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彼女はくノ一! 第三話 (5)

第三話 激闘! 年末年始!!(5)

「……さて、と、今日は……」
 隣のマンションに住む加納兄弟を、撮影場所の写真館に連れて行く日だった。
 照明機材が揃っている、ということで、商店街の店舗の中でも古参の写真屋さんに話しをつい、衣装をレンタルして、メイクなども行きつけの美容院のスタッフに協力して貰うことになった。あとは、当人たちを連れて行き、撮影するだけである。
 羽生譲がマンションの一階の入り口で、インターフォンで加納兄弟の部屋を呼び出すと、カッコいいほうの荒野君から返事があり、すぐに兄弟連れだって外に出てきた。
 兄の方は、その年齢の割には長身で、愛想がよく、クォーターだとかで彫りが深く、短めのプラチナブロンド。妹のほうは、背はさほど高くはないは、腰まで届く黒髪と大きな目が印象的で、普段は結構表情豊かなのだが、ときおり、すっと静かにしていると、どこか神秘的な雰囲気を漂わす美少女。
 二人ともスリム、というあたりがかろうじて似ているのかも知れないが、それ以外はあまり類似がみあたらない兄弟だった。
『……この間会ったおじいさんと荒野君は、わりと似てたけどな……』
 タイプは違うとはいっても、二人とも人目を引きつける美形であることには変わりなく、特に二人揃って並んでいると、とても絵になる……。
 羽生譲にとっての、加納荒野と加納茅の印象は、そんな感じだった。謎のニンジャ集団の関係者、ということは知らされているし、この間はバイクに乗っているところを荒野と併走されて、そこ事実を改めて思い知らされてもいたのだが、そのあたりの背景には、羽生譲はあまり関心がないし、また、普段、あまり意識してもいない。
「今日は寒いし、タクシー呼んでおいたから……」
 羽生譲は、外に出てきた兄弟を、車内に招き入れた。駅前までは、歩くとなると結構離れている。

 いつもより枚数が多すぎるため、日曜だけでは間に合わなかった。結局、香也は、期末試験期間中の放課後の時間をかなり消費して、同人誌の原稿の大半をあげ、水曜日の夜、羽生譲に手渡した。
「おー、お見事。いつもいつも手が早いねー」
 渡された原稿をチェックしながら、羽生譲は関心した。二百枚近い原稿を、下書きとはいえ、わずか四、五日ていどで全て仕上げたことになる。
 ……それでいて、筆は荒れていない……。
 羽生譲が、彼我の才能の開きを意識するのは、こんな時だった。
「でも、まだ、カラー原稿は手をつけてないし……」
 狩野香也は相変わらず淡々としていた。
 同人誌とはいっても、表紙と口絵ぐらいはカラーを使う。その分コストもかかるが、モノクロオンリーとカラーとでは、会場での目立ち方が全然違う。特に表紙の出来不出来は、売り上げに大きく影響した。
 羽生譲も狩野香也も、アマチュアとしては不純なのかも知れないが、「お金のために」という意識が強かったので、一番手を抜きたくないパートでもあった。
「……そっちは、試験休みに入ってから片づけるから」
「うん。こんだけできてれば、今日明日にでも招集かけられるから、それで十分だわ」
 今年のコミケは師走の三日間が予定されていた。印刷に原稿を回すのは、最高に遅くて二十五日前後。できれば、その前に上げたい……。
 つまり、これから一週間くらいが、ちょうど正念場ということになる。

 この期間は、香也の学校の試験休みの期間とも、かなり重なった。

 その年最後の定期試験が終わった事を告げるチャイムが鳴ると、ちょっと脱力したような声が教室内でのそこここから聞こえてくる。
 早々に「起立、礼」の声がかかり、開放感に包まれた生徒たちは、ざわめきながら数人づつたむろしたり、帰宅の準備をしたりしている。学校中の教室で、今頃同じような光景が展開しているのだろう。
 香也は、級友のだれも語り合うことなく、そそくさと筆記用具を鞄に放り込み、廊下にでた。そして玄関口で、樋口明日樹に捕まった。
「や」
 試験期間の前後を含め、樋口明日樹とは、一週間前後顔を合わせていないことになる。
「試験、どうだった? って、狩野君はそんなこと気にしないか……」
 当然のように、一緒に帰ろう、という事になった。どうせ方向は一緒だし、樋口明日樹も、そのつもりで声をかけてきたのだろうし……。
「あの」
 連れだって帰ろうとする二人に、声をかけてきた女生徒がいた。
 香也と同じクラスの、たしか……。
「……柏さん、だったっけ?」
 学年の違う樋口明日樹のほうが、香也よりも先に名前を出す。
「可愛い」ということで、割と顔が知られている生徒だった。一見華奢な外見に似合わず、小さい頃から空手を習っている体育会系だったりする。この学校には「空手部」がなかったので、水泳部に所属している。
「試験、どうだった?」
「聞かないでください!」
 明日樹の問いかけに、柏あんなは、悲鳴のような声を反射的にあげていた。
『……なるほど……』
 と、樋口明日樹は思った。
『……こういう子なわけね』
「……それよりも、狩野君。
 家、こっちのほうだったっけ? じゃあ、この住所の狩野って家、ひょっとして……」
 柏あんなが示したメモ用紙には、狩野香也の住所が書かれていた。

「では、これより第ン回、ポロリもあるよ! 女だらけの修羅場ちっく天国、怒濤の冬コミ攻略籠城合宿を開始する!」
 羽生譲のワルノリ気味の宣言を、
「ポロリはありません」
 と、柏あんなの姉、柏千鶴がやんわりと訂正する。
「初日である本日は、今回から初出場する選手が多いことから、自己紹介から開始することにする! まずは、筆頭であるわたし、羽生譲。
『師匠』ないしは『にゅうタン』と敬愛を込めて呼ぶように!」
 このあたりのボケには誰も突っ込まなかった。
「それで、わたし、柏千鶴です。譲先輩の高校時代の後輩にあたります。常連です。また萌え萌えな原稿がナマでみられて幸せです」
 大学生くらいの、ほわほわーっとしたおねーさんだった。
「おねーちゃんから声をかけられた、初参加の柏あんなです。クリスマス・プレゼント代を稼ぎにきました……」
 姉の千鶴と顔立ちは似ていたが、雰囲気的に姉よりもシャープな印象があり、それでいて、女の子らしい柔らかさも感じさせる少女だった。
「……っていうか、本当に、これ全部、狩野君が描いたの? 結構、タッチが違うのが入り交じっているんだけど……」
 たしかに、柏あんながぱらぱらとみていた原稿の束の中には、ロリプニの太くて柔らかい線と、BL系の細い線、アニメ調の均質な線、モロ「エロマンガ」っていう感じの質感のある線などが、入り交じっていた。
 羽生譲の後ろでぼーっと座っていた狩野香也は、無言のままこくこくと頷く。
「うちのこーちゃんはすごいよー。人間コピー機だ。画家が駄目でもマンガ家のアシかアニメーターにでもなれば、今すぐにでも戦力になれる」
 羽生譲が請け負った。
『……意外な人に、意外な特技……』
 柏あんなは、半ば呆れた。
 学校での狩野香也は、一学期の途中までは「不登校の生徒」、それ以降は、極端に口数の少ない、影の薄い生徒ということになっている。少なくともクラス内には、友人と呼べる人間はいないのではないだろうか? あんなは、狩野香也がクラスの人間と親しく会話してる光景を、みた覚えがない。
「松島楓です。この家で居候やらせてもらっています」
 背はあんなと同じくらいだろうか。そのかわり、全体のフォルムが、あんなよりはよっぽど曲線的な少女が、にこやかにそう挨拶した。太っているわけではないのだが、なんか全体に丸っこい。特に、胸。
『…………胸だけなら、飯島先輩に匹敵するな……』
 柏あんなは、内心で冷や汗をかいた。
『……それにしても、居候って、今時……』
「才賀孫子。同じく、事情があってこのご家庭に寄宿させていただいている身です。お金が欲しいので参戦いたしました」
 言葉遣いは丁寧だが、言葉の端々に、なんとなく緊張感があった。
『……こっちは、キツめの美人さんかぁ……。
 ……なんなんだ、この家は……』
 柏あんなは、そう思い始めていた。
『そういえば、おねーちゃんの先輩だっていう人も、狩野君とは姓が違うし……』
 どてら姿でおちゃらけてはいるが、羽生譲も、容姿だけをみれば、充分に美人の部類に入るだろう。
「……あの……樋口、明日樹です……。狩野君と部活一緒で、この家にも結構きてます……」
 ちょっと引き気味に、樋口明日樹が挨拶をした。
 まさか、「ここに揃った美女\美少女軍団に危機感を持って、今日、急遽、参加を決めました!」などという本音をいえるわけもなく、また、目の前にこれだけの上玉が揃っていると、もともと「比較的地味な容貌」ということに自覚のある明日樹は、自然、声も小さくなってしまう……。
 明日樹は、
『なんなのよ! この状況は!』
 と叫びだしたかった。

 樋口明日樹の前途は多難だった。

[つづき]
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