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はい(♀)×ろぅ(♂)×ろぅ(♀)  そのなな

そのなな 「かってしったるお隣りの家」

 両家とも一軒家同志ではあるものの、その頭に「一応」がつく安普請の建て売り住宅である。やはり「一応」庭らしき空間もあることはあるが、「猫の額ほどの」という形容詞が誠に似つかわしい面積で、雅史くんの家の玄関からおとなりのあんなちゃんの家の玄関まで、一分を要するか要しないか、というほどしか時間がかからない。
 玄関の扉を開き、ほぼ同時に「ただいまー」「おじゃましまーす」と中に入ると、四分の一に切ったスイカをさらに三角形に切り分けたものを乗せたお皿ののったお盆を手にした千鶴さんがなにやら中腰になり、なんとも形容のしようのないポーズをとって出迎えてくれた。
「あ。あ。あ。雅史くんいらっしゃい」
「おねーちゃん棒読み。それになにそのポーズ。まるで切ったスイカを今にもこちらにぶつけようとでもしているかのような」
「ス、スイカをぶつけようなんてしていませんよ雅史くんに」
「っていうか、キッチンもリビングもあっちで玄関経由する必要ないし。なぜここでスイカもって出迎えるのか? おねえちゃん変。いつもにもまして今日はへん」
「いつもにもまして、って、それではおねえちゃんが常態でヘンに聞こえるじゃないですか」
「……今ほどではないにせよ、普段からけっこうヘンというかかなりずれていると思うけど……」
 雅史くんは、漫才じみたやりとりをはじめた姉妹の横を、邪魔にならないように器用にすり抜けてリビングへと向かい、そこに飲み物が用意されていないのを確認すると、とことことキッチンに向かう。戸棚から三人分のグラス取り出し、お盆の上にのせ、よく冷えた麦茶の入ったポットを冷蔵庫から取り出し、リビングへ。リビングのテーブルの上にグラスを配置し、とぽとぽと麦茶を三組のグラスの中にいれる。自分でいれた麦茶を一口のみ、軽くため息をついてから、雅史くんは、
「麦茶がはいりましたよー」
 と、まだ玄関先で漫才を続けている姉妹に声をかけた。「はーい」とユニゾンで返答の声があがり、姉妹二人はおとなしくキッチンの定位置に座る。
「それで、千鶴さん……」
 しばし、よく冷えたスイカと麦茶を満喫し、一息ついてから、雅史くんはおもむろに切り出した。
「……なんだってぼくに、スイカをぶつけようとしたんです?」
 とたん、千鶴さんは盛大に飲みかけの麦茶を吹きだし、そのしぶきの大半は向かいに座っていた雅史くんに胸の辺りにぶつかった。
「ななな。おねえさんは雅史くんにそんなこと。あ。雅史くん、濡れたね? 濡れちゃったよね。服脱ごう服脱ごう。そのままだと風邪引くから。ほら。今からお風呂場のほうに……」
 あかるさまな狼狽から疑問符、確認、誘導、と、めぐるましく語調を変遷させつつ、なぜか最後は明るい口調になって雅史くんの手を引こうとする千鶴さんの頭を……。
「そんなにまぁくんを脱がせたいのかぁ!」
 すぱん、と小気味よく、背後からにじりよったあんなちゃんがはたいた。もっとも平手だったから、見た目よりは痛くはなさそうだったが。


[つづき]
迷った人のための、「はい(♀)×ろぅ(♂)×ろぅ(♀)」の【目次】






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