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彼女はくノ一! 第六話(109)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(109)

「……かわいい寝顔……」
 梢が廊下の気配を察して居間を出て行くと、シルヴィは音もなく布団を抜け出して、抱き合うようにして眠っているホン・ファとユイ・リィの様子を伺った。
 二人は、一見して熟睡しているように見える。
 この土地にまで移動してきてからすぐに昼間の騒ぎ、夜のジュリエッタとの一件……と、それなりにつかれることも多かったのだろう。言葉に不自由しないとはいえ、この二人にとって日本は、慣れない異国でもある。
 もっとも、いくら熟睡しているように見えても、この二人なら、この場で少しでも殺気を放てばすぐに跳ね起きるのだろうが……シルヴィも流石に、興味本位でそのようなことを実地に試したりはしない。
 朝っぱらから、はた迷惑だからだ。
 シルヴィは、身体の向きを変えて、もつれ合った姿勢でいびきをかいている赤毛とブルネットの二人組を観察する。
「……かわいくない寝顔……」
 まだあどけなさが残るホン・ファとユイ・リィとは違い、こちらはあられもない格好で敷布団をはねとばし、二人して豪快にいびきをかいていたりする。
 ジュリエッタとイザベラは、昨夜もかなり遅くまで様盛りを続けていた。両者ともなかなかの酒豪であり、何となく意気投合して盛り上がっていたようだ。かくいうシルヴィ自身も途中まではつき合っていたのだが、二人とも相当に出来上がって英語スペイン語ちゃんぽん、かつ呂律が回らなくていっている内容が判別出来なくなったあたりでこれ以上つきあってもしょうがないと判断し、寝ることにしたわけだが……。
『……姉崎が、いっきに四人も……』
 ……二宮とか野呂とかが集まってきたから、対抗意識でも出してそれとなく発破をかけたのがいるのかな……。
 などと、軽く考え込んでしまう。
 そういう「さりげない根回し」……一種の暗示だが、本人が自分の意志で決断したように思わせたまま、行動指針を誘導する……の達人は、姉崎の中には大勢いる。佐久間ほどではないにせよ、姉崎もその手の誘導は得意としていた。
 この四人の来訪の、どこまでが偶然でどこまでが意識操作の結果なのかは、シルヴィには判別できなかったが……。
 問題なのは、この土地に一番早くから居着いているシルヴィが、どうやらこの四人の面倒をなにかと見なければならないらしい……ということだ。
 別にそんな義理もないのだが。荒野の負担を減らすため、そして、他の六主家との競合を考えると、やはりまるっきり放置というわけにもいくまい。
『……まあ、いっか……』
 とりあえず、シルヴィは、この時点ではあまり深刻に考えてはいない。
 もともと、どちらかというと楽天的な性格ではあったし、たいていのことならそれなりに後始末をする自信もあった。有事の際のフォローということでは、まだ若く経験が不足している荒野よりは、シルヴィの経験と柔軟さの方が役に立つことが多い。
 また、決定的な、取り返しがつかない……ということまでには至らないトラブルが適度に発生し、それを自分が収拾してみれることで、荒野の自分への信頼が増すのではないか……という計算も、シルヴィには、ある。
 ジュリエッタ、イザベラ、ホン・ファ、ユイ・リィ……。
 この四人は、ちょうどいい具合に、「適度に小規模なトラブル」を起こしてくれそうな性格と資質の持ち主なのではないか……と、シルヴィは心中で、そんな不謹慎な計算をしはじめていた。
「……んっ……」
 シルヴィがそんなことを考えていると、後の方で小さな声が聞こえる。
 振り返ると、ホン・ファがぼんやりとした顔で上体を起こしているところだった。まだ目が覚めていないのか、実に眠そうな顔で室内を見渡している。
「……あっー……」
 ……どうやら、「何故自分がここにいるのか」よく分かっていないらしい……。
 この様子だと……日本に来たことを思い出すのも、しばらく時間がかかるのではないか……。
 実に不思議そうな表情をしてホン・ファはしばらく室内を見渡していたが、シルヴィと目が合うと、急にしゃっきりと背筋を伸ばし、目を見開く。
「……アイヤー!」
 一声、そう叫んでから慌てて自分の口を掌で塞ぎ、ぱっと跳ね起きて座り直し、その場で土下座しはじめた。
「……お、おはようございますっ!」
 ……おそらく、師匠のフー・メイから、普段から礼儀についてはやかましく言われているのだろう。特に一族は、一般人よりは序列の意識に敏感だ。無礼な言動が、即、生死を分ける場合も、多々ある。
「……はい。おはよう。
 挨拶はいいけど、土下座はやりすぎ……」
 ジュリエッタはできるだけ柔らかい笑顔を作ってホン・ファに語りかける。
「……今の日本は、どちらかというとフランクな対人関係を好む傾向があるから、あまり作法について厳しく考えすぎないほうがいいわ……。
 特にあなたたちの年頃の日本人は……うーん。
 なんていうのか、フランクっていうか、軽いの多いから……」
 シルヴィは荒野たちが通う学校の生徒たちの様子を思い浮かべながら、出来るっだけ分かりやすくなるよう、言葉を選んで説明する。
 立場からいっても、ホン・ファとユイ・リィには出来るだけ早くこの土地の環境に馴染んで貰いたい。
 そして、「おはようございます」の挨拶一つで平伏するような生徒は、現代の学生の中では明らかに、浮く。
 昨日、一日観察していたのだが……シルヴィの見立てによれば、ホン・ファとユイ・リィは厳格な躾を受けていたらしく、その年齢の割には、言動の端々が「堅い」。
 若いから順応するのも早いとは思うが……日本の、今時の若い者の「軽さ」の中にはいると、明らかに、「浮く」。
「そう……ですか……」
 シルヴィにそういわれたホン・ファは、二、三秒、目をぱちくりさせていたが、すぐに立ち上がり、
「おはようございます!」
 その場で、深々とお辞儀をして挨拶をやり直した。
 ……やっぱり、堅いなぁ……この子……。
 と、シルヴィは思う。
 その時になって、ユイ・リィが目を擦りながら起き上がる。
 そして、お辞儀をしているホン・ファとシルヴィを、不思議そうな顔をして、交互に見つめた。
「……あっ。
 起きていたんですか?」
 そんな時、パジャマ姿の梢が、居間に入ってきた。
「おはようございます。
 って、まだ本当に早いですけど……皆さん、どうします?」


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