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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(404)

第六章 「血と技」(404)

『いける!』
 ジュリエッタは思った。
 見えれば、位置さえ把握できれば、自分の攻撃は、届く……と、ジュリエッタは信じている。これまでの研鑽は、伊達ではない。
 ジュリエッタは混乱に紛れて拾ってきた双剣を振りかざす。
 ジュリエッタの周囲にいた者たちが、瞬時にぱっと飛びのいて、ジュリエッタの周辺にだけ、空白が生まれた。ジュリエッタの剣は長剣でもあり、あんなものを振り回されたら、相応の被害を被る……と瞬時に判断できる程度には、離れしている。
 ジュリエッタはまっすぐに自分めがけて向かってくる静流に対し、左右から挟みこむように、ふたふりの剣を振るう。文字通り真剣勝負で、この攻撃が成功すれば静流は致命傷を負うはずだったが、ジュリエッタの剣筋には迷いもためらいもない。
 手加減できる相手ではない……という感触は十分に得ていた。それどころか、少しでも手を抜けば、こちらがやられる……それどころか静流は、ジュリエッタがこれまでに対面したことがないほどの、強敵だった。
 しかし、ジュリエッタの双剣は、左右ともに静流には届かない。静流の体に届くよりも、はるか手前で止められていた。
 何に?
 白い杖と、細身の、刀身に。
 静流が、初めて仕込み杖を抜いていた。白い杖と細剣を両手に持ってジュリエッタの剣を防いだ静流が、小さくつぶやく。
「い、いきます……」
 静流が、ジュリエッタの体を取り囲むように、分身した。

「……終わり、かな?」
 静流の分身攻撃が出た時点で、荒野がつぶやいている。
 当然のことながら、ジュリエッタは静流の動きについていけない。両手に持った剣は再びはじきとばされ、取り囲まれた静流たちから滅多うちにされている。
 静流は、杖や細身の剣の、刃のついていない部分を使ってジュリエッタに打撃を加えているようで、ジュリエッタは出血するよな怪我をしてはいなかったが……この場合、肉体的なダメージよりも精神的なダメージの方が、大きかったはずだ。
 何より静流は、武器を使って相手に対して、確実にダメージを与える方法を、知らない。力任せに叩いているだけだ。
「……そうかな?」
 シルヴィが、荒野の言葉に首をひねる。
「ジュリエッタは、この程度でおとなしくなるタマではないと思うけど……」

 ジュリエッタは……静流の「動き」に追いつこうとむなしい努力を何度も繰り返していた。
 具体的にいうと、静流が繰り出す杖や細剣、もしくは手足などを掴もうと試みては、そのたびに空振りさせられている。静流の動きは、ジュリエッタの反応速度を確実に凌駕している。予測や先読みを駆使しても、ジュリエッタが静流のなにがしかを「捕らえる」ことは、不可能なように思われた。
 だが……。
『甘い……』
 と、ジュリエッタは考える。
 速度において、確かに静流は、ジュリエッタを軽く凌駕してはいる。
 だが、そのアドバンテージは、決して絶対的なものではない。
 ……優位に立っているうちに、早々に決着をつけておけばいいものを……。
 ジュリエッタは、そう考える。
 静流は……先天的な身体能力には優れていても、所詮、素人だった。
 絶対的なアドバンテージを持ちながら、急所を狙わない。攻撃の仕方が単調で、粗い。なにより……。
『……疲れて、きている……』
 残像による分身が発生するほど高速で移動し続けるのは、やはり相応に体力を消耗するのだろう。
 静流の動きは、目に見えて鈍くなってきていた。
 このままいけば、ジュリエッタでも捕らえることが可能になるまで、静流の動きは鈍る。そうなるのも、そう遠いことではないはずだった。

 そして……唐突に、静流が、とまった。
 ジュリエッタが、動く。
 少し離れたところに棒立ちになった静流向かって、踊りかかり……背中から、地面に叩きつけられた。
 起き上がり、再び静流に突進する。
 くるぶしのあたりを、杖で掬われて転倒した。
 あとは……繰り返しになった。

「立場が……最初とは正反対に、逆転していますね……」
 ホン・ファが、つぶやく。
「静流さんが待ちの姿勢で、向かってくるジュリエッタさんの攻撃を、ずべて迎撃している……」
「条件を限定すれば、ジュリエッタさんもかなり強いんだけどな……」
 荒野は、そう答えておいた。
「でも……ジュリエッタさん以上に非常識なのが、この辺にはごろごろいるから……」
 心中で……でも、ジュリエッタのそれは、武芸者の強さであって、しのびのそれではないよなぁ……と、荒野は付け加えた。
「なんというか……参考になります。
 いろいろと……」
 毒気を抜かれた表情で、ホン・ファは頷いた。
「ねえ、これ……」
 今度は、シルヴィが荒野に問いかけた。
「……いつまで続くと思う?」
「……ジュリエッタが、あきらめるまで」
 荒野ではなくユイ・リィが答えた。
「体力が有り余っていそうだから……かなり長引くんじゃない?」
「静流さんも……完全に、省エネモードに入っているしな……」
 荒野は、ユイ・リィの言葉に頷く。
「走り回っているのならともかく、ああして待ちの一手に徹していれば、かなり保つよ……」
 しかし、静流さんも……ついこの間から習いはじめた合気道のエッセンスを、実にうまくアレンジしている……と、荒野はかなり関心していた。
 基本的に静流は、まっすぐ向かってくるジュリエッタの力を、逸らすことしかしていない。つまり、ジュリエッタが静流に近づこうとしなければ、かなり体力を消耗している静流には、ろくな攻撃方法が残されていない……ということにもなるのだが……。
『……でも、ジュリエッタさん、やめないだろうなぁ……』
 みたところ、ジュリエッタは完全に頭に血が昇り、つまり、ムキになっていた。
「……まだ時間がかかりそうだし……帰ろうかな……」
 荒野は、ぽつりとつぶやく。

 息絶え絶えになったジュリエッタが、完全に戦意を喪失してその場にへたりこむまで、それから一時間以上の時間を必要とした。
 一方の静流といえば、汗一筋流しておらず、平静そのもの、といった涼しい顔をしてその場に立っているだけだった。
 これ以降、この土地での静流の威信と人気はかなり増大することになり、特に野呂系の術者の間に、熱狂的なファンが大量発生した。
 ジュリエッタはというと……静流のいうことに、絶対服従するようになった。ファンという言葉を使うのなら……この日以降、静流の第一のファンは、やはりジュリエッタ、ということになるのだろう。
 ジュリエッタは、完全に、静流に心服するようになった。



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