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彼女はくノ一! 第三話 (9)

第三話 激闘! 年末年始!!(9)

 狩野香也の復帰により、混乱した戦線は収拾するかにみえた。
 人物のペン入れのみをやらせておくと、一時間に三枚から四枚も消化してしまう香也のペースに、かえって他の者たちの処理が追いつかず、慌てて羽生譲と柏(姉)は、樋口明日樹が担当する背景、ならびに、才賀孫子の担当するトーン、ホワイト処理に戦場を変える。香也の速筆に追い立てるようにして、一枚、また一枚、と、原稿が仕上がっていく。それにつれて、後回しにされていた、あまり技能を要求されない、階調無しの塗りつぶしのみベタや、消しゴムかけの作業の方が、滞りがちになり、「半完成原稿」のストックが蓄積された。
 そんな時、援軍である加納兄弟が、新たに戦線に投入された。

「キター!」
 徹夜続きでテンションが妙に上がっている羽生譲はいった。
「カッコいいお二人。頼むからこれやってくんろ。これに、消しゴムかけて鉛筆の線、消してくれればいい」
 どさり、と、半完成原稿の束を置く。かなり、ため込んでいる。
「おーし! こおの調子なら、イブの前までには、かたずけられっぞー!」
「おー!」
 と、ここ数日、同じ釜の飯を食ってきた戦友たちが唱和する。
 羽生譲ほど寝不足にしていた者は流石にいないが、連日に渡り同じ部屋に籠もって黙々と単純作業をしているうちに、脳内からなんかヤバ気な汁でも出てくるらしく、揃って羽生譲のヘンなテンションに引きずられていた。

「わー。黒猫ちゃんと白猫くんだぁー」
 二人の到着を一番喜んだのは、柏(姉)だった。もともと視力の悪い柏(姉)は、眼鏡とコンタクト状況により使い分けているが、目に負担がかかるデスクワークを長時間しているため、ここ数日はもっぱら眼鏡を着用している。
「ビデオより、実物のほうが、ずっとかわいー」
 その後、羽生譲に「手を止めるな」と叱責され、原稿に向かいながら、「お隣りさんちの黒猫ちゃん、この頃すこしーへんよー、白猫くんたら読まずに食べたー」
 と、色々混ざってすでにかわけの分からなくなった替え歌を歌い始める。半分以上、壊れているかもしれない。

 正直、加納荒野と加納茅の二人はそのノリについていけず、かなり引き気味になった。

「おねーちゃん、やめてよ! 恥ずかしい!」
 隣に座っている柏(妹)が肘で姉をこづく。
「いいんですいいんですぅ。姉は、妹のようにクリスマスを共に祝う相手もなく、一人寂しく無意味にリアルに描かれたおちんちんにモザイク代わりのトーンを貼るのです。貼り続けるのです……」
「あれ? 夏に、なんかげとできそうな男いる、とかいってなかったか、ちづちゃん?」
 羽生譲は作業する手を止めずに尋ねる。
「いいんです、先輩。彼、あれからすっかり大学に来なくなって……たまに来ても、すれ違いで、なかなか顔を合わせられないんです。薄倖のわたしは、精液の質感を出すためにホワイト処理をするのです……」
「……あー振られたわけじゃないのか……そうだよなあ……ちづちゃんなら、そうそう振られるわけないよなぁ……」
「それにしても、ゆず先輩、ここ凄いですね。非常識に強い人、いっぱい」
「……わ、わかるの? 見ただけで、そういうの……」
「これでも、長年合気道をやっているのです」
 あまり関係ないような気もするが、眼鏡を光らせてそう断言されると、奇妙な説得力がある。
「この中で一番強い白猫くんを、百、とするとぉ……」
 柏千鶴は、ぐるりと周囲を見渡す。
「サンタさんとトナカイちゃんがだいたい拮抗していて、六十から七十くらい。
 一般人でもそこそこ、の、わたしとあんなちゃんがー、二十前後?」
 ちなみに、武道とかの心得のない人は、十前後だと、つけ加えた。
「……んじゃあ、その、ちづちゃんスカウターで計測すっと、ちづちゃんが狙っているって彼氏ってのは、なんぼよ?」
「やだなー、先輩。わたしが見初める人ですよー。桁外れに強いに決まってるじゃないですか……」
 柏千鶴はコロコロと笑った後、
「うーん。でも、かなーり慎重に隠しているし、正確なところはなかなかわかりずらいんですけどぉ……推測も交えて低く見積もっても、だいたい、二百五十から三百くらい? かなぁ……」
 首を傾げて考えつつ、事なげに、そういった。
「ええー!」
 と、加納荒野の実力を知る松島楓と才賀孫子が、反射的に大声をあげる。
 口々に、「そんな人、いるわけない」と言い立てるのだが、当の加納荒野が、
「いや。いるよ、この町に。おれよりずっと強い人。この前、会った」
 原稿に消しゴムをかけながら、なんでもない調子で、当の加納荒野が断言した。
「図書館で肩叩かれて、
『こっちの世界にも、君みたいなの、いるんだ』
 って、声、かけられた」
 殺気はまるでなかったが、荒野は産まれて初めて、二宮の人間と相対する時以上の威圧感を感じた。
「バイトで正義の味方やっているから、なんか困ったことがあったら声かけてくれって、名刺、渡された」
 でも、その人は、それ以上こっちの物語に関与することはないのであった。

「……でも、ゆず先輩、よかったですねー。ずっとこのお家に住めて……。
 高校辞めた時には、どうなるかと思いましたけど……」
「……ああ。うん。馬鹿親父の尻ぬぐいで、先生がわたし込みでこの家引き受けてくれた形だな……」
「え? あれ?」
 松島楓が、きょちょきょとと辺りを見回す。
「譲さん、ずっとここに住んでいるんですか?
 この家、競売にかけられそうになったものを、ご主人が、お知り合いの方から相場の半値以下で譲られたって、聞いてたんですけど……」
「……だからさ、その、商売に失敗してしこたま借金こさえて、夜逃げ同然で娘捨てった馬鹿親父と、先生が、たまたま昔っからの知り合いでさ……。
 先生、その頃何とか絵が売れはじめた所でまとまった金あったし、真理さんと結婚したばかりで住むところ探してたし、で……。
 ちょうどいいや、ってんで、当事の有り金ほとんど全部馬鹿親父に渡して……。
 馬鹿親父、これを幸いと借金取りから夜逃げ同然に、失踪……わたしは、どさくさに紛れて、この家に居候しているってわけ……」

 先生も、懐が深いよなぁ……。
 こんな、見所がないわたしを、ちゃんと弟子扱いしてくれるし……。

[つづき]
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