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第六章 「血と技」(353)
シャワーを浴び、着替えた子供たちを三島は車に収容し、帰路につく。
現象と梢は、来た時と同じく、舎人のワゴン車に乗っている。茅たちの様子を見学していたシルヴィも、舎人のワゴン車に同乗することになった。三島の車は狭すぎて、茅と三人組、それに運転をする三島が乗り込めば、それ以上人間を乗せる余裕がない。
茅たちが検査をしている間に、三島が電話で荒野や真理と相談して、この後、狩野家でジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィの四人の歓迎会を兼ねた夕食をする算段になっていることになっていた。
もちろん、現象たちやシルヴィにも、声をかけている。
『……まぁた……』
荒野のヤツ、「姉崎の新参者四人」という新しい要因の登場に対して、神経を尖らせているんだろうな……と、三島は思った。
その荒野の心配も、決して杞憂とは言い切れない、あたり、たちが悪い。確かに、これまでのところうまくいっているからいいようなものの……現在の状況が薄氷の上を歩いていくようなものであることは、詳しい事情を知るものなら誰もが心得ている。新たに登場した「姉崎たち」は、不確定要素が多く、荒野にしてみれば「お荷物」以外の何物でもない。もちろん、「戦力」としての魅力はあるし、変に姉崎を刺激して、関係を拗らせるのも「加納の若」としては避けたいから、受け入れるしかないわけだが……。
無用なトラブルや摩擦を避けるためにも、新参者四人の「人となり」を、出来るだけ早く把握する必要があり、そのために、三島も荒野に「全員まとめて夕食に招待する」ことを進言したのだった。
三島が電話越しにそのことを提案すると、荒野は、即座に首肯した。
三島の考えを読んで……というより、誰かが来たら宴会、というのは、いつの間にか関係者の間で定例化しているので、荒野も特に考えるまでもなく、賛同をしたのだろう……と、三島は想像する。
彼女ら新参者四人をよく観察し、性格その他を把握するいい機会だ……と、荒野なら、当然その程度のことは、瞬時に想定するとは、思うが。
『……あいつも……』
心配性なところはあるが、決して、馬鹿ではないからな……と、三島は思う。
商店街の外れで、買い物を済ませた荒野たちと合流し、荷物だけを受け取って先に狩野家に向かう。どのみち、この人数では全員、車に乗ることは出来ない。
『……また、真理さんに世話、かけるなぁ……』
と、三島は、心中で嘆息する。
集合する人数が多くなりがちな関係で、広すぎる狩野家は、格好の集会場所になってしまっている。場所を貸してくれるかわりに、食材や食事の手間はこっちで持つようにしているものの、真理がなにかと鷹揚な性格の持ち主でなかったら、ここまで好き勝手にさせては貰えなかっただろう。
楓や三人組が世話になっている……ということを除いても、真理には、普段からかなり無理なことを要求してしまっている。
荒野なども、心理的に、真理に引け目を感じているのではないか……と、三島は予想する。
『……まっ。
世話になりっぱなしな分、せいぜい、うまいものを食べて貰うってことで……』
その程度の礼くらいしか、できないしな……と、三島は思う。
今夜は、三島と舎人、それに、ジュリエッタまでもが、何か料理を作るという。ジュリエッタの料理の内容までは聞いていないが、出身地から考えれば、南米の料理だろう。三島の和食と舎人の中華、それに、ジュリエッタの洋食が一度に揃うことになるが、人数が多いし大食漢も若干名いるから、なんとでもなるだろう……。
『……最近では、茅やガク、ノリも、食べるようになってきたというし……』
話しを聞いてみると、この三人は、成人男性以上の食事量になっているらしい。というか、一回の食事で、普通の二人前とか三人前にあたる分量を、苦もなく平らげる。別に、普通の量でも我慢できないこともないのだが……食べるものが確保できる時は、出来るだけ食べるようにしている、という。
このあたりの体質、荒野のそれと酷似していた。
『……いざという時の運動力を考えると、それでも追いつかないくらいなんだが……』
問題は、そのようにして消化・吸収された食物が、どのような形で体内に蓄えられているのか……ということで……このへん機序については、今のところ、三島にも、涼治の手配した医師たちにも、説得力のある仮説を提示できないでいる。
そもそも……人間の身体は、構造的にみて、一族とか新種とかがするような激しい運動は……出来るわけがないのだった。
例えば、生身の人間が、ノリや野呂の上級者のような無茶な機動をしたとしたら……そのGにより血流が止まり……脳に酸素が行き渡らず、その場で意識を失い昏倒する。
ガクのように、自分の体重の何倍もの力を手足にかければ……骨や筋肉が負荷に耐えきれず、ずたずたになる。
佐久間の特性である諸能力に至っては……どういう理屈をつけて説明していいのかさえわからない、言語道断な代物だ。
『……理屈からいやぁ……』
絶対、「あり得ない」ヤツらだよなあ……と三島も思う。
そう思うのだが……彼らは、彼女らは……現実に、三島のすぐそばにいる。
『……非常識なヤツらめ……』
と、三島も思うのだが……現にそこに居る者は、居るのだから……否定するだけ、無駄というものである。
現に「ここにいる」者を否定してもしかたがないので
『……欠食児童どもに、たらふく、うまいもの食わせてやりますかね……』
と、三島は思う。
三島がその『非常識なヤツら』のためにできることはといえば、今のところ、せいぜいその程度のことなのであった。
「……どうも。毎度ぉ。
またお世話になりますぅ……」
「いえいえ。
先生こそ、お疲れ様です。先生の作るご飯おいしいから、いつでも歓迎ですよぉ……」
玄関先に出迎えてくれた真理と、そんなような挨拶を交わし合いながら、三島は、
『……この人の肝の据わり方も、ホンマモンだよな……』
とか思ってしまう。
あんな非常識な連中と一緒に暮らしていて、まったく動じた様子がない。
それに……。
『……どうやら、太らない体質らしいし……』
などということも、三島はチェックしている。
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つづき]
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