2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(352)

第六章 「血と技」(352)

 途中、予想外の乱入者たちや、それを収めに荒野たちが来たことで、長めの中断はあったものの、その後の検査はかなりスムーズに進行した。現象も含む全員が協力的であり、また、現象を除く茅や三人組は、こうした検査をはじめて経験するわけでもないので、多少、慣れてもいた。それ以上に、全員、検査結果が出る度に一喜一憂し、この検査を楽しんでいる側面もあった。なにしろ、自分たちの「現在の身体能力」が、きちとした数字で評価される。三人組の他に、茅や現象もこれで負けん気が強い方だし、全員が積極的に、「いいスコアを出そう」と本気を出していて、すぐに結果を測定したり書き留めたりする側が煽られるくらいの勢いが出はじめた。
「……あの現象なんだがな。
 こうしてみていると、意外に素直……というか、単純なやつなんじゃないか?」
 とりあえず、記録をとり続ける医師たちに意見を求められたりしない限りは見守ることくらいしかすることがない三島は、その暇な時間に、同じように暇を持てあましている舎人に話しかける。
「単純、というより……全力を出して競いあえる相手、ってのが、あいつの場合、これまでいなかったわけだろ……」
 舎人は、少し考え込んだ顔をしてから、三島に答える。
「その、反動なんじゃないか?」
「……なるほどなあ……」
 三島は、見た感じ、割とわかりやすくムキになって、他の子らと張り合っている現象の姿をみて、嘆息する。
「あいつの育ちと性格を考えると……確かに、友達、いなさそうだもんだ……」
「……そういうのもあるけど……」
 その時、舎人は、曖昧な微笑み方をした。
「おれらみたいなのは……あいつらでなくとも、自分の能力を全開にできる場所にくると、それなりに昂ぶるもんなんですよ……」
 三島は数秒、考え込み、もう一度、
「……なるほどなぁ……」
 と、呟いた。
「確かに、この場では……あいつらも、自分たちの能力をセーブする必要はないし……」
 しかも、周囲に同年配の競争相手がいるとなると、否が応でもモチベーションは高まってくるのだろう。

 そんなわけで、残りの検査に関しては、中断した分の時間を埋め合わせてもおつりが来るほどにスムースに進行し……おかげで全ての測定が終了したのは、予定されていた時刻よりも早いくらいだった。
 茅たちがジムのシャワーを借り着替えたりしている間に、三島は、まず真理に電話をして場所を確保し、それから荒野に連絡して、食材の買い出しを命じ、詳細な「買い物リスト」をメールで送信した。
 こういうことが何度もあったので、三島も真理も荒野も、もはや、慣れっこになっている。

 三島の小型国産車と舎人のワゴン車に分乗し、帰る途中で、三島は茅や三人組に、
「……これから、例のアレだ。
 さっきの連中の歓迎会を兼ねて、みんなで食事」
 とだけ、短く告げた。
 この連中には、これだけで十分伝わるのだった。
 すると、案の定、三人組と茅は、
「……おぉぉぉぉぉぉっ……」
 という小さな感歎の声を上げはじめる。

「……荒野。
 そのでかい荷物、後の車に乗っけろっ!」
 商店街アーケードが途切れるあたりでたむろしていた荒野たちをめざとく見つけた三島は、窓から顔を出してそう声をかける。
「……見ての通り、こっちは満杯の状態だっつーの!」
 三島の声は、弾んでいた。
 三島は、荒野に向かって買ってきた食材を舎人のワゴン車に乗せるよう、指示すると、すぐに発車させ、車内にいる茅たちには、
「……帰ったら総出で、すぐに下拵えだっ!」
 と、告げた。
 料理が得意……ということもあったが、そうした日常の雑事にかまけることで、ごちゃごちゃとした現在の状況を考えずに済む、という面もある。
 確かに、こいつらを取り巻く状況というのは、複雑で、将来どう転ぶのか予断を許さないシビアな面もあるわけだが……こうしてはしゃいでいられる間は、せいぜい楽しくやってやろうじゃないか……と、三島は思う。

 狩野家の前に車を止め、茅たちを降ろして車をマンションの駐車場に戻しにいく。
 徒歩で再び狩野家の玄関に向かうと、全員総出で三島たちの車のすぐ後をついてきていた舎人のワゴン車から、買い込んだ食材を降ろしているところだった。もちろん、三島もそれを手伝い、家の中に運び入れた材料を台所に持って行き、すぐに真理や舎人、茅たちと手分けして、材料を洗ったり皮を剥いたりしはじめた。
「……料理の経験ないやつは、いても邪魔になるから、居間にでもいってテレビでもみてろってーの……」
 と三島がいうと、現象と梢は、大人しく台所から出て行く。
 その後ろ姿を見届けてから、三島は舎人に、
「あいつら……二人とも、アレなのか?」
 と、小声で確認をする。
「……佐久間の連中が、子供をどうやって育てるのか、聞いたことはないんすけど……」
 舎人は、何故か、決まりの悪い表情をしながら答えた。
「……梢は、全然、経験ないようです」
「現象の方はともかく、梢もかぁ……」
 三島は、小声で呟いて、小さく頷いた。
「……あの年齢だと、家事をやったことがなくても不思議ではないんだが……あっちの方も、それなりに不安だなぁ……」
「……梢のことっすか?」
 舎人も、三島につられて小声になった。
「ありゃあ……しっかりしすぎているくらいのもんですけど……」
「……でも……」
 三島は、断言する。
「自分のこと以外は……ってのが、その条件として、つくんだろ?」
 三島の知る限り、あの梢という娘も……現象を監視する……という、命令されたこと以外の事物に、感心を向けたことがない。
 あの年齢で……自分自身のことより、自分以外のこと……命令を完遂することばかりに、感心や注意が集中する……というのも、大概に、健全な精神構造とはいえない……三島は思う。
 まったく……問題児ばかりが、集まってくるな、と。




[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
HONなび

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ