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髪長姫は最後に笑う。第三章(4)

第三章 「茅と荒野」(4)

「……一番わけ分からんのは……」
 茅の話しを一通り聞き終えた後、訪れた静寂を、三島百合香が、破る。
「……なんでそんな手間暇をかけ、茅を隔離していたか、ってことだよな。動機だ、動機。
 そんなコトして、一体誰が得するってんだ? ン?」
「……その辺は、おれも前々から不審に思っているけど……」
 荒野も、三島の意見に、賛同は、する。
「ぶっちゃけ、全然予測つかない。
 なんか、すっげぇ基本的な部分をおれらが見落としているか、それとも、おれらに渡されてない情報に、なんか重要な意味が隠されているのか……」
「……やっぱ、わたしらに渡された情報には、欠落があると思うかね?」
「あるんじゃねーの。あの、じじいの事だし。
 知る必要のない情報は、くれないと思う……。
 第一、茅の話しだと、おれの親父、主犯というよりは下っ端だよ。誰かの命令か指示を受けて、荷物運んでいた連中とグルになって、チームとして動いてる」
「やっぱ……茅を隔離してたの……お前らの一族、なのか?」
「ああ。多分ね……。
 茅の話し、聞いた限りでは、親父も無理矢理従ってた、っていう風でも、ないようだし……。
 あー。身重のお袋ほっぽってなにやってたんだよ、親父……。お袋の身内に見つかったら、無事じゃすまねーぞ……」
 加納荒野の母は、よりによって、六主家の中でももっとも勇猛で血の気が多く、個人的な戦闘能力では群を抜いている、という定評のある、「二宮」の出、なのである。おまけに、二宮は、六主家の中では「秦野」に次いで、身内の結束意識が強い……。

「あー。三人揃っているし、ちょうどいい機会だから、おれら一族のこと、軽く説明しておこうか……」
「一族」と総称される集団の中枢には、古い血筋を誇る六つの血族が存在する。「家」毎にそれぞれ代を重ねて磨いてきた特性があり、どうやら起源は、まちまちらしい。「六主家」は、時に軽く対立しながらも、今ではお互いの存在を利用し合い、共用のバックアップ機構を組織、維持している。
 それら、「六主家」と、様々な民間企業に偽装された膨大なバックアップ組織をひっくるめた緩やかな集団を総称して、「一族」と呼ぶ。

「で、おれのお袋が出た『二宮』ってえのが……」
 筋力や反射神経、体術など、個人的な戦闘能力の向上を求め、代を重ねて交配相手を選び、技を磨いてきた、「最強」の名を恣にする血縁集団。

「……で、集団戦闘に強いのが……」
「最強ではないが、勇猛」と呼ばれる、「秦野」。
 その起源は古墳時代にまで遡り、その頃の渡来氏族の末裔……「六主家の中でも、もっとも古い家系」……と、自称している。
 同じ血族内での近親婚を推奨していて、一人一人の顔つきや体つきも、かなり似ている。
「こいつらは、『均質化』に特化している。人数も、一番多い。血族内部での意志統一が堅強で、個を捨てて足並みを揃えて敵に向かう。決して、ひるまないし、逃げ出さない。自己犠牲を当然とし、常に、最小の犠牲で最大の戦果をだす」
 モンゴロイド特有ののっぺりとした、目尻のつり上がった表情の読めない顔……に囲まれた外国の連中は、彼ら秦野を「レギオン」とか「クラスタ」と呼んで、恐れている。
 ……とも、つけ加えた。
 ちなみに「二宮」は、「オーガ」とか「ジャガーノート」とか「カーリー」とか、破壊神系のあだ名をつけられることが多い。

「この二つが、六主家の中でも武闘派……ま、どっちも、敵には回したくない相手、では、あるんだけどねー……」

 ほかに、単独行動を好み、俊足と五感の向上、判断能力を特化し、適地潜伏や斥候を得意とする「野呂」。
 同じ潜伏でも、完全に現地にとけ込み、長期的な情報収集を得意とする「姉」。
 洗脳や催眠、集団心理操作に対して膨大な実効的ノウハウをもち、知略に特化した「佐久間」。
 これら、三家は、戦闘能力ということでは「二宮」や「秦野」に遅れをとるものの、地味ではあるが確実に任務を遂行する。「忍らしい忍」、といえるかも知れない。

 実際、一族の仕事の中で実際に武力が物をいう局面は結構限られていて、二宮や秦野が活躍するのは、仕事が失敗したときの「残務処理」であることが多い。この手の血なまぐさい「残務処理」を、一族では「荒事」と呼ぶ。

「……まあ、実際は、それぞれの血族が自分たちの利益のために他のヤツラを利用したり、されたりしているわけで……結束、という点でいうと、かなりゆるーい集団なんだがね……」
 つまり、「一族」は、決して一枚板ではない。
「……冷戦終結以後は、じじいが長老やってっけどさ……」
 東西対立が確とした時代は、姉の者が首領の座についたし、もっと前、日本が世界中を敵に回していた時代は、ほとんど佐久間の土壇場だった……。
 そのように、時代時代の特性に合わせ、一族全体の性質も変化させる柔軟性があるのだ、という……。
 だからこそ、この時代まで生き残れた、と、荒野はいった。

「で、肝心のお前ら、加納の得意技ってのはなんだ? ン?
 お前らも、六主家の一つなんだろ?」
「加納は、突出した特性を持たない。平均的な能力と知力。
 揶揄を込めて『凡庸なる加納』と呼ぶヤツも多い。揶揄を込めないときは、『偉大なる凡庸』とか、いわれる」
 平均的な能力をもつ、ということは、裏を返せば、これといった弱点がない、ということでもある。
「加納の特性をあえていうのなら……」
 早熟と長寿。どのような状況にでも、どうにか対応できる柔軟性。そして、……。
「外交能力。癖の強い他の六主家の間の緩衝とか……それに、一族と、その他の人々の窓口になることも、多い……」

 加納の者は、体が早く成熟し、また、平均寿命もかなり長い。二宮や秦野のように、死に急ぐ傾向もない……。
 個体の寿命が長いことは、個々人が蓄積する経験値も多くなる、というこを意味する。いわゆる「年の功」というやつだが、これは、交渉の場では、かなりの有利をもたらす。

「外国のやつらは、外見上はあまり年齢をとらない加納の者を、エルフと呼ぶこともあるよ……」
 六主家の簡単な説明の締めくくりに、荒野は、そうつけ加えた。

[つづき]
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