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彼女はくノ一! 第三話 (4)

第三話 激闘! 年末年始!!(4)

 その年の年末、羽生譲は例年以上に多忙だった。
 通常のバイト。突発的に発生した、商店街関係のお仕事のマネジメント。それに、この時期恒例の……。
「ういっす。おひさしぶりっす。羽生っす。どうっすっか、今年は? もうそろそろ修羅場ちっく天国の時期なんすが……。ああ? 男が出来たから足を洗うと? ……しゃあーねーなー。あー。はいはい。おしあわせに。いいよ気にしなくて。別口当たります。
 次。ちづさんか……。はい。どうも譲先輩です。そろそろ年末恒例の例の季節ですが、予定的にどないなもんでしょうか? はあ? あ、妹さんもコミで参加してくださる、と。そりゃよかった。ええ。今年のも萌え萌えっすよ。原稿の量も当社比五割り増しでさー。聞いてくださいよちづちゃん。さっき電話したらさくらのヤツ男に走ってこれないとか……」
 とにかく、その年の年末、羽生譲は例年以上に多忙だった。

 きっかけは迷子をみつけたことだった。
 商店街の隅で泣き喚く四、五歳くらいの女の子を見つけた着ぐるみ姿の松島楓は、さっそく駆け寄ってとりあえず、宥めようとした。どうやら、一緒に来た保護者とはぐれたらしい。精神的にかなり不安定になっていたらしく、楓が声をかけても首を振って泣き喚くだけで、一向に気を静めようとしなかった。
 しっしょになっておろおろしかけた楓は、「あ。そうだ」といい、
「これ、みてください」
 と、その場でトンボを切った。
 泣き続ける女の子あの子よりも、たまたま周囲にいた通行人が、突如始まったパフォーマンスに、まず足をとめた。
「ハイ、ハイ、ハイ。こっちみてください」
 相変わらず泣くばかりで楓のほうに注意を向けようとしない女の子の気を引こうと、楓の動きは徐々に派手なものになっていく。女の子と楓を中心に、小さな人の輪ができはじめる。楓の技が高度なものになっていくにつれて、奇妙なざわめきが周囲に起こり始める。
 周囲の雰囲気が少し変わりはじめたことを察知した女の子が顔を上げると、
「あ。ようやくみてくれた」
 と、「頭上から」声がして、その声の主が、すとん、と女の子の直前に降り立った。
 顔の真ん中に、テニスボール大の赤鼻をつけた、トナカイ。
 トナカイは、「はやく泣きやんでくださいね」と、唖然としている女の子の目の前で、連続して三度トンボを切り、そのうち、最後のは、空中で軽くひねりをいれていた。
 楓が着地すると、周囲か拍手が起こり、泣くのも忘れた女の子が、半ばあっけにとられて楓の演技をみているうちに、人垣をみつけた女の子の母親が、向こうから声をかけてきた。
 こんな事があってから、楓が配るチラシは、俄然、受け取って貰えるようになった。

 楓のチラシがそれまでにない勢いで受け取られはじめると、才賀孫子も「負けてはいられない」とばかりに、対抗意識を燃やし始める。
『なるほど。ああやって人目をひけばいいのね……』
 孫子は、人の注目を浴びるのは、嫌いな方ではない。
 容姿に恵まれた孫子が普通に立ってチラシを配っているだけでも、実は通常のバイトよりはよっぽど効率よくチラシを受け取らせていたのだが、こんな仕事をした経験のない孫子には、そのあたりの基準値が分かっていない。
 効率、ということ以外に、衣装のせいもあってか、時折、男性のねっとりした視線を浴びることもあり、そのあたりの状況も改善したかった。
『ただ受け取ってください、よりも、付加価値をつけた方が、気もち良く受け取って貰えるのは、道理ですわよね……』
 才賀の家系は、商人の家系でもある。
 基本方針を決めると、孫子は、自分に可能な「今すぐ、自分が何の準備もなしにできることで、人の足を止めることができる技能」を脳内で検索。この場に相応しいもの、として、「賛美歌」を選択した。孫子は、ミッション系のお嬢様学校に通っていた関係で、かなり本格的な物が歌える。なにより、もうすぐクリスマス、というこの時期に、相応しい。

 孫子は、やや広めの面積のある駅前広場へと足をむけ、そこで、朗々とした美声で五分ほど賛美歌を歌い始めた。
 プラカードを持ったミニスカ・サンタの美少女が、突如、その場にそぐわない荘厳な歌声で主を讃える歌を歌い始めると、何事かと足を止める者が続出する。
 もちろん、宗教的な、敬虔な気持ちから、というよりは単純な好奇心、あるいは、孫子の歌の、商店街の猥雑な雰囲気にそぐわない見事さに聞き惚れているだけなわけだが、孫子にしてみれば、集客効果さえあれば、それでいい。
 五分ほどして、歌い終わった孫子が、足を止めた聴衆に向かって優雅に一礼をすると、割れんばかりの喝采があった。
 孫子がチラシを配りはじめると、少なくとも足を止めた人たちは、競うように受け取りはじめる。こういうサービスを初めて以来、孫子をいやらしい目でジロジロと見ていく者の数も、めっきり減った。

 二人のチラシ配りが始まって数日するもと、二人が商店街にたつのを目当てに人がくるようになった。先週末のショッピング・センターでワイヤーワークみたいな立ち回りを演じたのが彼女らだ、という噂が、どこからか流れたためだった。
 その後、たまたま二人の姿を撮影した写真や動画がネット上にも流れ、直接の目撃者以外からは、半ば「ネタ?」扱いされながらも、一部で話題になり、その直後に、才賀と加納の合法非合法の干渉により、ネットから二人のデータが一斉に削除される、という顛末があった。
 たった一晩、ネット上にあっただけの二人の決闘は、一斉にデータが削除されたことによりかえって信憑性を強め、ある種の都市伝説のように口伝により、ネット上を広まっていった。
 そこに、「某所商店街に、夕方になると出没するチラシ配りがいて、それがどうもあの二人らしい」という噂が、どこからか、流れはじめる。

 真偽のほどはいつまでたっても明らかにされなかったが、確かにその商店街と、例の騒動があったショッピング・センターは距離的にさして離れていなかったし、商店街に立つミニスカ・サンタの娘とショッピング・センターのゴスロリ・ファッションの娘の顔つきは、記憶を辿ってみても、よく似ているように思えた……。
 途中から半裸になったくノ一のほうは、終始覆面姿だったので、体つきは記憶されていても顔を覚えている者はいなかった。ので、今やアクロバッティックな動作以外にも、どこからか調達してきたバトンでジャグリングの真似事までして通行人を楽しませるようになっていた「赤鼻のトナカイ」と「くノ一」が同一人物かどうか、確認できる者は皆無だった。
 そんなわけで、知らない間にネット上で口伝てに存在が知られていった松島楓と才賀孫子は、県外からも好奇心旺盛な暇人たちを呼び寄せ、商店街に数年ぶりの活況をもたらした。彼女らを目当てに出向いてきた人々は、彼女らの手からチラシを積極的に受け取ろうとしたし、それなりに商店街の店舗にも金を落としたので、地元からも喜ばれ、歓迎された。チラシを配っただけ賃金が支払われる、という契約だった二人も、当然、喜んだ。
 そんなわけで、二人が商店街でバイトをすることは、大概の人間に喜ばれた。
 たまに公道を座り込んで長時間占有したりゴミを捨て散らかしたりする、最低限のマナーさえわきまえない者がいたりもしたが、そうした者たちはミニスカ・サンタと赤鼻のトナカイに容赦なく叱責された。ミニスカ・サンタと赤鼻のトナカイの二人は所詮臨時雇いのバイトであり、したがって、単なる通行人を「お客」として丁重に扱う必要もない。
 そうした光景をみた見物人や商店街の人々は、溜飲の下がる思いがしたし、また、叱られた者自身がかえって商店街のリピーターになる、というような奇怪な現象も、何度か目撃された。

 じわじわとテンションを上げつつあった商店街のそこここに、ある日、駅前広場で「クリスマス・ショー」を開催、うんぬんというポスターが、張られはじめる。
「これ、あんたたちが出るのかね?」
「はい。みなさんお誘い合わせの上、きてくださいね」
 相手は子供だったり老人だったり男性だったり女性だったりする大きなお友達風だったりするが、二人がそういう問答をする回数が、日を追うごとに増えた。

 そんな中、才賀孫子は、商店街の裏町に夜出没する、もう一人のサンタクロースと知り合うことになる。もちろん、サンタクロースの恰好をしたサンドイッチマンと、ということなのだが。

[つづき]
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