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髪長姫は最後に笑う。第二章(11)

第二章 「荒野と香也」(11)

 才賀の当主との連絡を終えると、何故かたまたま近くにいた加納涼治から電話がはいり、「これからこちらに向かう」と、問答無用で宣言される。「そちらの家にも一度ご挨拶に伺いたいと思っていたところだ」といった後、涼治は荒野に向かって「逃げるなよ」と釘を刺すのも、忘れなかった。

 荒野が大規模な企業グループの会長と忍者集団の首領との連絡を終えるのを見計らったように、朝から連れ立って買い物に出ていた楓が、狩野家の居間に入ってきた。荒野が捕らえた才賀孫子の正体について誰何し、彼女が「狩野香也を狙撃しようとしていた」とわかると、荒野が気圧されるほどの怒りをみせ、身柄の引き渡しを要求した。荒野は、
『……なんでこいつ、こんなにムキになっているんだ?』
 と、不審に思いつつも、「くれぐれも傷つけるな」と念を押し、さらに、香也を監督に指定して、楓に孫子の身柄を引き渡した。
 この時点で荒野は、狩野香也が狩野家の養子である、という事実を知らなかったし、同じような生い立ちを持つ楓が、香也に過剰に感情移入をしている、という事実を、認識していない。
 たしかに一般人を狙撃しようとする、というのはいかにも穏やかではないが、仮にも相手は財閥の跡取りと目される人物である。現当主の鋼蔵は、その社会的地位に似合わず、割合、豪放磊落な性格で話しの分かるおっさんではあるが、可愛がっている年少の親族が傷つけられて黙っているほど「おとなしい」人物ではない……はず、だった。
 こんなことで、膨大な資産とそれなりの軍事力を保持する才賀を敵に回すのも馬鹿馬鹿しい、と、そう思った。
『……まさかそんな、大それた事もしないだろう……』
 荒野はそう思っていたのだが、相次いで狩野家に加納涼治と才賀鋼蔵が来訪した後、庭にある香也のプレハブに踏み込んでみると……半裸の松島楓が、才賀孫子の服に手をかけているところだった。
 ……あと数十分、荒野が来るのが遅れていたら、才賀孫子は、楓の暴走のとばちりを受け、純潔を汚されている所だったわけで……。

『…………なんで、こうなる……』
 才賀孫子が怒るのも当然だ、と、荒野も思う。
 しかし同時に、身体の自由を取り戻すと同時に楓に「決闘」を申し込む孫子の血気の多さも、どうかと思う。
 この辺はやはり、才賀の血なのだろうか?

『……こりゃ、おれくらいじゃあ仲裁勤まらねぇなぁ……』
 と、判断した荒野は、たまたま同じ家にいた年長の重鎮二人に、孫子と楓を諫めることを暗に期待して相談してみたところ……こいつらはこいつらで、ごく軽い調子で、
「やらしてみればいいじゃないか」
 などというとんでもないことを言いだすし……。

 内心で冷や汗を掻きつつ荒野が問いただしても、大人たちは若い者の暴走を無責任に面白がっているばかりで、一向に鎮めようとしない。

『……町中でこいつらが暴れると、いい見物になるぞ……』
 荒野は、そう思った。「忍」の一字を胸に秘め、人目に立たず、という一族の基本理念は、いったいどこにいったのだろう……。

「彼女らにはデコイになってもらう」
 涼治は、そうした疑問をもつ荒野に、事なげにそう言い放った。

 デコイ……おとり……。
 孫子は、いざとなれば才賀の力でどうにでも自分の身を守れる。
 楓は、もとより、いつ切り捨てても惜しくない存在だった。
 だから、これから長期間に渡ってこの土地に滞在する荒野が、なにかの拍子に一族としての能力や正体が露見しそうになった際、彼女らの情報をわざと流布して、荒野の存在をくらますための布石にする、と、涼治は、そういっている。
 もちろん、「彼女らの身を守りたかったら、そんなへまはするなよ」という荒野への警告も、兼ねているわけだが……。

 加納荒野にとって、加納涼治は、やはりどうにもいけ好かない、薄汚いじじいだった。直系の親族だろうと、一族の長老であろうとも、関係ない。
 好きになれない存在は、やはり好きになれないのだ。

 松島楓と才賀孫子の対決劇は、あらかじめ「過度の傷害はさけること」という条件を、半ば無理矢理両者に呑み込ませていたた。
 そのため、二人とも、相手に決定的な致命傷を与える機会と実力に目前としながらも、寸前でとどめを刺すのを思いとどまり、「決闘」と称するのには不似合いな泥仕合の様相をみせた。つまり、せいぜいどつき合う程度の衝突に止まり、じりじりと体力を削りあった結果、はきりとした勝敗をつけないまま、二人とも動けなくなって終わった。痛み分け、というところだろうか。
 制限をつけずにぶつかりあえば、どちらか、あつるいは両者ともに再起不能になるか、最悪、死亡することさえ十分に予想できたので、多少の遺恨は残るにせよ、こうした結果になって良かった、と、荒野は思っている。
 だが……。
「くノ一ちゃんもゴスロリ子ちゃんもよく動くなぁ!」
「楓はあれで、うちの秘蔵っ子ですから」
「才賀の者ならこの程度は当然だ」
 荒野が撮ってきたビデオを鑑賞しながら、こうまで無邪気にはしゃぐことができる大人たちの態度は、いったいどうしたものだろう?
 部外者の狩野真理、三島百合香、羽生譲は、の三人は、まだいい。
 だが、加納涼治と才賀鋼蔵は、それぞれの組織を代表する責任者的な立場にある、重鎮たちだった。
 時間にしてせいぜい三十分とはいえ、白昼堂々、衆人監視の中でど派手に行われた二人の喧嘩沙汰を、無邪気に喜んでいられる立場ではないはずだ……と、それまで、荒野はそう思っていた。
 それでも、実際は、加納涼治と才賀鋼蔵の二人は、楓と孫子の活躍を見て……ちょうど、運動会で子供や孫の活躍をみている親族のような顔をして、喜んでいる。
 その得意げな顔には、見事なまでに「影」がない。

 荒野の何倍もの時間を生き、何倍も、時には自分の手を汚してきた筈の男たちの、この、屈託のなさは、いったいどういうことなのだろう?

 荒野が生まれてから、せいぜい十余年。
 それでも、今まで自分がしてきたことを思い返して、時折、ふと陰鬱な気分に襲われることがある。涼治や鋼蔵は、その数倍の時間を、時として、荒野よりも過酷な環境に身を置いて過ごしてきたはずだった……。
 荒野も、涼治や鋼蔵のように年齢を重ねれば、そうしたことも吹っ切れる強さを、得られるのだろうか?

 若い荒野には、よく分からない。

 彼ら、責任のある立場にたち続ける男たちの無邪気な笑顔をみて、荒野は、かつて樋口未樹に「寂しそうに笑う」と指摘されたこと、それに、「茅を笑わせてみろ」と涼治にいわれたことを、思い起こす。

 そして、
『……本当に、心から笑ったことなのないおれに、茅を、心から笑わせる、などということがで、本当にきるのだろうか……』
 と、ほとんど絶望的な気分に襲われた。

 そして、そんな気分になった時でも、荒野は、普段からの習性によって、人好きのする笑顔を顔面に張り付かせているのだ。

[つづき]
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