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彼女はくノ一! 第三話 (1)

第三話 激闘! 年末年始!!(1)

「わたくしがこの家に住む、って……いったいどういうことですの!
 叔父様!」
 背後で加納荒野と下層民どもがなんのかんのと騒いでいるようだが、この時の才賀孫子は、そんなことに構っている精神的余裕を欠いていた。
 そんなことよりも、湯当たりして寝ている間に勝手に決められてしまったらしい、不本意な境遇を修正させるのが先決だった。
『そうはいうがな、孫子……』
 電話の向こうの孫子の叔父、鋼蔵の声は、意外に真剣なものだった。
『……おれは、お前を少し甘やかしすぎたと思っておる。これはそれを是正する、いい機会だ。
 お前もいずれおれの後を継いで才賀の頂点に立つ身。
 今のうちに下々の生活を実地に体験するのも、いい経験になるだろう。
 それに、な……。
 あの一族の女の子……楓ちゃん、といったかな……あの娘さんとの勝負、まだ決着がついていないんだろ?』
 鋼蔵は生まれてたときから孫子とつき合っているわけで、当然、その性格も、熟知していた。
『今の時点で引き上げたら、お前とあの娘の接点は、消える。勝負は棚上げのまま、お前が逃げ出した恰好になり、あの娘さんの不戦勝、ということになるなあ……。
 ……それでいいのか? お前?』
 孫子が絶句している間に鋼蔵は『転校の手続きとお前の荷物を送る手配は、もう済ませている』と事務的に告げて、すぐに通話を切った。

 孫子は自分の携帯電話をしばらくまじまじと見つめ、次いで、怒りで肩を震わせながら携帯電話をしまい、それから深呼吸をして気を落ち着かせて、意を決したように、炬燵を囲んで騒いでいる「下々の者」たちに向き直り、高らかに宣言した。
「わたくし、この家に住んでやることにいたしました!」
 胸を反らせ、突然、そんなことを口走りはじめた才賀孫子を、事情を知らない地元商店街の皆さんは、目をぱちくりして見上げていた。
 が、すぐに三島百合香が、
「ちょうどいい。才賀のお嬢様。
 で、だな。
 お前の配役なんだが、やっぱお嬢様は主役だろう。サンタでいいな、サンタで」
 と、被せるように、孫子の言葉を引き取る。
『……サンタ……聖誕祭のチャリティ・ショウかなにかの話かしら?』
 鋼蔵との通話に夢中になって、今までの下々の者どもの話しをまるで聞いていなかった孫子は、勝手にそう誤解する。
 基本的に彼女は、その奇抜なファッション・センスにも関わらず、深窓の令嬢として育てられている。セレブだセレブ。
 当然、世事にも疎い。
「このわたくしをさしおいて、他に、主役を張れる者がおりまして?」
 基本的方針として、孫子は、状況がよく理解できない場合、とりあえず威張ってみせることにしている。
 ……数日後、自分のために用意されたサンタのコスチュームのスカート丈の短さを実地にみて、絶句する……などということは、この時の才賀孫子は、夢にも思わなかった。
「んじゃ、楓はトナカイな。赤鼻のトナカイ。
 どうせ実際に始まれば勝手に跳んだり跳ねたり、になるんだろうけど、会場のほうはどうするね?」
「駅前広場に簡単な舞台しつらえます。オープニングとエンディングくらいそっちでやってもらえないと、人が集めにくいですし……」
「まあ、どうせ人集めが目的のチープなイベントだしな。
 その辺はスポンサーに判断して貰うとして……」
 誤解や思い違いも含めながらも、三島百合香の仕切で、着々と打ち合わせが進行していく。

「そんでだな、カッコいいほうの荒野君と茅ちゃんはもともと黙ってても絵になるルックスなんだから、下手な小細工しない。
 あの『ケーキ食って、てにまー』の顔で、十分。
 ただ、短いスポット映像だからな。サンタと、こーゆー恰好で、とか、幾つかヴァージョンか作って、だな……入れ替えながら順番に流す、っと……。
 で、うちのこーちゃんにはマットアートでこういうの描いてもらって……」
 即席の絵コンテを示しながら、羽生譲も加納荒野、加納茅、加納香也に指示を出している。
「おう、そうだ。そっちの、『うちのこーちゃん』とやら。
 こっちの舞台美術も頼む。なに、こっちはそんな凝ったことしないから、ベニヤにペンキでさっさとそれらしい風景を殴り描いて貰えばいい。
 おっと、それから、ポスターもな。タイトルも決まってないから、詳細は後で……」

 この夜が、これから年始にかけての、怒濤のイベント攻勢の、いわば前哨戦になっていたということに気づいた者は、誰もいなかった。

 翌日は日曜日だった。
 にもかかわらず、狩野家の玄関先には朝早くから四トントラックが数台乗り付け、狩野家の人々を驚かせた。
「すいませーん。
 才賀総合運輸の者ですが、才賀マゴコ様のお荷物をお届けにあがりましたー」
「わたくしの名前は、マゴコではくって、ソンシと呼びますの。
 古代中国の兵法書にちなんで、軍事史の研究者だったお父様がつけてくださった、由書のある名前です」
 朝食を中断して玄関先に出ようとする狩野真理を手で制し、才賀孫子が直接対応した。
「それになに? この大荷物。まさか、わたくしの私物、片っ端から持ってきたんじゃないでしょうね? わたくし、この家に長居するつもりはありませんの」
 孫子の「つもり」では、早々に楓との決着をつけ、実家に凱旋できる筈……と、見積もっていた。
 実際には、孫子の見積り通りに事は運ばず、かなりの長期戦になるのだが……。
「第一、この狭い家に全部入りきるわけないでしょ? もういいわ。開けて頂戴。わたくし自ら、当座、必要な物だけを選別します」

 才賀総合運輸のドライバーたちをせっつきながらの孫子の引っ越し作業は、日が暮れるまで続いた。

[つづき]
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