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彼女はくノ一! 第六話 (93)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(93)

「……ほんで……」
 他の面子と別行動になると、イザベラは早速、楓に話しかける。
「わからんのは、おんしじゃ。
 才賀衆の末裔じゃとか新種じゃとか、一族とか一般人とかがいるのは、わかる。
 しかし、おんしは……」
 ……一族の出身ではないのに、それ以上の能力を持った楓。
 他の一族を差し置いて、荒野の次に、荒神に「弟子」として認められた、楓……。
「……一体、何者なんじゃ?
 こちらに関するレポートを、遠くでチェックしていると……出てくる奴ら全ての中で、一番、わけがわからんのが、おんしじゃ……」
「……そう、いわれましても……」
 楓は口唇を尖らせる。
 「自分が何者であるのか?」などという問いは、楓自身が誰かに教えて貰いたい位だった。
「わたしは……わたしです……」
 楓としては、そう答えるしかない。
 その後、楓は……。
「自分が何者であるのか、明確に断言できる人の方が、少ないと思います……」
 少なくとも、一般人の場合は。
 楓は、学校に通い出してからというもの、楓も楓なりに、多少なりとも視野が広がっている。具体的にいうと、楓は、それ以前には見えなかった、見ようとしなかった、一般人社会の有り様を目の当たりにすることになった。
 そこでは、楓と同年配の学生たちがたむろする学校と環境では、楓がそれまで抱えていた「自分が何者であるのかわからない」という不安や悩みは、むしろ普遍的で、凡庸に過ぎるくらいの「悩み」であり……内面的なことを問題にするのなら、楓は、荒野や孫子と比較すれば、よっぽど「普通である」とさえ、いえた。
「……そう、それ……」
 イザベラは、楓の態度をみて、納得のいったよな表情をして頷く。
「おんしは……」
 ……一族と比較してさえ、その卓越した能力を持ちながらも……どうして、平然と「普通」でいられるのか……。
 といった意味の疑問を、イザベラは口にする。
 能力と内面の齟齬……というか、乖離。
 イザベラは、楓の大きな特徴について、そう指摘する。
「……わしのような、一族の中でも比較的、軟弱なAnesakiでさえ……一般人と自分との差に、悩んだことがあるというのに……」
「わたしだって……いつも、悩んでますよ……」
 楓は、再び不満そうな顔なる。
 イザベラの言い草を聞いていると、楓が、まるで脳天気で単細胞な考えなしに思えてくる。
「先のことを考えると、不安で不安でたまらないし……よく眠れないし……。
 だから……最近では、不安になることは、あまり考え込まないようにしていますけど……」
 楓の神経が、そうした繊細さを持っているのは事実だった。
「……じゃけん、おんしの悩みは……自分の将来に対するもんであって……自分が何者であるのか、というところに由来もんではなか……」
 イザベラは、まぶしいものをみ時のように目をすがめて楓の顔を眺める。
「能力はどうあれ、おんしは……中身的には、すっかり、一般人じゃ……」
 二人の会話をすぐそばで聞いていた孫子は、イザベラがこの土地の情報をすっかりリサーチした上でここに来た、という事実を確認し、同時に、観察眼の鋭さも、確認した。
 他者が収集したデータを読んで想像することと、多少の予備知識は持っていたにせよ、ほとんど初対面に近い楓から、これほどすんなりと「本音」を引き出して、自分の「仮説」を自然に検証しようとする手口。
『姉崎は……』
 肉体的には他の六主家に劣る分、データの収集と分析には力を入れている……という情報は、どうやら順当な評価らしい……と、孫子は自分の持っていた「基礎知識」を再確認した。
 佐久間が、「個体の持つ知性」として最高の存在なら、姉崎は「集団としての情報蓄積、分析、解析」を特化させることで、他の六主家との差別化を行ってきた……ということは、事情を知る者たちの間では、「常識」レベルの定見と化している。
 姉崎が扱う「情報」の中には、ジュリエッタやフー・メイなどの例にも見られたように、「武術や体術など、文書化できないタイプの技術体系」を収集し、伝える……ということも、含まれるわけだが。
 そういう文脈からみえれば、イザベラは、「姉崎らしい姉崎」でもあるわけだ……と、孫子は納得する。
 シルヴィ、ジュリエッタ、フー・メイ、イザベラ……世界中に散らばり、各地要人と結びついた「姉崎」たちは、流石に、人材のバリエーションも豊富だ……と。

 荒野に渡されたメモをみながら、楓と孫子がイザベラを先導しつつ、商店街を案内しがてら、テキパキと買い物を済ませていく。その最中も、イザベラは、各種小規模専門小売店が集積した形態の「商店街」が珍しいらしく、しきりに感心した様子で周囲を見渡していた。
 赤毛で、いかにも外人前としたイザベラを見て、今ではすっかり顔見知りになっている商店街の人々は、楓や孫子に向かって、
「その人(あるいは、「その子」)、また、例の加納さんの関係?」
 などと尋ねてくる。
 シルヴィの例もあり、この近辺の人々にとって、「見慣れないガイジン」はだいたい荒野の関係者だ、という認識が、できつつあるようだった。シルヴィ本人は、あまり商店街付近には姿を現さないのだが、何分、住人の定住率が高く、噂話の伝達が早い土地柄でもある。
 商店街付近では、荒野本人の知名度も異常なほど高かったし、そうした感心の高さもあって、荒野とシルヴィの関係は、学校関係者経由で商店街付近にも広まっていた。
「加納のとは……知り合いとか親戚ではなかけんどな……」
 そうした質問をされた時、決まって当のイザベラ本人が、ぺらぺらと流暢な……というよりも、へんな方言混じりの自己紹介をしはじめたので、問いかけた方が、ぎょっとした表情で固まってイザベラを見返すことになる。
「わしは、イザベラいうケチな小娘でな。
 ……どちらかというと、加納の、というより、シルヴィの姉御の方の、遠い縁者じゃ……。
 しばらく、この辺にたむろすることになるけん、どうか、よろしゅうに……」
 そういうイザベラの風貌と言葉遣いのギャップは、目撃者にしてみれば、それなりにインパクトがあった。




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