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彼女はくノ一! 第六話 (94)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(94)

 歩きながら、なんのかんのと話し合ってはいたものの、さほど広くはない商店街であり、孫子や楓は、実際的な事柄は手際よく片付ける性格でもあった。口を動かしながらも効率的に各商店を回り、荒野に渡されたメモとそれに、今後、狩野家で使用する分の食材も、適当に見繕って買いあさる。
 人数が多く、不意の来客も多い狩野家では、食材の消費速度が半端ではない。手が空いた者が機会さえあれば食料を買い足しておく、という不文律が、女性たちの間で成立しつつあった。
 今回も、使える人手が三人分もあったので、孫子と楓は、荒野のメモにあったものを買うのに加え、それ以外に、三人の手で抱えられる限りの食材を買い足した。

 三人分の両手で抱えられる限りの荷物を抱え、三人は指定された集合場所である、商店街の外れの某所に移動する。そこには、すでに、荒野と香也、ホン・ファ、ユイ・リィの四人が、大きなビニール袋に入った荷物を手に持ったり、ガードレールの上に置いたりして、談笑していた。
 荒野が新参二人との仲立ち役を積極的に務めている、ということもあったが……普段、あまり他人のことに興味を示さない香也も、今回は、比較的積極的に二人に話しかけている……ように、楓の目には、感じられる。
 ……これは……あくまで、一時的なことなのか、それとも、香也にも、それなりに変化が起こりつつあるのだろうか……と、楓は興味を覚えた。
 ジムでのジュリエッタとフー・メイとの対決を目撃して以来、香也の「他人に関する関心」が、強くなったように、楓は感じている。

 三人が荒野たちに合流していくらもしないうちに、三島の小型国産車が目の前に停車し、荷物を車の中に入れるよう、荒野に声をかける。
 そのすぐ後に、舎人のワゴン車も到着し、ほぼ同時に静流とジュリエッタも、やはり大きな荷物を抱え、にこやかににこやかに談笑しながら到着した。
 談笑、といっても、静流はひっそりと微笑み、ジュリエッタは歯を見せて、「明朗」という言葉がぴったりくる笑顔を見せている。性格的にはまるで違う二人だったが、それ故に、かえって相性がいいのかも知れない……と、楓は思った。横目で確認すると、荒野も二人の様子をみて、幾分安心したような表情をしている。荒野はあれで、周囲の人々に対し、かなり細やかな気の遣い方をしている……ということには、楓も気づいていた。

 荒野は、自分自身よりも周囲の人々が傷つくことを恐れている……と、楓は、見ている。性格的なものもあるだろうし、荒野自身の物理的な意味での「タフ」さを、荒野が十分に認識している故、の、心理的な余裕でも、あるのだろう。
 しかし、そうした「自分自身よりも他人の身を案じる」傾向がある荒野にとって、何かと微妙なバランスの上にようやく成立している現在の状況は……。
『……もどかしいし、歯がゆいし……』
 ……精神的には、かなりきついだろうな……と、楓も思う。
 何より、「荒野自身の努力で、改善できる部分がほとんどない」わけだし、加えて、いつでも現在のバランスを崩しかねない不安要素だけは、山盛り……という状況なのである。
 それでも、最近は落ち着いてきた方だし、荒野も何とか保ってはいるが……。
『……早めに、根本的な対策を立てないと……』
 そのうち、荒野が、心労で倒れでもするんじゃないだろうか……とさえ、楓は思っている。あまり、態度に表す性格ではないが、現在の荒野は、それくらい、神経が張り詰めているのではないか……と、楓は思った。楓も、どちらかというと、他人に気を遣いすぎる傾向があるから、現在の荒野の心境は、かなり正確に推察できるつもりだった。
 来週の期末試験が終われば、終業式や卒業式などの行事の日を除いて、学校も、しばらく休みになる。そうすると、荒野もそれなりに骨休めができるのだろうが……。

 三島の車と舎人のワゴン車に買い物を詰め込み、ついでに年長者の静流とジュリエッタ、それに呼嵐も、舎人のワゴン車の後部座席に押し込み、楓や荒野たちは、徒歩で狩野家に向かった。もとより、歩いてもたいした距離があるわけでもない。
 イザベラは、今度は香也に話しかけている。香也のそばには、ホン・ファやユイ・リィもいた。三人とも、香也に興味を持っている様子だったが……彼女らの表情を見る限り、その興味の持ち方は、どうみても「異性に抱く関心」ではないようだった。
 どちらかというと、「何でこの場に、香也のような凡庸にみえる少年が、混ざっているのだ?」という疑問形の興味であり……とりあえず、新参の三人が、香也を異性として見ていなさそうな様子なので、楓は安心した。
 香也の方も、珍しく乗り気になって、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィと、長いこと会話を継続している。もとより、香也は、話しかけても反応が淡泊で、用事がなければ自分から誰かに話しかける……というタイプでもない。対人面での積極性は乏しい香也が……。
『……ちょっと……変わっている……』
 香也の様子が、微妙に変わっていることに、楓は気づいた。

 香也が……例によって、「……んー……」と前置きした上で、
「……君も、あの、二刀流の人とか、拳法の人みたいに、何かできるの?」
 と、イザベラに、問いかけている。
 香也が、自分から……。
 楓は、目を見開いて、半ば反射的に周囲を見渡す。
 同じように、驚愕の表情をしていた孫子と目があい、どちらからともなく目線を逸らした。
 孫子も……そうした香也の態度に、不信感を憶えたのだろう……と、楓は悟る。そして、楓の表情から、楓も同じような疑問を持ったことを悟り、何となくばつが悪くなって目を逸らした……と、いったところだろう。
 ともあれ……孫子も、楓と同じく、今の、変に社交的な香也の態度が、「らしくない」ということでは、楓と意見が一致しているようだった。孫子の態度が、それを物語っている。
 楓は、皆に遅れないように足を動かしながら、あわただしく香也に関する記憶を思い返してみる。
 最近の香也に……そうした変化を促すような……。
 と、考えかけたところで、楓は、「あっ!」と声をあげそうになった。
 思いついてしまえば、ごく単純なことだった。
 今日……それも、つい、今し方……香也は、ジュリエッタとフー・メイの戦いを観戦している。
 あんなハイ・レベルの戦いを目撃して……「興味を持つな」という方が、むしろ、無理というものだ。
 それに……よくよく思い返してみれば……香也が、「一族の戦い」をはっきりと目撃したのは……これが、はじめてなのではないだろうか?
 楓にとって、香也は、あまりにも身近な人物だったため、今まで思い至らなかったが……香也は、あまり、一族関係のことを、見聞していないのである。
 香也自身が興味を持たなかった、ということもあるし、誰も香也に詳しく説明しようとしなかった……ということも、ある。
 香也が……今日のことがきっかけになって……それまで関心のなかった一族周辺の事物に、興味を持ちはじめたのだとしたら……それは……。
『……いいこと、なのか……それとも、悪いこと、なのか……』
 楓は、この時点では、何とも結論をつけることができなかった。




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