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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(401)

第六章 「血と技」(401)

「……ええっと……」
 荒野は周囲をぐるりと見渡した。
 一族の者たちが大勢……ざっと、五十人前後が、遠巻きにして見守っている。この土地に流れ込んできたやつらの、三分の一近くが、この場にいる。
『……撮影やら何やらで、たまり場になっているとは効いたけど……』
 荒野の両隣には、ジュリエッタと静流。
 ジュリエッタはすでにケースから出した二振りの細身の剣を手にし、静流は白い杖だけを手にしている。
『……かのうこうや!
 さっさと始めちゃってよ。
 一応、かのうこうやの仕切ということになっているんだから……』
 放送で、ノリの声が響く。ノリは、徳川と一緒に、別屋でこの場をモニターしているはずだ。
「……ああ。
 そうだな……」
 荒野は頭をかきながら小声でつぶやく。
 その後、
「……それでは、二人ともいいですか?
 どちらかが大怪我を負いそうになったら、問答無用で止めますから……まあ、存分にやりあってください……」
 と、大声をだして、素早く観衆のいる位置まで後退する。
 荒野の宣言と同時に、遠巻きにしていた観衆が、どっと沸いた。
「……二刀流!
 今度は勝てよ!」
「姫様!
 頑張ってっ!」
 などなど。声援と野次が半々、といったところか。
「……ああ……」
 荒野は、何とも複雑な表情になった。
「そういや……賭事になっている、とかいってたな……」
「……やぁー」
 シルヴィも、渋い顔で頷く。
「立場上、ジュリエッタに賭けないわけにはいかないし……」
「あ、あの……」
 躊躇いがちに、ホン・ファが荒野に話しかけてくる。
「あの……サングラスの方は……大丈夫なんでしょうか?」
「ああ」
 そういえば……ホン・ファとユイ・リィは、ジュリエッタの戦い方は観たことがあったが、静流のことはよく知らないんだったな……と、荒野は思いながら、いった。
「まあ……観ていれば、わかるよ……」

「……来ないの?」
 ジュリエッタが、無邪気な表情で首をひねる。
 初めて対戦する相手には、とりあえず、相手の出方をみる……というのが、ジュリエッタの基本戦法だった。
 まず例外なく、たいていの攻撃はしのげる……という自信があればこそ、の戦法なのだが……。
「い……いいのです……」
 静流が、だらんと片手に白い杖をぶら下げたまま、静かな口調で答える。
「あ、あなたの攻撃は……当たらないのです……」
「……そんなことをいうと……」
 ジュリエッタは、露骨にむっとした表情を作った。
「……本気で、いくよ?」
 言い終わるないうちに……ジュリエッタが、動く。
 縮地。
 楓との対戦でも使用した、一瞬にして相手との間合いを詰める歩法、だった。
 一気に、静流との距離が、詰まった。
 が。

「……なに、あれ?」
 シルヴィが、あっけにとられた声を出す。
「見えた通りのもの、だよ」
 荒野は、静かな口調で答えた。
「……ええっと……」
 ホン・ファが、戸惑ったような声をだした。
「剣の……柄頭を、押した?」
 ユイ・リィが、後を続ける。
「あー。
 見えたのか……。
 いわゆる……あれだ」
 やはりこの二人、動態視力は、それなりにあるのか……と納得しながら、荒野、ぽつりと説明する。
「……無刀取り、ってやつ……」

「……へ?」
 一番驚いたのは、ジュリエッタだ。
 いつの間にか……両手に握っていた剣が……なくなっている。
 なのに、静流の攻撃をうけた……という衝撃や感触を、得ていない。
「……は、はやく」
 呆然としているジュリエッタの額を、静流が、杖の先で、こん、こん、と軽く叩く。
「剣を、拾うのです……」
 杖でジュリエッタの額を叩ける……ということは、そのまま攻撃を出来る……ということでもある。
 だが……静流は、ジュリエッタから少し離れたところに、無造作に立っているだけだった。
 肉薄するところまで、間合いを詰めた……はず、だったの。
 なのに……ジュリエッタは、静流の動きを、まるで関知できなかった。

「……別格ね、あれは……」
 シルヴィが、ため息まじりにつぶやく。
「流石は、野呂本家の血筋……って、ところかしら?」
「あれが……野呂……」
 ユイ・リィが、つぶやく。
「ああ」
 荒野は、頷く。
「静流さんは……あの目だから、一族としての教育はいっさい受けていないけど……。
 野呂のエッセンスがぎゅっと凝縮しているような人だからな。
 その……単純に、とっても、早いんだ……」
「……この間の、楓さんとは、正反対……」
 ホン・ファが、ぽつりと感想を述べた。
「技はないけど……ただ、ありあまる資質があるだけ……」

 結局、ジュリエッタは、静流にいわれるまま、かなり遠くに飛ばされていた自分の剣を取りに行った。
 対戦相手に待ってもらった……ということになる。
 ジュリエッタにしても、屈辱以外のなにものでもないのだが……それ以上に、ジュリエッタは、納得していない。というか、何が起こったのか、まるで理解していない。
「……い、いくよ」
 再び剣を両手に持ち、静流から十歩以上の距離を置いて、ジュリエッタが構える。この程度の距離なら、ジュリエッタにとっては瞬時に詰めることができる。
 と、同時に、また、ジュリエッタの剣が、また、何の感触もなく消えた。
「……ほっ?」
 静流は、相変わらず、ジュリエッタから、十歩以上、離れたところに立っている。
「は、はやく……」
 こん、こん……と、静流は、杖の先で地面を叩いた。
「……剣を、取るのです……」

「……あーあ……」
 荒野は、少しジュリエッタに同情したくなってきた。
「静流さん……かなーり、怒ってたからな……。
 徹底的に、やるつもりだ……」
「ジュリエッタをぶちのめす……ってわけでは、ないようね」
 シルヴィが、荒野の独白に、そう返した。
「うん」
 荒野は、頷く。
「そういう乱暴なのは、静流さんの趣味ではないだろうし……。
 ただ……」
「ジュリエッタに……敵わない、という意識を植え付ける……か」
 シルヴィが、荒野の言葉を引き取った。
「まあ……もともと、静流さんにしてみれば、今後、ジュリエッタさんがおとなしくいうことを聞いてくれればいいわけだから……」
 勝利条件が、違うんだよな……普通とは……と、荒野は思う。

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