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彼女はくノ一! 第二話 (11)

第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(11)

 加納荒野が息も絶え絶えになった松島楓と才賀孫子を担いで狩野家に戻ると、何故か、才賀剛蔵が、狩野真理に向かって畳に額を擦り付けるようにして、頭を下げている最中だった。
「奥さん! そこをなんとか!」
「……ええ……でも……すでにうち、くノ一ちゃんも預かっていますしぃ……」
「いや、そこをなんとか。おれは弟の忘れ形見だと思って、孫子の奴を甘やかしすぎた。今回のことで、それを痛感した! あいつには今、対等にわたりあえる同年輩の人間が必要なんだ!」
 ……なにをいっておるのか、このおっさん……。
 ひしひしといやな予感に襲われながら、荒野は狩野真理に声をかけ、
「こいつら、どこに転がしておきます?」
 と、肩に担いでいる二人をしめす。
「あら、荒野君。ご苦労様。そうね。そもままお風呂にもっていってくれると助かるわ。こっち。今案内するから……」

 二人を担いだ荒野と狩野真理が居間から姿を消すと、三島百合香が才賀鋼蔵に近づいて、耳元に囁いた。
「ずいぶんと苦戦しているじゃないか、おっさん。どれ、一つ策を授けてしんぜよう。
 あの奥さんはな……」
 ……現ナマに、弱い。
 三島百合香の悪魔の囁きを耳にすると、才賀鋼蔵は目を輝かせた。鋼蔵は、才賀グループの会長である。すぐに動かせる現金には、事欠かなかった。

「はい。ここまででいいわ。あとはわたしがなんとかします。
 荒野君は居間にいってお寿司でも食べてね」
 と、浴室を追い出されて、荒野が居間に戻ってくると、才賀鋼蔵と三島百合香が顔を寄せて、ごしょごしょ何事か話し合っていた。
 ……イヤな組み合わせだ……。
 と、荒野は、悪寒にもにた感慨を覚えた。

「奥さん!」
 しばらくして、居間に戻ってきた狩野真理に、才賀鋼蔵は懐中から取り出した電卓にかなり大きい桁数を打ち込み、
「孫子のやつを預かってくだされば、一月当たりこれくらいの謝礼を考えておるのですが!」
 途端に、狩野真理の顔が輝いた。
「えええ。こ、こんなに! ええ。だいじょうぶですわよ。そりゃあ、もう。古い家ですけど、部屋だけは余っていますから! 可愛い女の子は、そりゃあもう、大歓迎ですわよ!」
狩野真理は、さっきの見解とは百八十度違うことを口走りはじめた。
 加納荒野は、その場で頭を抱えた。
 ……新年から始まるはずの学生生活が、どんどん不穏なものになりはじめている気が、ひしひしと、する……。

 加納荒野は、現実逃避するように炬燵の脇にのけてあった洋菓子屋「マンドゴドラ」の箱を引き寄せ、茅が食べきれなかった分のショートケーキを中から出して、手づかみで、それを食べる。
 甘い。そして、うまい。

 気づくと、周囲の大人たちが目を丸くして、荒野の顔をまじまじとみていた。
「…………荒野、今、お前、茅とまったく同じ顔をしていたぞ……」
 一同を代表して、三島百合香が、告げた。

 その頃、狩野真理のいうところの「可愛い女の子たち」は、狩野家の浴槽に仲良く使っていた。向かい合って、苦虫をかみつぶしたような顔をして向き合っている状態を「仲良く」と形容するのもなんだが、敵意を露わにしているだけで、先ほどのように行動に移していないだけ、まだしも「まし」、ではあったろう。
 バブル時に羽振りが良かった某経営者が建てた、とかいう狩野家は、平屋だが部屋数が多く、浴室も浴槽も、一戸建ての住宅のものとしてはか、かなり広い。浴槽は、二人同時に入っても余裕があるくらいの容積があった。
 狩野真理に服を剥かれ、浴槽に放り込まれた二人は、そこで睨み合いながら、出るに出られなくなり……結局、その、即席我慢大会は、二人の長風呂を不審に思った狩野真理が様子を見に来るまで、続いた。

 当然、二人は湯当たりしていた。

 介抱された二人は、居間に隣接した部屋に、ケーキの食べ過ぎで先に横になっていた加納茅のとなりに、川の字になるように寝かされることになる。

「動きが速すぎて酔いそうな画面ばかりだな」
「そ、そうか?」
 ハンディカムを持っていた荒野がこういうことには不慣れなこともあって、せっかく収録した映像も、実際に再生してみると、ほとんどまともに見れる部分がなかった。
 荒野が収録したのは三十分ほどの動画だったが、どのうち、まともに鑑賞できたのは、十数分くらいだろうか? カットとしては、
「駆け比べをしている二人を背後から追尾した部分」
「ショッピングセンターの立体駐車場で行われた空中戦」
「最後の、河原で行われた、夕日をバックにした決闘」
 などの部分は、荒野と対象者の相対速度が少なかったり、荒野自身が静止した位置から撮っていたため、画像が過度に流れたりすることなく、じっくりと鑑賞をするに値する部分となった。

 それらを居間のテレビで再生しながら、
「くノ一ちゃんはともかく、才賀のお嬢さんもよく動くな」
「忍も兵隊も動いてなんぼのものものでしね。走り込みは基本でしょう」
「そっれとなあ、ちっこいねーさん。忍とスナイパーも、自身の所在地を秘匿しながら打撃を与える、という部分は変わらねーんだ。そのために迅速な移動は必須でなぁ、おれらは『よく走る兵隊はいい兵隊』と昔から言い習わしてるよ」
「……それにしては、今回は随分派手に暴れたじゃないか?」
「その辺は、まあ、子供のやるこったからなぁ……あれだ。
 手加減抜きでやり合える相手見つけて、嬉しがってたんじゃねーか、お互い」
「それとあれだな、二人とも結構目立ちたがりな。後半、ギャラリーが増えるに従って、隙の多い大技の応酬になってくる……
 なんだよ、飯綱落しとか空蝉って!
 昔のニンジャ漫画かよ!
 そんなもん、あえてやる必然性がどこにあるよ!」
 二人が寝ているうちに、再生した映像を鑑賞しながら、そんなことを言い合っているうちに、「そろそろいい時間だから」と、加納涼治と才賀鋼蔵が腰をあげて狩野家を辞した。

 しばらくして、再び人の声が聞こえるようになって、居間の隣の部屋に川の字になって寝かされていた三人の少女は、目を醒ますことになる。
 そろそろ夜中だというのに、居間に急な来客があったらしい。
 少女たちは、黙ったままお互いに顔を見合わせて、薄く障子を開け、居間の様子をうかがった。

「そこを奥さん、なんとか!」
 炬燵の上に菓子折を置き、五、六名ほどの見慣れない中年男たちが、狩野真理に頭を下げていた。
「たっだいまーっす……あれ? お客さん? どうしたの?」
 バイト先から羽生譲が帰ってきた気配がした。
「おお。のっぽのねーちゃん。あれだ。今日の二人の騒ぎを知った商店街の人たちがな、地域活性化のために、ショッピングセンターだけではなく駅前のほうでもアレやってくれ、って頼みにきてたところでな……」
「……なるほどー……もうすぐクリスマスとか年末商戦だもんな。人寄せにはなるか、あれも……」
 羽生譲と三島百合香が、意味ありげに視線をあわせる。そして、どちらからともなく、にやり、と、笑った。
「えー。あのゴスロリ子ちゃんはぁ、くノ一ちゃんに対抗意識を持っています。くノ一ちゃんを引っぱり出せれば、もれなくあの子もついてきます」
「で、くノ一ちゃんを引っぱり出すには、この荒野君に命令させれば一発です。彼女は、この少年の命令には絶対服従です」
「さらに、この少年を動かすのには……茅ちゃんという女の子を籠絡するのが、一番です」
「茅ちゃんを動かすのには、甘いものが、もう、効果的!
 この中にマンドゴドラの方、いますか? 例えば、『マンドゴドラのケーキ一年間食べ放題』、なんて条件つけちゃたりしたら、茅ちゃん、無条件に荒野くんを動かしちゃうと思います!」
 その言葉を聞いた途端、がらりと障子を開けて居間に入った茅は、荒野の胸ぐらを掴み、
「荒野! なんだかよくわからないけど、楓に『それ』やらせるの!」
 と、荒野の首ががくがく前後に振れるのにも構わず、揺さぶりはじめた。

「お。お。お。茅! 何日かぶりで口きいてくれた! ……って、それよりも……」
 揺さぶられた荒野は、何故か頬を染めて、つい、と視線をそらし、
「…………楓、協力してやれ……。

 おれ、茅がこんなに興奮しているの、初めてみたよ……」
 などと言い出す。

「ちょっと待ってくださる!」
 それまで黙っていた才賀孫子が進み出るが、羽生譲のジャージを着せられていたのであまり絵になっていなかった。
「なんでわたくしがいっしょくたに扱われていますの!」

「ああ。それな」
 三島百合香は、平然と告げた。
「お前さんが風呂は入ったり寝てたりしている間に、お前の叔父さんがここの奥さんに頼み込んでな、お前さん、しばらくこの家に居着くことになったから。居候だいそーろー」

「ななな……」
 才賀孫子の絶叫が夜のしじまに谺する。
「……なんですってー!」

「……ねー。なんか食べるもの、ない?」
 一人、プレハブに籠もって我関せず、とマイペースで自分の創作活動に勤しんでいた狩野香也は、居間に入るなり、不自然な人の多さに驚いて目をパチクリさせている。

 こうして、狩野家の住人が、また一人増えた。

   [第二話・完]

[つづき]
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