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髪長姫は最後に笑う。第二章(8)

第二章 「荒野と香也」(8)

 謎のくノ一、松島楓の正体と来歴の裏をとった加納荒野は、そのまま加納涼治に連絡をとることにした。
『ああ。わたしが手配した。
 お前も、使える女手があれば、今後、なにかと便利だろう?』
 荒野の問いかけに対して、涼治はあっさりと自分の手配であることを認めた。
「だからって、あんなの半端なのを押しつけるなよ……」
『そういうな、荒野。あの娘は、あれでなかなか優秀だぞ。
 それともなにか、お前は、あの可愛い娘を……意志を持たない、殺人機械にしたいのか?』
 つまり、今回の任務が来なければ、あの松島楓は洗脳に近い処理をされて自分の意志を奪われ、たんたんと一族のいうままに任務をこなすだけの人形にされていた、というのだ。
 長い歴史があるだけあって、そのての洗脳プログラムやノウハウについて、一族にはかなり確かな技術が伝えられていた。「もはやそういう時代ではない」ということと、判断能力を奪う技術は、かえって被験者の性能を損なう、というデメリット面が重視され、ここ数十年はほとんど封印に近い扱いだったはずの技術だが……。
「……あの娘……そこまでの逸材なのか?」
『考え方によるな。養成所のスタッフの中には、使いものにならないのなら、処分した方が安全、と主張する者も多かった』
 つまり、あの娘が、まかり間違って一族に本気で刃向かってくるような事態が発生すれば、かなりの損害をもたらすことが可能だ、と、いうわけだ。
『それよりはいっそ、多少性能が落ちても、いうことを聞くだけの人形にしてしまえ、という意見は、もっと多かった』
「……じじい……」
 加納荒野は苦々しく思いで、吐き捨てるようにいった。
「このマンションには、これ以上人は住めないぞ」
 そういうのが、その時の荒野にできるせいぜいの反抗だった。
『構わなんよ。それで。
 お隣りの狩野家が、楓を下宿させてくださるそうだ』
 荒野が楓の身元を洗っている間に、早々にそういう風に話がついてしまったらしい。通話を切る前に、涼治は、
「お隣りに菓子折でももって挨拶しておけ」
 と、荒野に言付けた。
『……そこまでお膳立てが整っているのなら、もはやどうこういってもはじまらないか……。』
 そう思った荒野は、朝食をとってからまだいくらもたっていないというのにベッドに横になり、すぐに寝息を立てはじめる。
 自分が自覚していた以上にストレスを溜め込んでいたことがはっきりしたし、楓の出現により、今後、荒野の「苛立つ機会」は、さらに増えることが容易に予測できた。なにせ、彼女は養成所が太鼓判を押す「ドジっ娘」なのだ。ただ、そこにいるだけでも、なにかしら騒動を起こすに違いない。そして、その後始末をして廻るのは、どう考えても身近にいる関係者である自分であるような気が、ひしひしと、した……。
 茅も、表面上はかなり落ち着いてきたものの、荒野との関係は相変わらずの冷戦状態だし……。

 ようするに荒野は、「今のうちにできるだけ休養をとる必要性」を、ひしひしと感じていた。
 どうせ、夕方まで茅は帰ってこないし、今の時点で荒野に狩野なストレス発散法は、きわめて限定されている。
 すなわち、寝る。ふて寝。
 体力を温存することにもなるし、荒野は寝貯め、食貯めも、しようと思えばできる体質だった。
 そして、意識を失うように、即座に荒野は深い眠りに落ちる。

 体内時計の命ずるままに、夕刻にむっくり起きあがった荒野は、茅と自分の分の夕食を買い置きの食材で造り、それを食べてから外出し、ひさしぶりに自分の体を使いたかったので、ママチャリを使わずに近所の和菓子屋までひとっ走りして菓子折りを調達する。
 すでに日が落ちていたこともあり、荒野が全力で走っても、誰にも気づかれずに済んだ。
 そして、狩野家の門前にたち、
「夜分おそれいりまーす!」
 と挨拶すると、玄関から狩野真理が顔をだした。
「いやなんか、うちのじじ……祖父から言付かりまして、本日からうちの手の者がこちらでお世話になるそうで、その、ご挨拶です」

 居間に招き入れられた荒野はいった。
「……ってえか、おれ、今、手の掛かるお子さま一人抱えているから、正直そっちの面倒までみてらんねーや。
 じじいが金だしてお膳立てしくれる、っていうんなら、素直にそれにのっちまえば。
 あ。でも、茅と同じ年頃の女の子の助けは、やはり借りたいときあるから、そういうときだけは手を貸してくれ。そんときは、声かけるから」
 紛れもない、荒野の本音だ。
 もしこの場に荒野の事情を知る三島百合香がいたら、うんうんと大仰に頷いて、「お前も苦労しているなあ」と、荒野の肩のぽんぽんと叩いたに違いない。だが、この場にいる狩野家の人々は、荒野側の事情など、知っている筈もない。
 せいぜいがとこ、「そんなもんか」と思う程度だったろう。

 荒野は、居間にいるのにも関わらず、炬燵にも関わらず、恐縮して縮こまっている松島楓をみる。
 さっそく、例の「ここ一番という時にポカをする」通称「ドジっ娘属性」を発動させ、荒野と音だけは同じ名前のこの家の一人息子とを取り違えて、何事かやらかしたらしい……様子がしたが、あえて追求しなかった。いや、追求したくなかった。
 荒野は、これ以上やっかいな事に関わり合いたくはなかった。だから、潜在的なトラブル・メーカーである松島楓とは、できるだけ距離を置こう、と、そう決めていた。

「ああ。そうね。そういえば楓ちゃん、着替えももっていないのなら、お洋服買いにいかなければね。
 二、三日は香也のお下がりでもいいかもしれないけど……」
 そんな荒野の思惑には関係なく、狩野真理はにこやかに、誰にともなくそう言いはじめる。
 荒野は、真理の些末事に拘らない大らかな性格と、その笑顔に、いたく感銘を受け、救われたような気分になる。
「あ。それなら、ついでにその時、茅も連れていってくれませんか?
 おれ、女の子の服なんてわからないし、適当に選んでもらえると……」
 かかった費用は必要経費、ということで、涼治に払わせるつもりだった。
「じゃんじゃん、買っちゃってください。多少、お金がかかってもいいですから……」

 数日後、どさりと宅配便で送られてきた衣料品の「量」に悲鳴を上げることになる、とは、この時の荒野に予想できるはずもなかった。

[つづき]
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