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彼女はくノ一! 第三話 (0)

第三話 激闘! 年末年始!!(0)

 場所、狩野家の居間。
 登場人物、狩野香也、狩野真理、松島楓、才賀孫子、加納荒野、加納茅、羽生譲、三島百合香、地元駅前商店街の皆さん。
 つまり、時間的にも空間的に前回終わったところから、直接続いていると思ってください。

「……ケーキ、ケーキ……ケーキといえば……」
 視線を上に向けて、何事か思案していた羽生譲は、
「あれだぁ!」
 と叫んで、ごにょごよと傍らにいた三島百合香の耳元に囁く。
『……厭な組み合わせだ……』
 と、加納荒野は、この日何度目かの不吉な予感を覚えた。

「おーおーおー。そだな、アレを使わない手はないわな。
 なにせケーキを欲しがっている当人のだ……」
 三島百合香はハンディビデオと居間のテレビをケーブルで繋ぎ、ビデオカメラの液晶画面でこれから再生しようかとしている動画をサーチ、「これこれ。ほい、ぽちっとな」と再生ボタンを押すと、テレビの大画面に猫耳装備の茅が大口開けてケーキにパクつき、にまーっとご満悦になる様子がドアップで表示される。
「おおー」
 と、感嘆の声をあげる地元駅前商店街の皆さん。
「こんだけうまそうに食べて貰えれば、マンドゴドラのマスターも本望だろうなあ」とかなんとか、口々に言いはじめている。
 当惑し、慌てて三島百合香に取り付こうとした茅の体を、羽生譲が抱きとめて阻止していた。暴れようとする茅の体を三島百合香に渡した羽生譲は、居間の隅に放置してあったスケッチブックをとってきて、その場でさらさらと絵コンテみたいなものを描いて商店街の方々に示す。本職の順也以外にも、羽生譲と香也という二人の絵描きが居る狩野家は、普段からスケッチブックが家のそこここに平然と放置されている。
「で、な。クリスマスといえばケーキ関係かき入れ時っしょ? だからね、この子の子の顔を、こーゆー恰好、こーゆー構図でだな、プロモーションビデオ作って、商店街の街頭で流す、と……電気屋さんかなんかに、液晶のハイビジョンかなんか貸して貰ってさ……なに、そちらさんさえよければ、この羽生譲、格安でプロモビデオの作成まで請負いますぜ」
「……そのていどなら話しを通せば……」
「はー。絵、描くのうまいな、ねえさん。
 あ、あんた、ファミレスでウェイトレスやってる人でしょ?」
 三島百合香は、茅の体を抱き留めながら、耳元で「ケーキのため、ケーキのため」と『悪魔の囁き』を呟いている。そのせいか、茅の体からあっという間に力が抜けていく。
 もう束縛を解いても大丈夫だろう、と、判断した三島百合香は、
「ほんでな、この子以外にも、うちにはこーんな顔して実にうまそーにケーキ食うやついてな……」
 と、先ほどと同じようにサーチして、加納荒野がショートケーキにかぶりついて、にまー、と蕩けるような笑顔になる様子をテレビに映す。
「先生!」
 ……いつの間に撮ったんだ、そんなもん! イヤその前に……などと、荒野が抗議しようするのを、三島百合香はあっけなく制した。
「お前な、楓や才賀のお嬢さんにだけ泥被らせといて、自分は安全なところでのうのうとしていていても、いいと思っているのか?
 ケーキ一年間食べ放題だぞ。お前がごねたせいでこの話しがぽしゃったら、茅、へたすると一生お前と口くいてくれないかも知れないぞ。ん?」
 最後のが、効いた。
 この時、荒野は思った。
『……どんどん平穏な一般人としての生活が遠のいていくような気がする……』
 羽生譲は、寿司桶に残っていた残り物をもぐもぐと食べていた狩野香也に、「こーちゃんもビデオの美術関係、ちゃんと協力するように」とかいって、肩を叩いている。
「んー。絵を描くだけだったら、別にいいけど……」

 こうして、なし崩し的に一同は、地元商店街の年末商戦に参加することになる。
 全ては、一年間ケーキ食べ放題のために。

[つづき]
目次

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