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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(387)

第六章 「血と技」(387)

 夕食が済むと沙織や源吉、酒見姉妹を見送る。
 流石にそれ以上、沙織を遅くまで引き留めておくわけにもいかなかった。源吉も、沙織を見送っていきたがったので、荒野と茅はエントランスまで帰宅する人々を見送った後、すぐに自室へと引き返す。
 玄関を入るとすぐ、茅は下から腕を伸ばし、荒野の首にぶら下がった。
「……おいおい……」
 荒野は苦笑いを浮かべながら茅の体に腕をまわし、茅の体を抱き上げる。
 茅も、両腕と両足を荒野の肩や腰に巻き付け、荒野にしがみついた。
「……茅さーん。
 みんなが帰ったからって、ちょっと甘えすぎですよー……」
 荒野は茅をぶらさげたまま、リビングの方に移動していく。
「……むぅ」
 茅はそんな声を出しながらも、ますます荒野にしがみつく腕や足に力を込めていく。
「荒野、先輩にばかり親切なの」
 茅は、いかにも不満げな声をあげた。
「……おいおい……」
 荒野は、軽く抗議する。
「おれ、先輩にそんな気になったこと、ないぞ……」
「わかっているの」
 茅の声には、まだ拗ねているような響きがこもっていた。
「でも……最近、荒野、茅のことあまり相手にしてくれないの」
 やはり……以前から感じていたこと、ではあったが……茅はこれで、嫉妬深い……らしい。
 ひょっとしたら、自分でもそうした感情をコントロールしかね、持て余しているのかも、知れない。
「相手にしてくれない、って……」
 そうした情緒は、あまり頭の良さに左右されない部分でだろう……と、荒野も、思う。
「今では、おれよりも茅の方が、忙しいくらいじゃないか……」
 茅をぶらさげたまま、とりあえず、あたりさわりのなさそうな話題を振っておく。
 普段の学校でも、茅は多忙なのだが……今日のように、放課後の課外活動が禁止されている試験期間中も、寸暇を惜しんで各種作業に勤しんでいる。ボランティアにしろ、学校の自習システムにせよ、中枢の主要な部分を茅が担当しているので、他の協力者たちよりも、少しでも先行しておきたい……という気持ちはあるのだろうが……。
「今の茅は、少しオーバーワーク気味なのかもな……」
 掌で軽く茅の背中を叩きながら、荒野はそういった。
 事実、ここ二、三日の茅は……少し前より、精神的に不安定になっているようにも、見えた。
 あるいは……。
「……荒野……」
 茅が、荒野の耳元で、囁く。
「茅……誰とも、違うの」
 あるいは、茅は……多くの人と触れる機会が多くなればなるほど、自分の異質さを、実感していっているのかも、知れなかった。
「……学校のみんなとも、一族とも、テン、ガク、ノリたちとも……。
 それに……荒野とも……」
「人は、みんな少しづつ違うんだよ」
 荒野は、考え考え、言葉を絞り出す。
 なにしろ茅は……ついこの間まで、自分と仁明しかいない環境で育ってきている。
 表面的には、驚くほどの適応力を発揮して、現在の環境を受け入れているわけだが……。
『……おれたちは、いろいろなことを……少し、急ぎすぎなのではないか……』
 荒野たちが学校に通いはじめてから、二ヶ月ほどしか経過していない。
 なのに、今では……茅は、さまざまな団体行動の中心人物となっている。
 いくら茅が、知能と適応性に優れているといっても……この環境の変化は、少し急激にすぎるのではないか……。
 荒野自身もその変化の渦中にあったため、改めて考える余裕が今まで持てなかったが……。
 以前から、瞬間的な判断力を求められることが多かった荒野と、ろくに他人というものと接してこなかった茅とでは……精神的な負担も、全然異なってくるのではないか……。
「ときどき……いろいろなことが、とても怖くなるの」
 茅が、囁く。
「……ああ……」
 荒野は、頷いた。
「おれも……同じだ」
 おれは……おれたちのやっていることは、本当に正しいのだろうか?
 という問いは、「一般人と一族の共存」というテーゼを採用した時から、常に荒野の胸中と脳裏にあった。
 仮に、その大目標が、公的に否定されるものだったとしても……今となっては、荒野も、それ以外の選択肢を選ぶつもりはならなかったが。
「おれも……とても、怖いよ」
「……荒野……」
 茅は、静かな声で荒野が考えているのと同じ事を指摘する。
「荒野は……茅のせいで……一族の、今までの生き方を……否定して、ねじ曲げようとしている……」 
「それは……そう……なんだけど……」
 荒野は、内心の動揺が声に出ないように努めた。
「でも、後悔はしていないよ。
 それに、別に……茅一人のため、ってわけでもないし……」
 本心……の、つもりでは、あった。
 だが……その本心からこぼれる些細な感情も、少なからず、あった。
「……茅……。
 おれたち……みんな違っていって……こんなにくっついていても……どこか、寂しいんだな……」
「ん」
 茅は、短く荒野の言葉を肯定する。
「茅も……ずっと、荒野と一緒にいるけど……。
 どんなに一緒にいても、どこか、寂しいの……」
 そういうと、茅は、腕と足にいっそう力を込めて荒野に密着した。
「やはり……。
 茅、少し、ナーバスになっているみたいだね……」
「……わかっているの……」
 茅は、荒野の肩の上に顎を乗せ、囁く。
「自覚は、あるけど……それでも、不安なの。
 荒野が……いつか、いきなり……どこかに消えちゃうんじゃないか、って……」
 茅は……仁明の消失、も、経験している……。
 仁明と二人きりで暮らしていたその当時の茅にとって、仁明とは……親代わり、というだけではなく、世界の大部分を構成する要素だった筈であり……。
 茅は、未だにその時の喪失感を……心の底から、払拭できないでいる……。
『……何をやっているんだよ、おやじ……』
 荒野は、内心で会ったこともない父親に毒づいた。 
 茅は……単純に嫉妬深い、ということだけではなく、当時の仁明と今の荒野を重ねあわせ、荒野がいきなりいなくなる、という仮定へ、恐怖を抱いている……よう、だった。
 荒野はしばらく茅をぶら下げ、棒立ちになっていたが……そのうち、どちらかともなく口唇を求めあっていた。


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