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髪長姫は最後に笑う。第二章(10)

第二章 「荒野と香也」(10)

 普段は締め切っている屋上に不法侵入者を発見し、駆けつけた荒野は、その後ろ姿をみて、絶句した。モノトーンで統一された、フリルとリボンがふんだんに使用されたスカート姿の侵入者は、かなーり物騒な得物を構えて、眼下に狙いをつけているところだった。
『……楓といい、こいつといい……』
 荒野は思った。
『……突発的に、ハロウィーン並の仮装をするのが、最近の日本では流行っているのか……』
 ひっそりと気配を殺して背後に近寄り、脊椎に針を突き立てて侵入者の抵抗を封じる。随意筋の大半を麻痺するツボを突いたわけだが、ミクロン単位の精度で針を使うことさえできれば、割と使い勝手がいい技術なので、こうした針の使い方は、一族の中ではかなりポピュラーな技術なのである。
「ここ、加納所有のマンションなんだよね。当然、それなりのセキュリティがあるって、少しでも考えなかった?」
 実際には、茅の徘徊癖が発現した時、「せめてマンションの周辺くらいは」、と、多数設置しておいた対人センサーに引っかかっただけなのだが、その辺の事情をいちいち説明するつもりもなかった。巫山戯た恰好はともかく、なにより侵入者はマンションの隣の一軒家……狩野家に狙いをつけていたので、看過できるものではない。
 身動きできない侵入者の手から、彼女の物騒な得物……ライフル、だった。それも、かなり特殊な……をもぎ取り、弾倉の中身を全て抜いてから、少しバラして調べてみる。見慣れないシュルエットだったので改造銃だと最初は思ったのだが、どうも、根本的な設計思想からして、既存の物とは違った、かなり独特な、銃だった。バラすときの感覚から、構成部品の精度が、現在普及している物とは桁違いに精巧であるように思えたし、標準器のディスプレイにも、なにやら目新しい数字が幾つも表示されている。「なんだこれは?」と、数秒考えて、どうやら、気圧や湿度、それに、現在地の緯度経度まで表示しているらしい、と気づいた。この調子だと、GPS搭載とかコリオリの力を自動計算して補正するような機能も装備されているのではないか、とさえ、思った。
 そのライフルは、要するに、「出来るだけ遠くに、出来るだけ確実に弾丸をたたき込む」という機能を金に糸目をつけず実現した、ちょー豪華な武器だった。
 兵器とは量産のしやすさコストの低廉さ、運用のしやすさ……までを含めて「トータルな性能」として評価されるわけで、その意味では、このライフルは、単体でどんなに高性能であろうとも、非実用的な武器といえた。
 たかだかライフルにここまで技巧を凝らし、コストをかけるのは、普通に考えれば割にあわない、も、いいところだ。それ以外にも、こんな扱いが難しそうな代物を易々と使用できるものは、かなり限られてくるだろう。
 ようするに、そのライフルの精巧さは、「精密機械」を通り越して「芸術品」といってもいいほどで……そんなものを造り、扱える連中は、世界広しといえど、荒野が知る限り、才賀の連中しかいなかった。

 才賀の「鉄砲衆」としてのはじまりは、戦国時代だと記録されている。それまでの才賀衆は、普段は通常の海運を生業としながら、ある時は金で戦に荷担し、また、条件が許せば略奪も行った。いわゆる「海賊衆」で、まだまだ日本が統一されていない当事、同じような海賊衆は、結構、普遍的な存在だった。
 ある時より、才賀の名は、「海賊衆」というよりも「鉄砲衆」として知られるようになる。金で動く兵として戦に加わる、ということは従来から行われていたが、当事の先端技術であった「鉄砲」の上手を幾人も輩出し、次第に「鉄砲衆」としての名が高まるようになっていった。
 それから四百年の年月を経て、才賀は時代時代に適応して、現在まで続いている。現在の才賀は、海運、流通、人材派遣、警備など、幅広い業種をカバーする、歴とした複合企業グループである。「財閥」と形容する者も少なくはない。海外展開も明治の頃から積極的に手がけ、資本を世界中に分散させ、独自の流通ネットワークを展開している。また、場合によっては、武力でそのネットワークを防衛するための「警備会社」も、分社として保持している。
「警備会社」という名ではあるが、下手な小国の軍事力よりはよっぽどしっかりとした兵器と鍛度の高い「社員」を抱えた、実質上、立派な「戦力」である。こうした「武装した警備会社」は日本ではあまりなじがみないが、世界的にみると、地域によっては必要とされる。
 要するに「才賀」とは、「海賊衆」と称された祖先がやっていたことを、ひきつぎ、しかし、現代的に洗練された「企業」としてスケールアップして継承している、保守的なのか急進的なのかよく分からない連中だった。
 同じように早くから「海外展開」している一族とは、仕事柄取引も頻繁にあり、現在の当主(表向きには、「才賀グループの会長」と呼ばれている)、才賀鋼蔵とも、荒野は、幼少時から何度か顔を合わせている。
 その才賀鋼蔵に、電話で「不審な侵入者」について問い合わせてみると、
『あ。それ、うちの姪だわ』
 と、即答された。それどころか、
『聞いてくれよ、荒野。それ、おれの末の弟の娘なんだけどな。そのおれの弟ってのが、おれら一族の中では例外的に頭が切れるやつでよ。一年中部屋に閉じこもってなんか難しい研究やっているようなインテリだったわけだ。でもな、そういうヤツにありがちなんだが、生まれつき体が弱くてよ。そんで、姪の孫子が。あ? ああ。そう。ソ、ン、シ。その、うちの姪の名だわ。知っているだろ? 中国のカビの生えたような兵法書。おれの弟の専攻がそっち方面だとかでな、そんな変な名前つけやがった。姪本人は気に入っているようだけどな。で、その孫子がまだ小さいときに、夫婦ともども、前後してあっけなくくたばっちまってな。それ以来、おれが引き取って育てて居るんだが、どうにも育て方まちがっちまったみたいでなぁ。いや、頭の切れぐあいは親父譲りだし、体術や銃のほうも実に立派なもんで、病弱だった親父よりはよっぽど才賀らしいといやぁ才賀らしいんだが……あの性格は、なぁ……それ以上に、けったいな恰好は、なぁ……』
 などと、生い立ちを長々と聞かされた上、愚痴までこぼされる始末。
 不審者の身元を確認しようとして、突然、「子育ての失敗が」うんぬんいわれた荒野は、黙って拝聴するより他なかった。

 その後、どうした加減か、その才賀鋼蔵と一族の長老、加納涼治が前後して狩野家に来訪することになる。
 その前後の馬鹿騒ぎも含めて、
『…………なんで、こうなる?』
 と、荒野は、そう、思い続けた。

[つづき]
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