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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(388)

第六章 「血と技」(388)

『……随一の、曲者……かぁ……』
 風呂場で茅の髪の手入れをしながら、荒野は源吉がいった言葉を脳裏で反芻している。
「荒野」
 そんな荒野に、茅が、言葉をかけてきた。
「何か、考えている?」
 茅は、荒野のことは普段からよく観察しているし、些細な変化も見落とさない。
「ん……。
 ああ」
 荒野は少し考え、「隠すほどのことでもないか」と思い、素直に話すことにした。
「源吉さんがいっていた、おやじのこと。
 曲者って……どういう意味なんだろうな、って……」
 目下のところ絶賛行方不明中である仁明が、そのうちひょっこりと姿を現すこともある……とかいって、源吉はそれ以上、詳しいことを教えてくれなかった。
「なに。
 加納の者がしばらく姿をくらますのは、珍しいことではありませぬ……」
 荒野に変な先入観を植え付けたくない……ということなのだろう、と、荒野は源吉の意図を、そのように解釈した。
 荒野も仁明も加納である以上、存命でありさえすれば、いつか、実際に顔を合わせるここともありえる……ということを、源吉はよくわきまえているのだろう。源吉は、同胞に会った経験がほとんどない荒野よりも、よっぽど「加納の者とつき合う」ということを、肌で知っていた。
「荒野……仁明のこと、気になる?」
 荒野にリンスさせていて茅が、顔だけ背後にむけて尋ねる。
「なる……ようだね。どうやら……」
 荒野は、言葉を濁す。
 具体的な人物像に、興味や関心がある……というより、明確なイメージが未だに掴めないでいるからこそ、引っかかりを感じている……という状態も、「気になる」ということにはなるのだろう。
 そうした心理を茅に隠しても、意味がない。
「おれ、おやじのこと、どう思えばいいのか……どういう感情を持てばいいのか、よくわからないし。
 そもそもおれ、普通の親とか家族とか、よくわかんないし……」
「気にしても、しかたがないの」
 茅は、背を反らして濡れた頭を荒野の胸板に押しつけた。
「仁明は仁明だし、荒野は荒野なの」
「そう……なんだけど、ね」
 荒野は茅の頭を掌で軽く叩いた。
「いつもは何かとバタバタしているから、気にかける余裕がないけど……何かの拍子に、気になってくる。
 今日も、おれ……なんでかわからないけど、源吉さんならおやじと顔会わせていてもおかしくないなぁ……って、思いついて、気づいたらおやじのこと、聞いてた」
 荒野にしてみても、自覚している以上に、気にしている……ということ、なのだろうな……と、判断せざるを得ない。
「それでいいと思うの」
 茅は、荒野の胸に体重を預けながら、いう。
「茅にも、家族とか親子とかのこととか、よくわからないけど……自然なことだと思うの」
「なあ、茅」
 多少、勇気づけられた荒野は、改めて茅に問いなおしてみる。
「源吉さんは曲者っていってたけど……おやじ、どんなやつだった?」
 以前も同じようなことを聞いたことがあったが……その時はまだ茅と一緒に住みはじめたばかりの頃で、荒野の側にも詳しいことを聞きだす精神的余裕がなかった。
「仁明、は……」
 茅は、言葉を区切った。
 茅にしてみれば、珍しいことだが……何事か、頭の中でいうべき内容をとりまとめている感じだ。
「……一言でいうと、仁明は……とっても、変わっていたと思うの。
 今にして思うと……」
 そういえば……仁明が、茅を、特撮オタクにした張本人であることを、荒野は思い出していた。
 荒野の中で「仁明=変人」という評価が、どんどん確固としたものになりつつある。
「……それよりも、荒野。
 仁明のことなら、荒神がよく知っていると思うの」
「あっ」
 いわれてみれば……知っていない筈がない、のだった。何しろ、荒神からみれば、姉の夫……義理の兄に当たる。
 それなりに親交があった……みたいなことは、ちらほらと荒野の耳にも入ってきていた。
 ただ……。
「……いや。
 そっちの線は、駄目だ。
 どうにも、その……当時の、おやじのことを知っていそうな人に、おれが聞くと……みんな、困った顔をして、詳しいことを教えてくれないんだ……」
 今にして思うと……あれは、誰かに口止めされていたのではないか?
 例えば……。
『最強が、届かなかった……って……』
 昼間、源吉が、そうんなことをいっていたが……。
『あの荒神が……敵わなかった?』
 と思いかけ、そのすぐ後に慌てて「いや、まさかな」と、その想像を打ち消す。
 荒神の実力のほどなら……荒野の骨身の隅々にまで染み着いている。
 あれ以上の人間が実在するとは……荒野には、想定も想像もできなかった。
 昼間、源吉がいっていたのは……おそらく、何かの言葉のあや、みたいなものだろう。そう考えるのが、常識的な判断というものだ。
 荒野は一人でそのように納得することにした。
「……今の荒野……」
 気づけば、茅が荒野の胸に頭を預けた形で、下から荒野の顔をみつめている。
「……とても、面白い顔になっているの。
 ころころと表情が変わっていて……」
「……髪、シャワーで流しまーす……」
 もちろん、荒野はその場を誤魔化して凌いだ。
「ほらほら。
 こんなところでいつまでもぼーっとしていると、風邪ひきますよー……」

 平穏といえば平穏だったが、荒野にしてみれば妙に気疲れのする一日となった。
『……今週一週間、試験を受ければ……』
 登校をする必要があるのは、終業式の一日のみ。試験さえクリアすれば、実質、三学期は終わり、荒野と茅にとっては初めての長期休暇に突入する。
 通学する前は懸念事項ばかりが多く、不安に思うことも多かったが、そして、いろいろな事件が起こりすぎてお世辞にも「無事に」とはいい難いが……この分だと、どうにかこうにか、一学期分の学校生活を終えることができそうだ。
 寒さ的には、今が一年で一番寒い時期だというが、もう少し我慢すると、徐々に春らしくなっていく……のだ、という。少なくとも荒野は、そう聞いている。
『……こうして、茅と一緒に……』
 日本の四季を感じ、年齢を重ねていきたいものだ……と、茅の髪の手入れをしながら、荒野は思う。
 まだまだ……前途多難、ではあるのだが。


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