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彼女はくノ一! 第六話 (133)

第六話 春、到来! 出会いと別れは、嵐の如く!!(133)

「……つぇー……」
「……すげぇー……」
 少し離れた場所で、高橋君と太介が、そんなことを言い合いながら頷きあっている。
 この二人が「楓の本気」を間近にみるのは、これが最初だったりする。
 この二人にとって、楓とは、毎朝のように顔を合わせているわけで、比較的身近な存在であったりもするのだが……その楓の印象はというと、荒野や孫子などの派手な印象を持つキャラクターの陰に隠れて、「比較的地味」、だったりする。
 もちろん、「最強の弟子」という情報は、これまでにも、直接的間接的に何度も知らされて来ているわけだが……そうした風評と、普段、現実に接している楓とでは、イメージ的なギャップが、かなりあった。
 そして……その、誰にでもにこやかで親しみの持てる、身近なおねーさん的存在であったところの楓が、風評の通りの活躍をするのを、目の当たりにすると……。
「あの人、楓さん……」
「本当は、すごい人だったんだな……」
 口にこそ出さなかったが、二人は心中で、「見かけによらず」と、付け加えていた。

「……おーい。
 無事かぁ……」
 舎人は、服のそこここにくっきりと足跡を刻印されたまま寝そべっていた現象の襟首を掴み、強引に直立させる。
 ざっと見た限り、生来の頑強さが幸いして、骨折などの負傷はしていないようだったが……現象は、ぼんやりと焦点のあっていない目で、舎人を見上げた。
「……ふざけるな……」
 しばらくして、ぼつり、と現象がつぶやく。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……」
 ぼんやりとした口調で、現象は、しばらくつぶやき続ける。
 一瞬、舎人は「頭の打ち所が悪かったか?」と思いかけた時、現象は、襟首を掴んでいた舎人の手を払い、自分の足でしっかりと、立った。
「……ふざけるなっ!
 あんなことをやられたら……多少の努力や工夫でカバーできる程度の代物なら……。
 一族の能力なんて、たかがしれているってことじゃないか……」
 自分は特別な存在である……という思いこみをアイデンティティの拠り所にしている現象にしてみれば……本来、一族の出ではない楓に、一族以上の働きを見せつけられる、いうことは……現象自身では、とうてい敵わない、と思い知らされることは……屈辱を通り越して、しっかりしている筈の足下が、いきなりぐにゃぐにゃの不定形になったかのような不安をもたらすことだったらしい……と、現象の態度から、舎人は、そう認識する。
 舎人にしてみれば、半ば、予測していたことでもある。
「……で、どうするんだ?」
 舎人は、あえて現象を挑発するような物言いをした。
「どうする……って……」
 とたんに、現象は、声を低くする。
「お前にどう見えているかは知らないが、あの子があの域に達するまでは……相当の、血のにじむような修練が、あった筈だぜ……」
 舎人の声は、決して大きくなかったが、説得力があった。
 現在の楓の姿が、その証左である……とも、いえる。
「ま、お前に限らず、生粋の一族ってのは、だいたいにおいて自分の素質に溺れる傾向があるんだが……。
 現象。
 お前は……一体、どういう存在に、なりたいんだ?」
 舎人がそういうと、現象はしばし沈黙し……何事か、考える顔つきになる。
「……干渉しすぎです……」
 舎人の後ろで、舎人だけに聞こえる小声で、梢がつぶやいた。
 決して、舎人のやり方を非難をする口調ではなかったが。

「最強の、政治ショーじゃねーか……」
 茶番だな……と、一連のことを目撃していた仁木田は思う。
 自分の弟子の強さを、この土地の一族の者たちに周知する。
 同時に、もう一人の弟子、荒野の威信を強化する。一族的な視点でみれば、楓は、荒野の腹心だった。楓が一目置かれる存在になる、ということは、言い換えれば、この土地での荒野の存在感が増すことにも繋がる。
 それに……。
「引き締め、かな……」
 姉崎の中にも、ジュリエッタのような精強がいる……ということを見せつけ、この土地に集まってきた若い術者たちに、渇をいれる。
 最強が、どこまで計算してやっているのかは、仁木田などに想像できるところではないのだが……今回の件は、結果として、今後に大きく影響を与える、デモンストレーションになってしまっている。
「……そのとーり……」
 独り言のつもりが、いきなり、ぽん、と肩に掌を置かれ……仁木田の全身が、こわばる。
「……に、っき、ったくぅぅぅぅん……。
 正解のご褒美に、君に一つの使命を与えよう」
 振り返るまでもない。
 仁木田に気配を気取られずに、ここまで近づける人間……。
 そして、この声……。
「……君も認識している通り、最近の若い者は、ちょいと緩んでいるからさ……ここらで、この土地に集まってきている者だけでも、君が、引き締めてくれないかなぁ……。
 このぼく、直々のお願いだよ?
 それだけでも、君の箔になるし、君から教えを受けたやつらが現場にでるようになれば、君の威光と発言権は増すし……。
 非主流派で足場を欲しがっている君にしても、決して、悪い話しではないと思うけど……」
 荒神、だった。
「謹んで、お受けいたします……」
 仁木田は、震える声で短く返答するのが、精一杯だった。全身が震えだそうとするのを、やっとのことで抑えている有様だ。冷や汗を掻いていないのが、幸いだった。
 荒神の「頼み」を無下にできるほど、仁木田は、大物ではない。
「あ。そう。
 そんじゃあ、その件は、頼んだね」
 素っ気ない声とともに、背後の、荒神の気配は消える。
 出現した時と同様の、唐突さ、だった。
 仁木田は、大きく息を吐いて、自分の動揺を鎮めようとする。
「……貸しを作っておくのも、悪くはないか……」
 自分に言い聞かせるように、仁木田はつぶやく。

「……このまま、車に乗せるわよ」
 シルヴィは、ホン・ファとユイ・リィに指示して、気を失ったままのジュリエッタの体を運び出している。イザベラにも手伝わせるつもりだったが、あの要領のいい赤毛は、案の定、いつの間にか姿を消している。
 ホン・ファとユイ・リィは、比較的素直にシルヴィのいうことを聞いてくれるのだが、イザベラの方は、どうも一筋縄にはいかないようだった。
 それに……。
「……この子も、ねぇ……」
 シルヴィは、意識を失ったままのジュリエッタを見下ろして、つぶやく。
 イザベラとは別の意味で、ジュリエッタは、問題児になりそうだった。
 ジュリエッタは、静流と同居することになっていたが……おとなしい静流が、このじゃじゃ馬をうまく抑えることができるか、というと……シルヴィには、あまり自信が持てない。
『……結局……』
 すぐに、荒野に相談する羽目になるのではないか……と、シルヴィは、この時点で確信に近い予測をしている。


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