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髪長姫は最後に笑う。第二章(12)

第二章 「荒野と香也」(12)

 このように荒野は、表面的な愛想の良さとは対照的に、内面では様々な葛藤や鬱屈を抱えている。ころころとよく表情を変える、狩野家の人々と戯れているときの茅は、そんな荒野にしてみれば、まぶしく見えた。
 マンションの部屋で荒野と一緒の時は茅は、感情の起伏をみせることが極端に少ない。最近では、会話もしないような状態だったので、ここでみた茅の溌剌とした様子は荒野を驚かせ、面食らわせもした。

 荒野は、茅が新しい表情を見せる都度にいちいち驚き、身にしみついた偽装の笑顔ではなく、ごく自然に自分の頬が緩んでいくのを感じた。
 こんな開放感を感じたことは、荒野が子供の時分以来、絶えてなかったことで、その日、狩野家の今にいた人々の馬鹿騒ぎに便乗しながら、荒野自身も、実は非常に楽しんでいた、ということを、痛感した。
 その解放感は同時に、荒野が、普段から、「いかに自分の見せかけを取り繕い、周囲の視線を意識して、『加納荒野』という役を意図的に演じてきていたのか」ということを、荒野に意識させる契機となる。
 今まで「一族の一員なら、そうするのが当然」と思い、あまり意識していなかったが、こうして自分の感情を素直に解放できる機会に恵まれると、常時他人の目を意識して振る舞い方を決定している従来の荒野のあり方は、やはり、不自然で窮屈に思えた。
 荒野は、そうした「自分の在り方」を、ここにきて、考え直す必要があるのではないか、と、思い始めている。
 それまでの荒野は、一族の、六主家の跡継ぎとして育てられることに、なんの疑問も持たずに、上からの指示を忠実に遂行する存在だった。言いつけられた任務を遂行するための能力もあったし、唯々諾々と従う自分についても、今まではなんの疑念も抱いていなかった。場合によっては、自分の手も、かなり汚してきた。

『……だが、別の生き方も、世の中にはあるのではないだろうか?』

 この土地に来て、狩野家の人々をはじめとする様々な人と触れ、初めて荒野は、これからの自分の人生について「別の選択枝」も視野に入れはじめた。

 茅とこの土地で平凡な学生として暮らし、茅の笑顔を取り戻す。それが荒野の当面の仕事だと、聞かされている。なんのつもりでそんな、どうとでも解釈できる抽象的な仕事……クリアすべき最終目標が、明示されていない仕事を、涼治と一族の上層部が荒野に申しつけたのか……。
 その真意も、未だ見えない。
 しかし、この土地に長期間滞在することになる、ということは確かだった。
 この猶予期間は、茅の件に取り組むのと同時に、自分の事を見つめ直すのにも、いい機会だろう……。
 荒野は、そう思った。
 荒野がそう思うことも、涼治の予測の範囲内のかも知れなかったが。

 三島百合香が再三指摘するように、茅の発見時の状況は、あまりにも「不自然」だった。荒野の父親に当たる、狩野仁明とともに、何者かが大がかりな仕掛けを施した、ということは、推測できる。が、その意図や目的とするところは、やはりわからない。
 この時点で荒野は、「茅を隔離された状況で育てたのが、一族上層部の意志に従ったものである可能性がある」と思い始めている。「右手がやっていることを左手が知らされていない」ということは、内部に様々な対立を抱える一族の中では、よくあることだった。
 ただ、肝心の「何故、わざわざそんなことをしたのか?」という部分の推測もつかない状態なので、今は、そうと断定すべきではないのだろうが……。

 いずれにせよ荒野は、自分が本当の意味で笑いはじめているのを、感じていた。

『……そばに茅がいて、その茅が笑っていると、おれも楽しい……』

 荒野は、そうしたシンプルな因果関係を、自覚せざるを得ない状況にある。
 今の荒野には、その認識さえあれば、充分なような気がした。

 そんなことを考えながら、荒野がだらしなく頬をゆるめていると、

「ああ、それでな、カッコいいほうの荒野君。君にもやってもらうから。
 髪の色に合わせて、茅ちゃんが黒猫耳で、君が白猫耳。
 美男美女の猫耳カップルのお澄まし顔が、ケーキを食った途端、にやーっ、て、なる。うん。絵になる。猫耳サンタ服バージョンの他に、新年向けに羽織袴と振り袖ヴァージョンも撮っておこうか」
 などというとんでもないことを、羽生譲が言いだす。

 押し掛けてきた地元商店街の皆さんは、荒野がケーキを食べた時の顔をあらかじめ見ていたので、いっせいに「いいですなー」みたいなことを言い出す。追従でもお世辞でもなく、羽生譲のアイデアに本気で感嘆している。
「ま、これでお前ら、あと一年はマンドゴドラのケーキには不自由しないぞ。よかったな? ん?」
 三島百合香も、明らかに面白がっている様子で、ぽんぽん荒野の肩を叩く。
「はい。たった今、マンドゴドラのマスターからOK貰いました。
『そんなに旨そうに食べる奴なら、顔を拝みたいから明日にでも連れてこい』っていってます」
「おし。
 荒野と茅。明日もどうせ暇だな。
 マスター直々のお呼びだ。マンドゴドラには喫茶コーナーもあったはずだから、顔見せついでに存分にご馳走になってこい!」

 なんだか当事者に意志を確認する前に、いや、確認する気もさらさらなく、どんどん周囲の者の手はずでまとまっていく……。
『……うわぁ……』
 だが、横の茅の表情をみた途端、荒野は、絶句し、次いで、抵抗を完全に諦めた。
『……茅……やる気満々だよ!』
 茅は頬を薔薇色に輝かせていた。目の輝きからして、普段とは、全然違う。

 ここで荒野が断ったりごねたせいで話しがポシャッたら、茅との関係修復は絶望的になるような気がした。
 内心で嘆息しつつも、荒野は茅の頭に手を置いて、
「……茅……一緒に、やろうな……」
 と、いった。
 茅は、ぶんぶん、と、頭を縦に振る。

 その夜、何日かぶりで、全裸の茅が、荒野のベッドに忍び込んできた。

   [第二章・了]

[つづき]
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