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彼女はくノ一! 第六話 (114)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(114)

 実際に教えてみると、香也は決して物覚えが悪い方ではない。逆に、物覚えがいい、とも断言できなかったが、時間をかければかけただけの成果や手応えは、今まで香也の勉強につき合ってきた楓も感じていた。
 香也は、今までさぼっていた分が債務としてのしかかっているために成績が悪いだけであり、決して、理解力や記憶力が一般の基準より劣っているわけではない。その債務も、ここ最近の楓や孫子の努力と協力によって、かなり挽回している。
 楓が見るところでは、現在の香也の成績は、は、以前の「下の中」くらいから「中の中」くらいにまで、持ち直している。
 とはいえ、これはあくまで楓個人の観測であるからあまり正確な評価とはいえず、そういう意味でも香也の「仕上がり具合」を数字で評価してくれる期末試験の結果は、楓にとっても興味があった。
 このような時の試験結果は、香也本人だけでなく、香也を教えている楓や孫子への評価にも繋がる。
「……そういうわけで……」
 などということを一通り、香也に説明してから、楓は今日の勉強を開始する。
「頑張ってくれると、嬉しいです」
「……んー……」
 香也は、相変わらず覇気に欠けた声を出して答えた。
「やっては、みるけど……」
 結果は保証しないしできない、というわけだった。

「……これが、教科書か……」
 現象が、少し離れて教科書をパラパラとめくっている。
「……ふん。
 知っていることしか載ってないので、つまらん……」
「……へー……」
 いかにも詰まらなさそうな顔の現象とは対照的に、梢の方は、興味津々で教材をチェックしている。
「……一般人の学校って、こういう教え方をするんですか……」
「一般人の、って……」
 梢の発言を受けて、舎人は、少し呆れた表情になる。
「梢。
 お前も、普通の学校に通っていないクチか?」
 楓がそうであったように、一族の中では、一般人に紛れて普通に教育を受ける……というのは、必ずしも「当然」ではない。
「佐久間は特別ですし……その中でも、記憶力に秀でた者は、一般人向けのカリキュラムは……退屈で不合理で無駄なだけです」
 梢は、特に自慢する風でもなく、淡々とした口調で答える。
「むしろ……際限なく頭の中に入ってくる情報を、どう捌き活用するのか……という方法を学ぶ方が、より切実な問題なので……」
「……幼少時から、何も忘れない……というのも……これで、案外不便なもんなんだぜ……」
 にっ、と、現象が、口の端を歪める。
「……特に、身体が出来上がるまでは、知っていることと、出来ることの乖離がひどい。
 言葉の意味は知っているし、語彙はどんどん増えていく。しかし、口が回らなくて自分の意志をうまく伝えられないもどかしさ、とか……」
「……それに、まともに歩けるようになるまでが、とっても長かったですね……。
 歩けるようになってからは、かなりストレスも減りましたけど……」
 梢が、思案顔で現象の言葉を引き取る。
「……おま……」
 舎人は、一度何かを言いかけて、数秒絶句した。
「……それは、何か?
 お前ら佐久間は、はいはいしているような時分の記憶も持っている……って、いうのか?」
「佐久間に限らず……」
 舎人の反応に、現象は、素っ気ない口調で応じる。
「……赤ん坊の頃を覚えているやつは、意外に多いぞ。
 時分が生まれる時の記憶を持っている……と称するヤツらもいるしな。
 記憶力に優れているだけでは、自慢にもならん……」
「そうですね……」
 梢が、英語の教科書のページをパラパラと弄びながら、話す。
「……例えば、語学です。
 単語や文法の知識を得ただけでは、会話一つ成立しません。
 知識に加えて、書いたりしゃべったりする技能を身につけなければならないわけで……。
 そっちの訓練は、記憶力よりも運動野の訓練が物をいいます。
 そういう場合、一番モノをいうのは、結局単純な反復練習になります……」
「……発音したり手を動かすのが、効果的……ということですね」
 楓が、梢の言葉に頷き、香也の方に向き直った。
「そういうわけで、まずは英語から。
 いつもと同じように、単語の書き取りと音読を……」

 香也と楓がそれなりの真剣さで勉学に励んでいる横で、現象と梢は、二人が使っていない教科書に目を通していた。
 いい機会なので、目を通して、これから通う学校のカリキュラムを、一通り把握してしまおう……と、二人は考えている。この二人にとっては、「ざっと黙読する」のと「記憶する」ということが、ほぼ等しい。
 ただ、教科書を諳んじさえすれば完璧……というわけでもなく、現象は、英語辞書の発音記号と楓の発音とを、熱心に比較していた。
 普通の学校も、一族の教育カリキュラムとも無縁に過ごしてきた現象は、大半の知識を母親の口伝と独学での学習に頼ってきていた。
 当然、欠落している部分も多く、「活きた語学」は、その代表的な一例である。楓の発音はかなり「きれい」な部類に入り、現象が参考にするのには、うってつけの「教材」では、ある。
 楓が教科書の内容を音読し、香也がそれに唱和する。現象も、小声でぶつぶつと唱和する……という光景をみた梢と舎人は、しばし顔を見合わせ、どちらからともなく嘆息した。
「……いろいろ、苦労しそうだなぁ……。
 あいつも、お前も……」
「……現象の苦労は、あいつ自身が一般人の生活に溶け込むための苦労。
 わたしの苦労は、あいつの歪んでいるところをフォローするための苦労です……」
 何気に、容赦がない梢だった。
「……別に、お前さんがフォローしなければならない、って法もなかろう……」
「……フォローしないと……現象には、うまく適応して貰わないと……」
 こっちが目立ってしょうがないんです……と、梢は舎人に訴える。
 この二人は、春から揃って香也たちと同じ学校に通う予定だった。
 同じ学年に、同時に、同姓の転入生が二名、来たら……それだけで、目立つ。梢としては、新学期がはじまるまでに、現象には最低限の「常識」を身につけていて欲しかった。


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