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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(392)

第六章 「血と技」(392)

「……いつも余分に作るし、ご飯もいっぱいあるの」
 途中でカレーのルゥを温め終わった茅が、シルヴィと静流にも、昼食を勧める。シルヴィと静流は、今更遠慮することもなく、みなで一緒に食卓を囲むことになった。
「それで、シルヴィアさん、なんか問題起こしたって?」
 昼食を食べながら、荒野が水を向ける。
「……も、問題っていうか……あ、あの人は、ほ、奔放すぎるのです……」
 静流が、シルヴィアのやったことを次々とあげはじめる。
 いわく、静流の家に転がり込んできたその日のうちに、商店街の人たちに声をかけて盛大な宴会を繰り広げて、その代金を静流のツケにする。静流の店で強引……というより、かなりいかがわしい客引きをして、店のイメージを大きく損なう。裏通りの酔っぱらいを力づくで排除しようとして、やりすぎる……などなど。
「わ、悪気がないので、よ、余計に……」
 始末に困る、ということらしかった。
「だって……あの人が静流さんのところに寝泊まりするようになって、まだ二、三日、ってところだろ?」
 荒野も、なんとコメントしていいのかわからなかった。「その短い間に、よくまあ……」
 バイタリティだけは、評価できるな……と、心中で付け加える。
「で、ですから、普段、ジュリエッタさんの身近にいるわ、わたしが、か、彼女を抑えられないと、意味がないのです……」
 それで、荒野に……静流がジュリエッタを「抑える」現場、つまり、他の一族の者たちに見せつけるパフォーマンスの場を、作って欲しい……ということ、だった。
 静流がこういう派手な方法を選択するのは、珍しいな……と思いつつ、荒野は了解する。
 徳川の工場をちょいと借りて、見物人を集めればいいだけのことで……物見高い一族の連中を集まることは、別に難しいことでもない。この組み合わせなら、放置していても人が集まりそうだし、荒野の名前で情報を流せば、なおのこと大勢が集まることだろう。
 静流自身がかなりやる気になっていたので、勝敗や結果に対しては、荒野は不安を抱いていない。静流の性格を考えると、自他の実力差を正確に把握せずに、相手を「やりこめる」と断言する筈もないのだった。
「どうも……ジュリエッタさん、暇にさせておくとロクなことにならないみたいだから、なるべく仕事、彼女に回すようにするよ……」
 もともと、ジュリエッタの目的は出稼ぎ……外貨を稼ぐことだったし、力づくで相手をぶっ潰す……といった態の仕事は、常に一定量存在するものだし、荒野が声をかければそれなりに紹介できると思う。
 そっちの仕事が多忙になれば、ジュリエッタがこの土地でトラブルを起こす頻度も自然と減る筈だった。
 静流は、「お、お願いします」と、荒野の申し出に同意した。
「まあ、そっちはそれでいいとして……」
 荒野は、今度は、シルヴィに水を向ける。
「どうもこうも……うちの若いの、あれ、水と油だわ。
 価値観が違うっていうか、文化が違うっていうか……」
 修行第一でやってきたストイックなホン・ファとユイ・リィの二人と、「世の中すべてが娯楽」、つまり、何事かを面白がることにしか興味を持たないイザベラとは、なにかにつけて衝突している……という話しだった。
「困ったことに……今は、三人とも暇を持て余しているから……」
 自然と、顔を合わせる機会が増えてしまっている……ということだった。
「春になって学校に通うようになれば、自然とそういう摩擦も、減るとは思うんだけどねー……」
 ホン・ファとユイ・リィは、暇な昼間の時間、テン、ガク、ノリの三人と行動をともにすることが多い。三人がしていることにかなり強い興味を持っている様子で、そのこと自体は別に問題はないのだが……。
「あの三人がたむろしている例の工場に、ね……時折、ふらりと顔をだすのよ……」
「イザベラが?」
 荒野は聞き返す。
「イザベラが。
 それと、現象も……だけど、こっちはお目付け役を引き連れているから、あまり衝突や摩擦は起きようもないし……」
 シルヴィが、答える。
「イザベラ……あの子も、どうも分からない子でねー……。
 捕らえどころがない、っていうか……とりあえず、近くのマンションをワンフロア借り切って、何人かごついボディーガードを侍らせて生活している、っていうのは、掴んでいるけど……」
 シルヴィはシルヴィで、いろいろと調査は進めているらしい。
「家出してきて、ボディガード、か……」
 荒野は肩をすくめた。
「……金持ちの考えることは、わからん……」
 どんなに訓練を積んだ、屈強なボディーガードであっても、一定以上の力量を持つ一族の前では無力であり……イザベラも、そのことをわきまえていない筈がない。
 だから、そのボディーガードとやらは、一般人相手の……例えば、営利誘拐犯やテロなどを想定した配備だろう。
 イザベラの実家のことを考えれば、別段不思議でもなかった。
 分からないのは……。
『そんなイザベラが……』
 何でこんな土地に来たのか、ってことだよな……と、荒野は思う。
 イザベラ自身の自己申告によれば、周囲の反対を押し切って飛び出してきた、そうであるが……本当のところは、よく分からない。
「イザベラの両親に連絡して、連れ戻して貰えば?」
 荒野が、やけに常識的なことを提案する。
 家出娘への対象法としては、妥当な線だろう。
「そんなの、とっくにやっているけど……」
 今度は、シルヴィが肩をすくめる。
「どうにも……話しが合わなくって……」
「話しが合わない?」
 荒野は、眉をひそめた。
「だって、あれの母親は……姉崎なんだろう?」
「姉崎にも、いろいろあってね……」
 シルヴィアは、いいにくそうに、報告する。
「イザベラの母親は、典型的な俗物でね……」
 姉崎のネットワークを、私腹を肥やすことにしか使ってない。もちろん、相応の報酬も用意しているから、総すかんを食らうことになっていないが……術者としも母親としても、落ちこぼれの部類だという。
「たまたまいい男を捕まえたから、今のところは安泰でいられるけど……」
 育児については、ワークホリックの父親ともども、放棄している状態に近いらしく、実際には、イザベラは、やはり姉崎であった母方の祖母に育てられたようなもの……らしかった。
「……ここ数年は、全寮制の学校に閉じこめられていたみたいだけど……周到に準備して……」
「逃げてきたのが、ここってわけか……」
 荒野は、頭を抱えたくなった。

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