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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(369)

第六章 「血と技」(369)

「……それで、今日は五人で飯をたかりにきたわけだ」
 荒野が頬杖をついてぼつりと呟くと、テン、ガク、ノリの三人は口々に不平を鳴らした。
「たかりに、じゃないよ……」
「こうして、材料は持参してきたし……」
「ついでに、このうこうやや茅さんたちの分も作ってやっているんだから、文句言わなくてもいいじゃないか……」
「その代り、しばらくここを占有してわいわい騒ぎたてるんだろ?」
 荒野は速攻で指摘する。
「どうせ、お前らの目当てはスパーヒーロータイムなんだ。
 騒ぐ分、とっとと働け……」
 迷惑だ、とわかりきっていても、強硬な態度に出られないのは、特撮番組を鑑賞中、茅もこの三人と一緒になって騒ぐことが、経験上、わかってしまっているからだった。
 その茅は、ホン・ファとユイ・リィから中華風オムレツの作り方を習っている最中だった。ホン・ファとユイ・リィは旅暮らしが長いといっても、簡単な料理くらいは作れるらしい。
 テン、ガク、ノリの三人は、恐ろしいことに、自家製のジャムを何種類か作りはじめている。
 時折、こうしてマンションを訪れるお礼に……ということらしかったが、荒野にしてみれば、その殊勝さを褒めるよりは、茅との住空間がさりげなく浸食されつつあることが気に障る。
 第一、「自家製のジャム」などという代物を作ってここに備蓄しておく、ということは、この三人が定期的に来る、ということではないか。
 しかし、これも、肝心の茅が特に反対することもなく、それどころか、機嫌がよく歓迎している節さえみえる……以上、荒野にしてみても強硬な態度をとるわけにもいかない。
「……いつも、こんな感じなんですか?」
 一段落ついたのか、ホン・ファが手を洗いながら荒野に話しかけてくる。
 敬語はともかく、態度や物腰がどこか堅さを残している。
 馴れない異国で、馴れない異国語を使用して会話している……ということもあるのだろうが、もともと、真面目な性格なのだろう。
 その証拠に、ホン・ファと一緒に来たユイ・リィなどは、昨日こそ緊張した様子で、何かというとホン・ファの後ろに隠れたりしていたが、一夜明けた今では、表情もかなり柔らかくなって、好奇心に満ちた眼で、目に入るものすべてを見渡している。
「いつも……っていっても、こいつらがここに来る自体が、そんなに多くないけどな……」
 荒野は、憮然とした声で答えた。
「来る時は、まあ、だいたいこんな感じだ。
 というか、今はまだいいけど……お目当ての番組がはじまると、かなりうるさいことになるぞ……」
「……いいじゃんか、別に。
 みんなで楽しんで観ているんだから……」
 すかさず、ガクが口唇を尖らせて反駁する。
「……真理さんのご飯、おいしいんだけど、基本、和食中心だから、こういう機会でもなければパンを食べられないんだよね……」
 ノリも、そんな風につけ加えた。
 テーブルの上には、トーストにする予定の食パンと、それに何種類ものの菓子パンが、文字通り山となって置いてある。
 コンビニに買い物にいった際、ホン・ファとユイ・リィが日本の菓子パンを珍しがったから……という名目で、こういうことになったらしい。その実、本当に菓子パンを欲しがったのは、テン、ガク、ノリの三人なのではないか……と、荒野は疑っている。
 真理は、不用意な間食や買い食いについては、どちらかというと厳しい方らしく、三人娘も真理のいいつけにだけは、率先して従うところがある。
 荒野自身もおおぐらいだし、他の面子も荒野ほどではないにしろ、それなりに健啖家だったから、買ってきた食糧があまる心配だけはないのがまだしも救いだった。
「……別に、おれたちやこいつらのペースに合わせる必要はないから……」
 荒野はホン・ファに対しては、そういうだけに留めた。
 別に荒野が説明するまでもなく、これから先、ホン・ファやユイ・リィがこちらの「実態」を知る機会はいくらでもあるだろう。
「……でも……」
 ユイ・リィが、心持ち小さめの声で荒野に確認する。
「昨日のビデオのようなもの、もっと見られるんでしょ?」
「……うーん……」
 荒野は、まだ目が醒めてから櫛を通していない髪に指を突っ込んで軽くかき回す。
「日本は……そういう子供向けのコンテンツだけは、かなり充実しているからなぁ……。
 普通にテレビをつけているだけでも、ずうっと垂れ流しになっているけど……」
 ホン・ファとユイ・リィは、娯楽らしい娯楽も与えられずにここまで育ってきたのかも知れないな……と、荒野は、そんなことを思った。
「……昨日のビデオ、面白かったのか?」
 ユイ・リィは、黙って頷く。
「羽生さんや先生が、詳しいし、いろいろな本とかDVD持っているから、暇がある時にでも借りるといい……」
 何のことはない。
 このあたりの経過は、テン、ガク、ノリの三人娘の反復なので、荒野は安心して他人に振ることが出来る。
 興味があるなら、自分で勝手に情報を収集していくだろう。
「……コンビニに、マンガ、いっぱい売っていました」
 ホン・ファも、頷く。
「この国は、平和です」
「おれも、週刊のマンガ雑誌があんなに発行されているなんて……こっちに来てから知ったくらいだけど……」
 荒野は、話しを合わせる。
「……先生の話しでは、今では世界中で翻訳されているそうだな……」
 もっとも、三島経由でもたらされたこの辺の情報については、荒野は眉に唾をつけるくらいの心持ちで受け止めている。ニュースソースがニュースソースだし、担がれている可能性も捨てきれない。また、荒野はそっち方面の興味や関心はあまり強くなかったので、自分で裏を取るという手間もかけていなかった。
「海賊版の漫動のことなら、少しは知っています」
 ホン・ファはあくまで真面目な表情を崩さずに頷いた。
「向こうでは普通に売っていますし、それに、テレビでも翻訳したものを放映していますから……」
 しかし、ホン・ファの声にはあまり熱意は感じられなかった。
 ホン・ファは、ユイ・リィほどには、その手の日本文化に対して関心を持っていないようだった。


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  • 2008/02/28(Thu) 01:11 
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