を、少し、頭の中で反芻した。
「そういうことは……やはり、そっちの加納君の関係者?
 さっきも、スポーツ・ジムで、姉崎がどうとかいってたし……」
「確かに、ホン・ファたちは、姉崎の流れを汲む者、ではあるんだがな……」
 ここでホン・ファは、荒野にちらりと視線をやり、荒野が頷くのを確認した。
「その辺の事情は少々入り組んでいて、あまり予備知識のない一般人に簡単に説明をするのは、難しい……」
「……興味があるのなら、後でゆっくり説明するよ……」
 荒野も、そう言い添える。
「この二人は、しばらくヴィ……シルヴィのところにやっかいになる予定だ。
 春からおれたちの学校にも通うそうだから、話す機会は、これからいくらでもある……」
「……んー……。
 そう……」
 香也は、気のない声を出して返事をした。
 一見して、興味がなさそうな反応だったが……今までの香也を思い返すと、香也が、これほど他人に興味を示すのも珍しい……と、荒野は感じている。
「このまま何もなければ……時間だけは、たっぷりあると思うよ……」
 荒野は、香也に向かってそういった。




[つづき]
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