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彼女はくノ一! 第三話 (12)

第三話 激闘! 年末年始!!(12)

 その日、狩野香也は朝食をすませると、そそくさと庭にあるプレハブに引きこもる代わりに、庭に出てベニヤ板にペンキを塗り立てる作業を開始した。明日からの駅前のイベントで使うものである。舞台美術、とかいうやつで、楓や孫子の舞台の背景になるはずの代物だった。一応、絵の範疇には入るので、香也にまかされている。ペンキを扱うのははじめてであまり自信はなかったが、香也に仕事を割り振った羽生譲は、当然のように強気で、香也自身以上に、香也のことを信頼しているようだった。
 三時間ほど描いて、いつの間にか昼になり、松島楓に呼びに来られ、昼食をとることになる。プレハブへ籠もりがちな香也への連絡係は、以前なら、だいたい羽生譲、譲が不在のおりは狩野真理が行うことになっていたが、最近……というより、楓がこの家に住むようになってからは、楓の仕事になっている。誰かが呼びに来ない場合、香也は腹が減ってどうしようもなくなるまで、何時間でも黙々と絵を描いている。
 居間に入ると、羽生譲や才賀孫子とかの同居人たちのほかに、加納兄弟も来ていて、家具調の大型炬燵にようやく収まりきるようなけっこうな人数での、賑やかな食事となる。少し前まで、この大きな家には、不在がちの主人を除いて三人の住人しかおらず、それを考えると、嘘のように賑やか光景だな、と、香也は思う。
 忙しそうに台所と居間を往復する狩野真理は、忙しそうにしながらも、結構、嬉しそうだった。
 ……真理さん、基本的に、人の世話を焼くの好きだしな……。

 食事を終えると、まず、あちこちに用事があるという羽生譲が席をたち、これから買い物に行く、といって、加納兄弟もそれに続く。それを機に、香也も庭に戻ったのだが、羽生譲も同行して、ベニヤの背景絵について二、三やりとりし、「その程度でいいよ」ということになって、香也は、後片付けをした後、プレハブに向かった。
 しかし、それからすぐ、三十分もしないうちに、呼び戻されることになる。
「……えっとぉ……」
 いつもは元気よく飛び込んでくる松島楓が、なぜか、引き戸を三十センチだけ開き、顔だけを覗かせている。
「……そのぉ……制服、届いたんですけど……」
 しばらく躊躇した後、そういってようやく全身を見せた。
 たしかに、香也の学校の、ブレザー・タイプの制服を着た松島楓が、そこに立っていた。

 楓に即されて居間にいくと、同じように制服姿になった加納兄弟と才賀孫子、それに、私服姿の、見慣れない顔の男女のペアがいた。
「へぇ? みんなうちの学校に転入してくるの? 来年から?
 ふーん……別嬪さんの転入生、団体様でお着き、だなあ……。
 新学期になったら、学校のやつら、騒ぐぞー」
 見慣れない顔の、女性のほうがそういったので、どうやら香也と同じ学校の生徒であるらしい、と、判明する。基本的に香也は、総じて他人への関心が薄く、クラスメイトの顔さえ、ろくに覚えていない。
 軽く自己紹介しあうと、
「知っている知っている。よく樋口と連んでいる子でしょ」
 と、いわれた。
「樋口とは部長会で一緒になるしな。クラスは違うけど、向こうは文化部代表、こっちは運動部代表みたいな感じになっているんで、それなりに話すよ。早く君を落として年の差カップルをカミングアウトして仲間になろう、とけしかけている」
 香也本人を目の前にして、あっけらかんとそういいはなち、ははは、と笑う。
 飯島、と名乗ったその少女は、くるくるとよく表情が変わり、加えて、加納荒野への対応などを見ても、繊細な心遣いもできる性格のようで、香也は、好感をもった。加納兄弟と同じマンションに、父親と二人暮らしだという。同伴している栗田という少年と、付き合っているらしい。

 その後、三学期から香也の学校に通うことになっている加納兄弟、松島楓、才賀孫子の制服姿を、じっくり検分したわけだが……正直、彼らは似合い過ぎている、と、思った。
 というより、今まで身近に話すことが多いのであまり意識することがなかったが、こうして、日常的に見慣れた学校の制服に身を包んでみると、改めて、「……美男美女揃いじゃないか……」ということに気がつかされる。

 エキゾチックな顔だちに、ちょっとワイルドな雰囲気を漂わせつつ、その実、にこにこと愛想のいい、加納兄。
 対照的に、腰まで届く黒髪を背負い、純和風な雰囲気を漂わせる加納妹。
 女性らしい曲線的な体のフォルムと、健康的に頬を輝かせる笑顔がまぶしい、松島楓。
 きゅっと切れあがった目尻と強い目線が印象的で、胴体が短く手足が長い、日本人離れしたプロポーションの才賀孫子。

「彼らが揃って外を歩いていると、さぞかし壮観だろうなあ……」という思いと、
「……同じ制服を着て並んで歩くと、ほかの生徒たちが霞んでしまうだろうな……」という思いが、交錯する。

 迂闊といえば迂闊だが、他ならぬ香也自身が、新学期から、彼らと肩を並べて登校することになる、ということには、この時の香也は、思い至らなかった……。

 加納兄弟が「買い物にいくから」といって狩野家を辞したのを機に、飯島舞花と栗田精一のカップルと香也自身も外にでる。
 庭のほうに歩いて行くと、「へぇ。そっちで絵を描くんだ。家でも。熱心だねえ。今度、絵を見にいっていいかな?」と、飯島舞花に声をかけられる。
「好奇心旺盛な人だなあ」と内心で思いつつ、香也は、とりあえず、「……んー……どうぞ」と答えておいた。社交辞令、という可能性がある。いや、そうである可能性の方が、高い、と、香也は判断する。
 基本的に香也自身は、自分の絵や才能に対して、過小評価する傾向がある。

 それからプレハブに戻って作業を再開したわけだが、なぜか、いつもに比べて集中力が続かず、早くも四時前後には、「……そろそろ休もうかな……」という気分になってしまった。基本的に香也は、マイペースかつゴゥイング・マイ・ウェイな人間だが、時折、年に数回は、気が乗らない日もある。
 午前中、慣れない作業をしたためか、同人誌での作業の疲れが抜けきっていないのか、それとも、最近の環境の変化が、ようやく精神的な疲労として現れてきたのか……。
「……考えても、しかたがないか……」
 香也はのろのろと後片付けをしはじめ、プレハブを後にする。気が乗らない時に描いても、ろくな成果を出せない、ということは、経験上、よく分かっている。
 母屋に戻ると、狩野真理が食事の支度をしているところだった。
「あら、こんな時間に? 珍しいわね。もう沸いているから、先にお風呂はいっちゃいなさい」
 といわれ、「……んー……」と生返事をして、浴場に向かう。
 最近、人口が二倍ちかくになった関係で、風呂に入るタイミングが難しくなってきた。いや、他の住人は全員女性だから、多少ブッキングして一緒に入ることができるが、香也の場合、流石にそういうわけにもいかない。
 入れるときに入っておくのが、確かに得策だった。
 服を脱いで湯船に浸かると、「……ふぅー……」とため息が漏れた。寒い、ということもあるが、基本的に香也は長風呂である。絵を描いている時の次くらいに、いつまでもぬるま湯に浸かって、うとうととしているのが好きだった。幸い、狩野家の浴室は、この家の以前の持ち主の普請道楽を反映してか、個人住宅のものとしては、不釣り合いに大きい。浴槽など、大人二人が同時に入って手足を伸ばせるほど大きく、夏場など、狩野真理から「ガス代節約のため、シャワーのみ」の令がでるほどである。
 そんなわけで、頭だけを外に出して、お湯に浸ってうとうとしていると、いきなり脱衣所の戸がガラリと開き、

「じゃーん! ひっさびさのお風呂イベント発生!」
 と、素っ裸の羽生譲が入ってきて、香也が反応する間もなく、どぽん、と、浴槽に飛び込んできた。

[つづく]
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