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髪長姫は最後に笑う。第三章(5)

第三章 「茅と荒野」(5)

「……もともとは、どっかの武将に飼われてたり、決まった主を仰がず気ままに請負い稼業でやっていたのが、日本が統一されちまってかなり生き難くなって、それでも代々磨いた技を捨てるのがしのびなくって……次第に合流していって、一部、海外に流れって再び合流していったりして……」
 次第に現在の「一族」としての形態を整えていった……と、いうことらしい。
「六主家のうち、自出を公言しているのは、秦野だけ。
 姉崎は、天正時代あたりに一旦海外にでて、いろいろな土地をさすらいつつ、何百年かかかって明治期に『一族』に合流。
 野呂は、たぶん、代々金次第で仕事を請け負うフリーランスやってたんだろうなぁ……。
 二宮は、子飼いかフリーかどっちかわからんけど……『おれより強い奴に会いに行く』ってノリのやつらだから、飼うほうにしてみれば、いつ寝首を掻かれるかわからないやっかいな存在になったはず。
 佐久間は、多分、どっかの子飼いで代々技を伝えていたのが、主家がつぶれて行き場のなくなったところで『一族』入り……まあ、あそこは極端な秘密主義なんで、推測だけど。
 加納は、秘密主義ではないけど、あんま過去に執着しないので、記録が残っていない……」
「……よくもまあ、そこまで反りが合わなさそうなのが、今まで、まとまっていられているもんだ……」
 荒野の説明を咀嚼した三島百合香が、率直な感想を漏らした。
「それも加納の交渉力……って、いいたいけど……あれだ。
 多分、代々受け継いできた異能の技を、自分らの代で消しちゃう、ということに対する恐怖感だけは共通しているから、それでなんとかまとまってこれたんじゃないかな。今まで」

 アイデンティティの保全、自己保存への欲求。
 そのためには、反りの合わない、嫌いな相手とも協力し、共生しあった。
 生物として、ある意味、とても正しいあり方だ。
 たしかに、六主家それぞれの血族が単独で存続しようとするよりは、まとまった「一族」として活動し続けるほうが、生存確率は高そうだった。
 三島百合香の頭の中で、なにか、漠然とした思いつきがチリチリと音をたてて自己主張をしはじめた。
『そのあたりに、なにか重要なヒントがある』
 と。
 だが、曖昧なインスピレーションはそれ以上は明確な形にはならず、口に出すこともなく、その日はそのまま解散、ということになった。

 三島百合香が帰って二人きりになると、茅が、
「荒野。欲しい物があるの」
 と、切り出した。
「なに?」
 荒野は、即座に尋ね返す。茅のほうからなにかをねだる、というのは、これがはじめてではないだろうか?
「自転車」
 ……なるほど……。
 このマンションからだと、茅が通う図書館へも、マンドゴドラのある駅前へも、徒歩では遠い。バスの路線がないわけでもないが、朝夕の決められた時間以外は、一時間に二本とか三本くらいしか通っていなくて、交通の便的には、かなり不便だった。
「買うのはいいけど……茅、自転車には、乗れるのか?」
「乗ったことないの」
 その日は、そのまま二人で茅用の自転車を買いにいき、「前に籠がついているのがいいの」ということで、少しスポーティなデザインのシティ・サイクルを購入した。
 その後、近所の児童公園で自転車に乗る練習をした。
 晴れた日曜日ということもあり、その、さほど大きくない公園には、小さな子供や子供を連れた親たちがそれなりに出歩いていて、いい年齢をした茅が、何度も転びながら自転車に乗る連中をする様子は、それなりに注目を浴びたが、二人ともあまり気にしなかった。たまに若い母親とかに話しかけられることもあって、その時は、荒野が茅の頭を叩きながら、
「こいつ、長い事、病院生活してたもんで……」
 みたいなことを説明した。
 茅は、発見されてから一年前後、ほぼ寝たきりの生活をしていて、その時に萎縮した筋力を蘇らせるためのリハビリ作業を必要としたほどだから、まるっきり嘘というわけでもない。
 何度も転びながらも茅は、決して諦めようとはせず、結局、二時間ほども練習をしたら、荒野の手助けなしでも自由に乗り回せるようになった。
 三島百合香が以前いったとおり、新しいことを学ぶことにどん欲で、飲み込みも早いほうだよな、と、荒野は思った。

 それから数日間は、茅と荒野にとって穏やかな日々が続いた。
 二人で買い物にいったり、図書館にいったり、その帰りにマンドゴドラに寄ったり……。
 それまで、同居しながらも離れて暮らしていた期間を挽回するかのように、できるだけ二人で行動した。

 そんな中、ある日、羽生譲に導かれ、商店街にある写真館に向かった。
 サンタとか振り袖に羽織袴とかのコスプレをしながら、ひたすらケーキを与えられ、食べまくり、その映像を撮られまくる、という……。
 ようするに、この前に、いつの間にかやることを約束させられていたマンドゴドラのプロモーションビデオの撮影、だったわけだが、レフ板とかハイビジョン対応のビデオカメラとか、どこからか調達してきた機材は結構本格的で、羽生譲の知り合いとか行きつけの店とかに応援を頼んだとかで、ヘアメイクとかメイクさんまでが来ていた。
「あら? ひょっとして、未樹ちゃんがいってた子たち?」
 近所の美容院からきたというおねーさんは、荒野たちの髪を整えつつ、そう言葉をかけてきた。
 茅の長髪と荒野の髪の色は、二人で連れ立っているとかっこうの目印になるらしい。
「うーん。本当、聞いていた通り。茅ちゃんは見事なおぐしねー。手入れ行き届いているし。
 荒野君は、ちょっと半端な長さになってきているから、気が向いたときにでもうちのお店に来なさい。学生割引もあるし、それ以外にもサービスするから。荒野君、土台がいいんだから、もっと磨かなくてはだめよ」
 と、名刺を渡され、しっかり営業されてしまった。その直後に、荒野は茅に手の甲を抓られた。

 髪の色に合わせた白と黒の猫耳をつけた茅と荒野が、真剣な顔をして見つめ合っている。
 BGMのクリスマス・ソングの音量が、徐々に高まっていく。
 お互いの目を見つめ合ったまま、おもむろにケーキを取り出し、それを食べ出す二人。
 ケーキを口にした途端、二人の表情が一変する。
 画面が、「ケーキのご用命はマンドゴドラへ!」と書かれたイラスト・ボードへを切り替わる。

 羽生譲が制作したビデオは、結局ただそれだけの、いっそ素っ気ないといっていい、三十秒ほどのスッポット・ムービーだった。
 同じ構図で、赤いサンタ服ヴァージョンと、振り袖に羽織袴ヴァージョンとがあり、最後に表示されるイラスト・ボードの背景も、二人の服装に合わせて、「雪景色の中にある、煙突つき煉瓦の家に樅の木」と「富士山と門松」に変わった。
「横顔ばかりではなく、二人の顔を正面から撮ったほうがいいんじゃないのか?」
 という関係者の声も多かったが、統括していた羽生譲は、譲らなかった。
「情報は、ある程度制限されていたほうが想像力をかき立てられるもの。
 それに、これ、マンドゴドラの店頭で放映すること前提にしているし……茅ちゃん、もう、あの店に入り浸っているって話しだろ?」
 茅ほど頻繁に、ではないが、荒野もそこそこ顔をだしていた。
「で、だ。
 ディスプレイの中の美形さん二人が、店の常連さんとして、実際に時折に店に姿を現す所、もう随分目撃されているわけだ。
 噂になるっつうか、話題性という意味では、これで十分なんじゃない?」

「……モデルさんがいいと……」
 カメラを担当したのは写真館のオーナーで、何十年も証明写真や記念撮影をしてきただけあって、照明のあて方や光源の設定などは、流石に堂に入ったものだった。
「……写真も映えるねぇ……。
 ん。それに、こうして実際にやってみると、動く写真も、なかなか乙なもんだ。
 こういうのを、デジタルっていうのかい?」
 デジタルだったため、撮影したその日のうちにデータを持ち帰った羽生譲は、そのまま自分のパソコンに取り込んで編集作業を開始、徹夜で完成させ、何枚かのDVDに焼いた後、茅や荒野をはじめとする関係者各位に配布して、反応を伺った。
 おおむね好評で、
「シンプルだけど、かえってそこがいい」
 という声が多かった。

 羽生譲は、電気屋さんが提供する液晶の大型ディスプレイを、マンドゴドラの喫茶コーナに据え付ける作業に立ち会った。
 ディスプレイ自体は、「どうせ店頭展示品だから」と快く貸してもらえたが、天井にスチール製の支柱を据え付け、そこにディスプレイをぶら下げる作業も、結構大がかりだったにも関わらず、タダでやってもらえた。
「いいよね。この映像。
 これからは、夕方のサンタとトナカイとか、こういうプロモーション、どしどしやるべきなんだろうなぁ、この商店街も。
 いや、おれも、商店街のホームページくらい作ろうって前々から言ってるんだけどさ。どうも、ここ、年輩の方が多くてね。ネットがどういうものかいまいち理解してないみたいなんだなぁ……」
 据え付け工事をしながら、電気屋の親父さんはいった。
「おねーさん、そっちのほうの仕事も、できる?
 かっこいい見本作ってくれたら、おれ、みんなを必死で説得しちゃうんだけどな。年寄り連中はいいけど、若い人も多いんだから、夢みられる環境、作らないとな。
 やってくれるんなら、サーバはおれが提供するし……」
 その電気屋さんは、ここ数年、量販店におされ、家電だけでは心許ないので、数年前からパソコンのパーツや自作キットの販売にも手を広げていた。
 羽生譲にしてみれば、この手の仕事は大歓迎だった。
「これからクリスマス・ショーの準備もあるし、それ以外の仕事もあるから……」
 ということで、プレゼンまでは協力できないが、簡単なサンプルは制作する、ということを約束する。幸い、htmlとかの基礎知識はあったし、フラッシュやCGIについても、必要になれば声をかける当てはあった。これで、羽生譲はなかなか顔が広い。
「さてさて。忙しくなってきました」
 羽生譲が、モデルの荒野たちに、ネットでの映像公開の許可を求めると、とりあず保留、という答えが返ってきた。その返答を待つ間、羽生譲は、松島楓と才賀孫子の街頭パフォーマンスを収録するために、ビデオカメラを抱えて夕方の商店街に立つ。
 それ以外に、もう二、三日もすれば、恒例の同人誌合宿の手配もしなければならないのだ。
 この年末、羽生譲は多忙だった。

 羽生譲から打診をうけた荒野は、自分の姿がネットに公然とさらされることに危機感をもったが、編集済みの映像を添えてメールで送り、涼治に問い合わせると、
「茅、かわいいじゃないか」
 などという、とんちんかんな答えが返ってきた。
「これくらいのことでびくつく必要もなかろう。せっかくかわいく撮れてるんだ。世間様にも見せてお上げなさい」
 などと、一族の長老とは思えない、暢気なことを言いはじめた。

[つづく]
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